「マスターズの注目度が飛躍的に上がった要因として挙げられるのは、まずボビー・ジョーンズがつくったトーナメントであるということ。そして、始まってほどなくジャック・ニクラウス、アーノルド・パーマー、ゲーリー・プレーヤーなど、時代のビッグスターが続々と登場しきて、大活躍したというのもあります。
そこに拍車をかけたのが、テレビ中継です。マスターズのラジオ中継が始まったのが、1954年。テレビは1959年です。テレビ中継の話が持ち上がった時、マスターズ委員会は、カラー中継をしてほしいと強く言ったんです。これには中継するCBSもびっくりした。カラー放送が始まってそれほど経っていない時代になかなか厳しい要求だったといえるでしょう。
いったいいくらかかるのか? しかもカラー中継に対応するカメラやミキサーなど、その周辺機器を屋外で使うなんて、当時はあり得ないこと。ほこりが入っただけで機材がおかしくなるという時代です。それをオーガスタナショナルがお金を出して、真っ先にカラー中継を始めたんです。
そして、この企画をCBS側で進めたのがフランク・チャーキニアンというプロデューサーなんだけど、すごく優秀な人でね。すでに全米オープンなどでゴルフ中継は手掛けていたけれど、カラーにしたことで何が変わるのかと、いろいろ考えた。
まず水や芝、それから草花の色。こういうのはきれいでなきゃいけない。オーガスタの池の水は、着色しているんです。USケミカルという会社の会長がオーガスタのメンバーで、魚などの生き物が死なない染料を作ったんです。この技術は特許だそうです。
それと、現在では常識になったけど、リーダーボードのアンダーパーの数字を赤にしたのもチャーキニアンです。そうするとパッとひと目でアンダーがわかりますよね。見る人にとって、より親しみやすくなるアイデアをたくさん出したんです。
さらに、テレビのケーブルは埋め込み式にして地下を通した。そうすることで、ギャラリーにとって目障りかつ動線を阻害するケーブルを排除することができた。また、中継用のテレビ塔はイントレと言いますが、それをプレハブで毎年作るのではなく、丸いタワー式の常設施設を建てました。これもチャーキニアンのアイデアです。
マスターズの開催時期も大きなポイントで、4月第1週というのはちょうど冬から春への移り変わりのタイミングになるわけです。この時期、例えばニューヨークなんかはまだ寒い。そこに春のきれいな映像が流れると、やっぱり見てしまうと。
1月に開催されるソニーオープンinハワイ(今年は松山英樹が優勝)もそうですよ。アメリカンのメインランドの東部では真冬のすごい雪で震えあがっている時期に、常夏の映像を見ると、あぁ行きたいなと思う。これ、人情ですよね。
以上のようなことは、マスターズが毎年同じ時期に同じ場所で開催されるという、他のメジャーにはない、オリジナリティによるものです。
ゴルフ中継が米テレビ界最高栄誉のエミー賞を受賞⁉︎ マスターズを「特別」にした驚くべき演出の数々
いよいよ4月7日に幕を開ける今年のマスターズ。史上4人目の連覇が期待される松山英樹をはじめ、世界中の選ばれしマスターたちが、この世のものとは思えないほど美しいオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ(GC)で、ゴルフの祭典を繰り広げる。 その様子をパトロンとして現地で直接見られるギャラリーは約5万人。しかし、テレビの前で“鑑賞”する大多数のマスターズフリークにも、単なるゴルフトーナメントの域を超越した映像が提供される。というわけで短期連載の第3回目は、その演出をテーマとし、マスターズ取材歴40回以上のJGA(日本ゴルフ協会)公認ライターで、ゴルフ評論家界のレジェンド、三田村昌鳳さんに話を聞こう。
短期連載・マスターズはなぜこんなにも「特別」な大会なのか
第3回 こだわり抜かれた演出

マスターズのテレビ中継でプロデューサーを務めたフランク・チャーキニアン/Getty Images
アイデア満載のカラー中継が人気を押し上げた

オーガスタ・ナショナルGCの池は着色されているという/Getty Images
1975年、白熱のマスターズが「エミー賞」を受賞
テレビ中継に関して、チャーキニアンが意識して実践した特徴的なことにスピード感があります。ゴルフってだらだら見ているとかったるくなるんです。ところが、チャーキニアンの中継はスイッチング(画面の切り替え)が早くて、飽きない。
象徴的な話があって、ある年、人気のゴルフ解説者であるボブ・トスキが16番ホール(池越えのパー3で見どころ満載)の解説をしていたら、「お前の話は長い。もうやめろ!」と平気で画面を変えてしまったと。
のちに、チャーキニアンはゴルフの普及に貢献したと世界ゴルフ殿堂入りしています。先日、タイガー・ウッズが記念式典で涙を流した、あの世界ゴルフ殿堂です。
マスターズはそういう演出も含めて、現場にいるパトロンのみならずテレビを通して見ている観客に、いかに魅力的に見せるかに、なみなみならぬこだわりがある。
1975年のマスターズ中継は、テレビ界のアカデミー賞ともいわれるエミー賞を受賞しています。ゴルフトーナメントの中継が受賞するなんて、おそらく最初で最後(⁉︎)でしょう。同年の大会に優勝したのはニクラウスで、トム・ワイスコフ、ジョニー・ミラーと大接戦を演じて、ニクラスが16番パー3で10mのパットをねじ込んで飛び跳ねたというドラマチックな試合でした。
オーガスタ・ナショナルGCは、ジョーンズが気の合った仲間を招くためにつくった、最高のホスピタリティーを備えたプライベートコースです。各ホールにあしらわれた草花などの景観や重厚感あふれるクラブハウス。そして、正門からクラブハウスへと続くマグノリアレーンと呼ばれるアプローチなど、どれもが招待者を最上級のもてなしで迎えてくれる。
2011年、2013年の2回、マスターズに出場した藤田寛之プロが「三田村さん、あれはたまらないですねぇ」と言っていました。マグノリアレーンを通ってクラブハウスに着き、ハウスの中を抜けてコース側に出た時の、何とも言えない高揚感がすごいって。きっと選手はみんなそう感じるわけです。
やっぱりね、雰囲気がものすごくいいわけです。見渡す限りね。だからこそ、テレビのこちら側にいる私たちにも、その魅力が伝わってくるんですね。
(第4回「松山英樹の連覇の可能性」に続く)
第1回「憧れの祭典の始まり」はこちら
第2回「オーガスタ・ナショナルGCの魔力」はこちら
取材・文/志沢 篤
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