手術中のBGMはPUFFYの名曲

日常的に身につけるアイテムなのでTPOに合わせてコーディネートできたほうが良い。僕のような状況に陥ってしまった人にも役立つかもしれない。史実にも漫画や映画にも眼帯キャラは登場する。眼帯をしているだけでこの人物には何やら過酷な歴史があるぞと感じさせるのだ。三国志の夏侯惇、戦国の伊達政宗、剣客・柳生十兵衛、キャプテンハーロック、刃牙の愚地独歩、エヴァのアスカ。僕も仲間入りだ。深みも含みもある人生も悪くない。

脳梗塞になった翌年には右目も結局出血してしまい、3週間ほど両目が見えない時期を過ごした。左目は白、右目は赤。なかなかめでたくない紅白だ。出血が治らず手術することになったが、脳梗塞を経験しているため全身麻酔は危険だと言われた。眼球に部分麻酔をかけるという。

医師がボールペンを持つ。「ボールペンの先端を見ていてください。決して!決して下を見てはいけません!」。そう言ってボールペンを斜め上の位置に掲げる。瞳を傷つけないように視線を斜め上に向けている隙に下から麻酔針を刺すのだ。わかっている。

わかっているんだけどダメだと言われると見たくなっちゃう。でも見ちゃだめ!きゃー!こんなところで黄泉の国に下ったオルフェウスの心境を味わうとは。心の中で葛藤しながら斜め上を見続けている間に麻酔針を刺してもらえた。

そこから4時間。意識がある状態で眼球の手術が行われた。「おい、そこ水出てるぞ」医師が言う。目から水が出てるのかな?と思ったが患者に意識がある時の隠語だと気づいた。血が出ているのだろう。手術は医師の好みの音楽が流れる中で進んでいく。PUFFYだった。「カニ食べ行こう」と誘われながら僕はずっと横になっている。

PUFFYの4枚目のシングル『渚にまつわるエトセトラ』(1997年 発売元:エピックレコードジャパン)
PUFFYの4枚目のシングル『渚にまつわるエトセトラ』(1997年 発売元:エピックレコードジャパン)
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顔には布を被せられての4時間の旅だ。手術は無事に成功。視界が開けて久しぶりに鏡で自分の顔を見ることができた。「お、そんな顔してたんだな。久しぶり!」、両目見えていない間は慣れた家の中を移動するのも大変だった。ごはんは妻が全部丼にして前に置いてくれたものを食べた。

一回コンビニに行こうと玄関を出たが、前を通り過ぎる車の音がものすごい轟音で恐怖のため一歩も動けなかった。スティーヴィー・ワンダーとレイ・チャールズを聴いてなんとか勇気をもらった。

文/ダースレイダー

『セルフ透析はじめました』(KADOKAWA)
ダースレイダー
『セルフ透析はじめました』(KADOKAWA)
2026年8月20日
2090円(税込)
240ページ
ISBN: 978-4046080189
「受ける」治療から「自ら行う」治療へ。近年注目!セルフ透析のすべて

脳梗塞、糖尿病、腎不全、片目の失明etc.常に病と共に生きてきたラッパーが綴る。
近年話題、「セルフ透析」の記録をまとめたノンフィクション!

2025年9月、週3回・1回4時間の人工透析生活が始まったラッパー・ダースレイダー。
多くの人が「失われる時間」と捉える透析の4時間を、彼は「思考し、創造するためのスタジオ」へと変えていく。
その転機となったのが、自ら治療に主体的に関わる「セルフ透析」という選択だった。

本書は単なる闘病記ではない。
透析導入を先延ばしにしてきた葛藤、初めて「病人」になった実感、セルフ透析の習得に悪戦苦闘する日々、
出張透析でライブを続ける挑戦、そして家族との食卓や仕事との両立まで、リアルな日常を率直に綴るドキュメントである。
医師や看護師、長期透析患者らとの対話を通して、透析医療の現状や可能性も、ラッパーらしいカジュアルな筆致で伝える。

また、セルフ透析の第一人者・櫻堂 渉氏、田端透析クリニック院長・小杉氏、
ダース氏の先輩であり透析歴15年を超えるグレート義太夫氏など、有識者との対談も収録。

人生のモードを「アウトドア」から「インドア」へ。
制約を受け入れるのではなく、制約をハックして新しい自由をつくる―。
本書は、透析患者や家族だけでなく、病気や障害、仕事や介護など、
さまざまな「不自由」とともに生きるすべての人への、新しいライフスタイルを提唱する一冊である。
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