まさか、準々決勝で大阪桐蔭が姿を消すとは予想だにしなかった。今年は甲子園大会だけでなく、大阪予選の頃から大阪桐蔭の試合を見ていたが、その打力は抜きんでていた。
印象的だったのは、試合序盤に打ちあぐんでいても、3巡目、7回あたりで必ずといっていいほどに攻め立てていたことだ。7回といえば、投手、野手とも疲れが出る頃。しかし大阪桐蔭のバッターたちは足元が崩れず、スイングの鋭さ、力強さが失われることがない。
足元が崩れないということは、彼らが常日頃から相当にバットを振り込んできた証といえるだろう。おまけに十分に相手チームのデータを取り、打席で活かしている。これなら春夏連覇を期待されるのもうなずける、と思って見ていただけに、野球はわからない。
「大本命」大阪桐蔭敗退。続々と甲子園を去った“プロ注”選手たちの本当の評価
夏の甲子園は、ドラフト会議に向け、プロのスカウトが集結して選手たちのプレーをチェックする、いわば「ショーケース」でもある。今年も好素材の選手が続々と集まったが、そうした選手をスカウトではなく打撃コーチの目線から“診断”して貰うとしたら。近鉄、ヤクルトなどで打撃コーチを歴任してきた野球解説者の伊勢孝夫氏に話を聞いた。
大阪桐蔭・松尾はプロならどこも欲しい「強打の捕手」

甲子園大会でも各チームの選手を見させてもらったが、やはり目についたのは大阪桐蔭の打者たちだった。特に3番を打つ捕手の松尾汐恩君。聖望戦ではホームラン2本打って話題通りの長打力を見せた。高校生であのパンチ力は秀逸だ。
地区予選から変わらず、しっかり鍛えた下半身でバットを振るから打球の勢いも違っている。マスコミで取り上げられるのもうなずける逸材だと思う。
ただ、打ちにいくとき、バットを捕手側に引きつける傾向があるのは少し気になった。これだとプロのレベルでは速球についていきにくいのだが、この程度のことはプロに入ってからでも修正が容易なポイント。まずはこのまま伸びて欲しいと思う。
ほかでは、同じく大阪桐蔭4番の丸山一喜君。長距離打者らしい打球の軌道が特徴的で、すぐに木製バットに順応できるスイングをしていた。かつては金属から木のバットに移行するためのフォーム修正に時間がかかるといわれていたが、最近では高校生でもプロ志望者は練習から木のバットを使っていたりするから、昔ほど対応に苦慮することはないのだろう。
大阪桐蔭では1番でサードの伊藤櫂人君もプロが関心を持つレベルだろう。タイプ的には中距離打者でホームラン連発というタイプではないが、足が速く、守備範囲も広く肩もいい。実戦向きでプロでも比較的早く、1軍で起用されるタイプかと思う。
高松商、浅野のスイングには惚れ惚れした
今大会、個人的な見どころと考えていたのは、大阪桐蔭の打者のように、しっかりしたスイングが出来る打者を他県のチームで探すことだった。そうはいないだろうと思っていたが、唯一、見つけたのは高松商の外野手、浅野翔吾君。
身長は170センチと小柄だが、思い切りがよい鋭いスイングは、見ていても惚れ惚れした。佐久長聖戦だったか、彼は真ん中、内角気味の直球をライトへのホームランを放った。これは決して流して打ったわけではない。
本人はレフトかセンター方向に引っ張ったつもりの打球がライトに飛んだだけ。それだけの思い切りはセンスもあるが、技術といえるだろう。バットを振り込んできた努力が伺える。
あとは九州学院の村上慶太君か。お兄ちゃん(ヤクルトの村上宗隆)と比較してしまうのはかわいそうだが、センスの良さというか、打ち崩されたときでもスイングが悪くない。正直、今はまだ卵も卵、ひよっこにもなっていないが、しっかりと育てれば好打者になるだろう。ヤクルトが獲りに行ったら面白いのだが。
投手ではやはり、近江の山田陽翔君がバツグンに感じられた。身体全体が使えて、腕の振りもいいからボールも伸びてくる。極端な話、もし私がスカウトならば、一球見ればもう見る必要がないと思うレベルだろう。ただし、今の時点でこれだけ完成度が高いと、今後の”伸びシロ”という点に若干の不安がないわけではない。
プロ目線では「高校生はあくまでも素材」という言いまわしがある。どれだけ優れていても、まだ身体が十分にできあがっていない高校生は、そもそも即戦力としてアテにすべきではない。打者なら最低2年くらいは2軍でじっくりと鍛え、プロのスピードと変化球の精度の高さに慣れさせる必要がある。投手もしかり。
そういう意味では、未熟であればあるほど、成長したときのことを想像して楽しくなるのが、「人を育てる」と言うことだろう。
あと“番外”では大阪桐蔭高で甲子園の2回戦に先発登板した2年生の前田悠伍君が光った。スライダー、チェンジアップなど変化球も精度が良く、なにより左投手で140キロ台半ばの直球を投げるのは貴重な存在だ。
まだ2年生なので今秋ではなく来年のドラフト対象だが、間違いなく好素材だと感じた。こうした選手が来年、もうひとまわり大きくなってくれるのを待つのも、高校野球を見る楽しさというものだ。
構成/木村公一 写真/共同通信社
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