ギャンブル依存症はただ苦しいだけ

――最初はほんの楽しみのつもりでも、そこまでいってしまうんですね。

よく世間でいわれる「楽して儲けようとしている」なんて気楽なものじゃなくて、やらないと死んでしまいそうな強迫観念があって、やるしかなくなってしまうんです。

「これが当たらなかったら、死ぬしかないかもしれない……」

そんな勝負をずっと続けなければならないので、途中からは、ただ苦しいだけでした。

依存症状態になると激しい刺激にさらされ続けて、ドーパミンの感受性が悪くなっていきます。ドーパミンが機能不全を起こすと、常にイライラしたり、そわそわしたり、苦しい気持ちになります。そうすると気持ちを上げるために、ギャンブルをするしかなくなります。
私は、依存症を発症していた当時、つらい現実を生きられるのはギャンブルがあるからで、それがなくなったらどうやって生きたらいいのかわからないとさえ感じていました。

豹柄コートで1レース数十万円の舟券を買っていた20代…子供の保育費数千円を滞納して気づいたギャンブル依存症の苦しみ。「これが当たらなかったら、死ぬしかないかもしれない……」_5
現在は、依存症予防の啓発セミナーなどの活動を各地でしている(前列左が田中さん)
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――もしも、自分たちが依存症だと気づけないままだったら、どうなっていたと思いますか?

きっと、幸せってこういうことなんだということを実感できないまま、不全感を抱えて自信が持てなかったり、不平不満をいっぱい抱えたりしたまま人生を終えていたような気がします。現在は、依存症を考える会の活動などをしていますが、そうやって自分の役割とか使命とかそういうものを見つけられたってことは、すごく幸せな人生だと思っています。

今では素面で生きる人生をギャンブルよりずっと刺激的に感じています。だから依存症になってよかったなと思えるほどなんです。

#3につづく

取材・文/内田陽  撮影/高木陽春