対応ルールが体系化されていない

斉藤 末冨先生が長年研究されているイギリスの学校現場では、こういった刑事事件化しづらい事案に、どのように対処しているでしょうか?

末冨 イギリスでは性暴力に限らず、いじめや差別発言など生徒の問題行為を学校側がどう対処するかが、政府ガイドラインで事細かに定められているんです。たとえば、ある生徒から「他の生徒からつきまといをされていて、困っている」という訴えを教員が受けたら、後ほど詳しくご説明する「安全保護主任」という責任者と校長に報告を即時するよう、ルールとして決まっているんです。

また、生徒の問題行為はかなり精微に定義されています。たとえば、他者を叩く行為は「いじめ」ではなく「暴力行為」と認定されます。そこではサッカーのイエローカードのように、明確な警告ルールが設けられ、イエローカード3枚でレッドカード、つまり外部の矯正機関で認知行動療法のプログラムを受けることを校長が命令する、といった仕組みが確立されているんです。フランスも類似の仕組みを運用しています。

斉藤 治療は「命令」なのですね。日本では性加害者がプログラムを受けるかどうかは、あくまで本人の自由意志に委ねられています。たとえば、執行猶予の判決が出たとしても治療命令はなく、本人が希望しなければ治療にはつながりません。司法と医療の連携がきわめて脆弱です。

これは成人の性加害者についての事例ですが、イギリスでは「治療的保護観察」という厳格な仕組みがあります。刑務所出所後も一定期間はプログラムを受けさせたり、ホルモン療法を受けている場合は血液検査で血中酸素濃度を確認したりして、取り組みが不十分であれば再収監するようです。

このイギリスの治療的保護観察のように、日本でも加害児童・生徒に認知行動療法のプログラムが義務づけられていたら、より早い段階で性加害の問題に取り組めるようになるはずです。本来こうした橋渡しは、私のようなソーシャルワーカーが得意とする分野なので、なんとも歯がゆい思いをしながらも長年、法務省に訴え続けているところです。

末冨 学校現場における性暴力への対応が体系化されていない点が、日本の最大の課題です。教育委員会や校長の力量に依存したままでは、子どもを守りきれない。これは、早急に改善しなければなりません。