獲れないのに毎日営業している店がある

地元の漁業関係者が「黄金アジ」について補足する。

「地元の漁師が『黄金アジ』と呼んでいるのは主にこの辺の海の遠浅のエリアに根づいているアジのことを言います。この辺の海底の地形は沖の手前までが遠浅になっていて、沖に行くと急に深くなります。こうした地形だと遠浅エリアに栄養素が溜まりやすいので、エサに困らない『マアジ』が根づきます。エサを探して動きまわらないので食っちゃ寝、食っちゃ寝をした『マアジ』がぼってりしていくわけです。さらに遠浅なので太陽光が差し込みますよね。その保護色で遠浅の『マアジ』は金色になって、逆に沖にいる『マアジ』は同じく保護色で黒くなるわけです」

黄金アジ(撮影/集英社オンライン)
黄金アジ(撮影/集英社オンライン)

千葉県の鋸南町と富津市の境には標高329.4メートルの鋸山がそびえたつ。雨が降って鋸山を辿って川から海に流れ出てくる水には多くのミネラルや栄養素が含まれていると言われる。遠浅のエリアにはそれらの栄養素が溜まりやすく、そこに根づく「マアジ」は言わば天然のプロテインで育つ「マアジ」だという。

「だからこそ絶品になるんです。本物を見れば他の『マアジ』と『黄金アジ』は全然違うってわかりますよ。漁獲量にも関わってくるので正確には言えませんが、富津産じゃない『マアジ』だと高くてもキロ600円ぐらい。それに対して富津産は今、常にキロ1500円程度はつく感じですね。さらに数の少ない『黄金アジ』だとキロ2000円前後にはなりますね。何より近年は『黄金アジ』が市場に出回る事さえ珍しいです」

それだけ希少価値のある「黄金アジ」なら飲食店からも引く手あまたなのだろう。地元の漁業関係者はこう断言する。

「寿司屋をはじめ、『黄金アジ』を使いたいとほうぼうからお声がかかります。ですが漁獲量が少ないため、専門店でも毎日扱うのは無理ですね。もし私たちが直接お店をやったとしても、『黄金アジ』を使ったメニューは1日限定10食ぐらいでしょうし、そもそも獲れない日は出せません」

富津市内の飲食店で出される「黄金アジ」の「アジフライ」、数に限りがあり食べられない日も多いという(撮影/集英社オンライン)
富津市内の飲食店で出される「黄金アジ」の「アジフライ」、数に限りがあり食べられない日も多いという(撮影/集英社オンライン)

このように、今や手に入れるのが難しい「黄金アジ」だが、一部の飲食店では、不自然なほど大量に供給されているのだという。地元の飲食店が心情を吐露する。

「去年の12月は記録的な『マアジ』の不漁が続きました。寒波の影響で例年の10分の1も獲れてなかったと思います。特に『黄金アジ』は数も少なく貴重で、ブランドとして注目され始めてるのもあって、大手ホテルやスーパーも競りに乗り出してきているから、手に入れるのが大変なんです。
なのに、『マアジ』ですら一匹も揚がらない不漁が続いた時期でも毎日、『富津産の黄金アジ』を大々的に掲げて営業している怪しい店がいくつかあるんです。それらの店では『黒アジ』を堂々と『黄金アジ』として売ったり、ひどいところになると富津産ですらない『黒アジ』を仲買業者とグルで仕入れ、『富津産』の看板を掲げて店に並べている。これには地元の漁業関係者からも不満の声があがっています」