「中川の父登場の巻」(ジャンプ・コミックス69巻収録)

今回は、日本の企業戦士にして中川の父、中川龍一郎が初登場するお話をお届けする。

龍一郎は世界有数の巨大企業体・中川グループで多くの要職に就く、ビジネスの鬼。世界狭しと飛び回り、秒で億を稼ぐ男だ。

本作が描かれたのは1990年。日本がバブル景気に浮かれている真っ最中だ。龍一郎のキャッチフレーズ「72時間戦えますか」は、1989年に流行した栄養ドリンク「リゲイン」のCMソング、「勇気のしるし」中のフレーズ「24時間戦えますか」のパロディだ。

このフレーズは、同年の流行語大賞で銅賞に選ばれている。現代ではブラック認定間違いなしの、長時間労働が当たり前で、働けばそのぶん企業もサラリーマンも稼げた時代ならではの言葉だ。

そもそも龍一郎、いや、「企業戦士」と謳われた日本のサラリーマン像の形成は、戦後の高度成長期に端を発している。かつては、会社のために粉骨砕身で働くサラリーマンが経済成長をもたらす人材としてもてはやされ、それなりに賞賛されていた。

1969年の「丸善ガソリン100ダッシュ」のCMで、疾走する車の風圧で女性のスカートがめくれるシーンに流れる「OH!モーレツ !」のナレーションにちなんで「モーレツ社員」などと呼ばれた。

そんな日本の労働者の象徴的なキャラクターである龍一郎が再びメインゲストとして登場したのは、2001年に描かれた「父をたずねて…21世紀!の巻」(ジャンプ・コミックス127巻収録)。

日本の経済状況がいまだ終わらぬ「失われた30年」に突入し、働き方もすっかり様変わりをしたのちの再登場は、お話の内容が息子の圭一との関係をめぐるものだったことも含めて、とても興味深い。

それでは次のページから、労働基準法をぶっちぎるモーレツビジネスパーソンが登場するお話をお楽しみください!!