登山といえば、森の中を歩いて樹木や草花、山々の眺望を楽しむイメージですが、海の近くの山を歩けば、山頂や展望ポイントからオーシャンビューを楽しむことができます。適度に体を動かすことができて、リフレッシュにもなる、短時間の東京発日帰りコースを厳選しました。いずれも山歩きに不慣れな人でも気軽に歩ける、とっておきの山ですよ。

春のオーシャンビューハイキングへ! “ゆる登山“のプロが厳選する東京近郊・日帰り5コース
やわらかな日差し、吹き抜ける心地いい風、そして空の色を映したかのような青い海。春から初夏にかけては海の近くのゆる〜い山歩きが気持ちいい。この週末、そんなオーシャンビューハイキングはいかが? 関東の低山を年間50日以上歩き回っている“プロのゆる登山者”が、東京近郊から日帰りで行けるおすすめ登山コース5つを紹介。

鋸山の地獄のぞきからの海の展望。遠方には富士山も
●鋸山(千葉・房総半島)
東京近郊でオーシャンビューの山を挙げるなら絶対に外せないのが鋸山(のこぎりやま)。山頂の展望台からは、水平線が一望でき、のびやかな海の景観を存分に楽しめます。眼下には金谷港、前方に見えているのは三浦半島。半島の奥には富士山が美しくそびえ、空気がよく澄んでいる日なら富士山の右手に南アルプスの山々が連なっているのも眺められるでしょう。
そして鋸山の名所のひとつが「地獄のぞき」。岩の展望台なのですが、下が切れ落ちているのです。地獄のぞきの先端から下を眺めると、柵があるから大丈夫とはいえ、ゾワッとします。グループで来ているなら、少し離れた展望台から地獄のぞきにいる人を撮影してもらうと、緊迫感のある写真が撮れますよ。

岩の展望台である地獄のぞき。スリリング!
山麓からロープウェイが運行していますが、ハイキングを楽しむならJR内房線の浜金谷駅から歩いて山頂に向かうのがおすすめ。車力道を歩けば、石切場の跡が見られます。鋸山は石材の産地で、昭和50年頃までここで採石が行なわれていたのだそうです。
山頂で海の眺めを存分に楽しんだら、ロープウェイでサクッと下山しましょう。下山後には南房総名物のアジフライやお寿司など海の幸を味わいたいものです。

山麓の食堂「ばんや」の地魚料理。下山後は海の幸を楽しもう
【データ】
推奨ルート:浜金谷駅〜車力道〜鋸山山頂展望台〜ロープウェイ山頂駅
歩行時間:約1時間20分
難易度(紹介5コース内での目安):★☆☆
アクセス:JR内房線浜金谷駅下車

三浦富士から見渡す三浦海岸と東京湾
●三浦富士〜武山(神奈川・三浦半島)
神奈川・三浦半島はオーシャンビューハイキングの宝庫とも言うべき存在。標高300m以下の低い山があちこちにそびえ、半島自体がそれほど広くないので、どの山に登っても海を近く感じることができます。
海の眺めとともに、山をつないで歩く「縦走登山」の楽しさを味わえるのが三浦富士から武山(たけやま)のハイキングコース。久里浜線の京急長沢駅を起点に、三浦富士、砲台山(ほうだいやま)、武山とつないで歩き、津久井浜駅に下山します。
三浦富士の山頂や武山、さらには道中のあちこちで相模湾を眺められます。三浦富士の山頂からは、“本家”の富士山との対面も楽しみ。三浦富士には富士講の祠(ほこら)、砲台山には昭和初期に造られた砲台の跡が残っていて歴史を感じられます。

富士講登山の歴史をしのばせる三浦富士山頂
このコースのハイライトが武山。展望台があり、一番上の段まで登れば、東京湾と相模湾を一望することができます。伊豆半島や房総半島、横浜ランドマークタワーなどもわかりやすいでしょう。
武山周辺は1000株以上のツツジが植栽され、4月中旬〜5月上旬に見頃を迎えます。濃淡のピンクの花が一帯を埋めつくす圧巻の風景をぜひ見てほしいです。

武山に広がる色鮮やかなツツジ
【データ】
推奨ルート:京急長沢駅〜三浦富士〜砲台山〜武山〜津久井浜駅
歩行時間:約2時間20分
難易度:★★☆
アクセス:京浜急行京急長沢駅下車

展望塔から眺める富士山とオーシャンビュー
●大楠山(神奈川・三浦半島)
三浦半島の最高峰が大楠山(おおぐすやま)。最高峰……といっても、標高は241mです。大楠山の山頂自体は背の低い木々に囲まれ、「一応オーシャンビューではあるけれど」という感じ。
さらなる絶景に出合いたいなら、山頂にそびえる螺旋階段の展望塔に登ってみましょう。東京湾と相模湾を見渡す、文字通り360度の大展望。房総半島と伊豆半島、富士山、三浦半島の海岸線もくっきりと見渡せます。

山頂に建つ螺旋階段の展望台
高所恐怖症でこの展望塔はちょっと無理……という方は、展望塔の階段を少しだけ登り、大楠山ビューテラスの建物の屋上に上がってみてください。それでも十分に景色の広がりを楽しめると思います。
いくつか登山口がありますが、私のおすすめは大楠登山口バス停から登る阿部倉ルート。前半はジャングルのような沢沿いの道、後半は登りごたえのある急坂で、達成感も味わえます。下りは、登山気分を楽しむなら前田川ルート、ゆるくのんびり歩くなら芦名口へのルートをどうぞ。

前田川ルートは川のせせらぎを聞きながら歩こう
【データ】
推奨ルート:大楠登山口バス停〜大楠山〜前田川遊歩道〜前田橋バス停
歩行時間:2時間20分
難易度:★★☆
アクセス:JR横須賀線逗子駅からバス20分、大楠登山口下車

幕山山頂から見た真鶴半島
●湯河原幕山(神奈川・湯河原)
神奈川県湯河原町にそびえる幕山(まくやま)。山麓の幕山公園は梅の名所として知られ、花が見頃となる2月〜3月上旬にかけては多くの人で賑わいます。梅の見頃を過ぎれば訪れる人も減り、静かなオーシャンビューハイキングが楽しめます。
幕山公園から山頂までは片道1時間半程度の道のり。梅林を見下ろす絶景ポイントの「梅林最高地点」から本格的な山道になっていきますが、ところどころで眼下に相模湾が眺められます。鶴が舞うような形をしているという真鶴半島、その先に初島の姿も。水平線の先には、天気に恵まれれば伊豆大島や三宅島、利島などの伊豆諸島を見つけることができます。

草原の山頂。海を眺めながらの食事はいかがでしょう
広い草原状の山頂に立てば、広々とした海が見渡せ、富士山や箱根の山々も間近に眺められるでしょう。伊豆半島も近く、伊豆の名峰・天城山がより大きくそびえています。晴れた日ならやわらかい日差しを浴びてのんびりくつろぐのがおすすめです。
ちなみに、幕山公園周辺はフリークライミングの岩場としても人気の高い場所。梅林最高地点付近からは、岩をよじ登るクライマーの姿を間近に眺めることができるでしょう。

フリークライミングを楽しむクライマーの姿も
【データ】
推奨ルート:幕山公園バス停〜梅林最高地点〜幕山〜南郷山〜鍛冶屋バス停
歩行時間:約3時間30分
難易度:★★★
アクセス:JR東海道線湯河原駅からバス20分、幕山公園下車

富山山頂展望台からの富士山と東京湾
●富山(千葉・房総半島)
「富山」と書いて「とみさん」と読みます。南峰と北峰のふたつのピークをもつ山で、三浦半島の山々から房総半島を眺めたときにはよく目立つ存在です。南峰は木々に覆われていて、眺めがよいのは北峰のほう。草原の広場となっていて、その一角に木造の展望台が立てられています。
たいした高さはなくすぐに登れますが、海に近い場所だけあって、眺望は申し分なし。水平線の向こうに伊豆半島、富士山、大島などの伊豆諸島が眺められます。展望台には見えている景色をイラストで起こした解説板もあります。

広々とした山頂。解説板を見ながら景色を楽しもう
JR内房線の岩井駅から、福満寺を経由して山頂を目指します。丸太の階段などがあり、整備されて歩きやすい道です。照葉樹の森を楽しみながら、ゆっくり足を進めましょう。登山口へは、高速バス「房総なのはな号」を利用してアクセスすることもでき、その場合はハイウェイオアシス冨楽里が最寄りのバス停となります。
富山は、江戸時代の名作、滝沢馬琴の長編小説「南総里見八犬伝」ゆかりの山としても知られています。山の中腹には、登場人物の伏姫と八房が暮らしたという伏姫籠穴(ふせひめろうけつ)があります。下山後に立ち寄ってみてもよいでしょう。

山の中腹にある伏姫籠穴
【データ】
推奨ルート:岩井駅〜福満寺入口〜富山〜往路を戻る〜岩井駅
※伏姫籠穴~富山の登山道は4月末現在、通行禁止
歩行時間:約3時間
難易度:★★☆
アクセス:JR内房線岩井駅下車
今回紹介の山はいずれも「登山初心者向け、難所なし」のコース……とはいえ、未舗装の山道を歩くことになりますので、動きやすく汚れてもいい服、歩きやすい履き慣れた靴でお出かけください。飲み物やおやつ、汗ふきタオルや雨具などの荷物をデイパック(小型リュック)に入れていきましょう。帰りに温泉に行くなら温泉セットもお忘れなく。
オーシャンビューを楽しむなら、早朝出発が定石です。暖かくなる春から初夏にかけては、午後になると雲が出たり霞がかかったりして、遠くの景色が見えづらくなります。気温が低めの、午前中の早い時間のほうが、遠くの景色がきれいに見渡せます。
早朝からゆっくり歩いて景色を楽しみ、早めに下山したら地元の美味しいものを味わったり、温泉に立ち寄ったりしてくださいね。山歩きに足を運んでそれだけで帰るのはもったいない。地元のいいものにたくさん触れて帰りましょう。
それではみなさま、よい山旅を。
文/西野淑子
写真/石丸哲也