「ブス! 死ね!」泣きながら庁舎に戻ってくる若手刑務官も

認知症の症状の一つとして、便を触ったり壁などに塗りつけたりする「弄便」がみられる場合もある。白永氏によれば、「受刑者が便で壁に描いたものを消すのも刑務官の仕事」だという。

栃木刑務所の単独室。白永氏によれば、受刑者が窓や通気口などに便を付着させ、刑務官が清掃することもあるという
栃木刑務所の単独室。白永氏によれば、受刑者が窓や通気口などに便を付着させ、刑務官が清掃することもあるという

「お好み焼きのヘラみたいな道具で隅々まで掃除します。ものすごい激臭ですし、酷暑でクーラーのない単独室での掃除は嗅覚も視覚も狂いますし、精神を蝕みます。

受刑者のおむつ替えも刑務官が行います。10代や20代前半の若い刑務官が介護士に近い仕事をする一方で、受刑者から罵詈雑言を浴びることもあります」

刑務官が受刑者から「ブス! 死ね!」などと暴言を吐かれることもあるという。白永氏は「社会生活をしていて、突然、他人から暴言を吐かれることなんて基本的にはないですからね。でも刑務所では言われることも少なくありません。

20代そこそこでそんな言葉を複数人から言われて、泣きながら庁舎に戻ってくる刑務官もいます。我々としては、そうして辞めてしまう若手を責めることはできません」と言う。

しかし過去には、刑務官による受刑者への暴行・不適正処遇をめぐって懲戒処分が行われ、その背景として刑務官の「人権意識の希薄さ」が指摘された事案もあった。立場的には刑務官の方が強い刑務所内で、なぜ受刑者に泣かされ、離職する刑務官がいるのか。

これまで長期の累犯者を収容する刑務所などでも勤務してきた看守長の重岡健治氏は「ここ5、6年で受刑者と刑務官の立場は大きく変わった。最近は刑務官が受刑者から『不服申立てするからな』と脅されることもあるほどです」と言う。

「不服申立てには、刑務所を管轄する矯正管区長への『審査の申請』や『事実の申告』などがあります。刑務官を名指しで『この刑務官に脅された』などと書かれたりもします。

2024年4月から全国の刑事施設で始まった受刑者への『さん付け』などを引き合いに、『いま、さん付けしなかったろ。不服するからな』と言ってきたり。先日は受刑者の前を通り過ぎただけで『消えろ!社会のゴミ』などと言われました(笑)」

重岡氏は「受刑者の中にはそういう言葉を平気で言える人もいると割り切ってスルーできる」とするが、最近、こんなトラブルにも見舞われたという。

「刑務所内には至る所に非常ベルがあります。先日、ベルが鳴り現場に向かうと、若い刑務官が『受刑者にお椀を投げられた』とのことでした。制服は汁物で汚れています。単独室を開けた瞬間にお盆が飛んできたので一度ドアを閉めて避けました。

その後、受刑者の連行を開始しようとしたところで、受刑者から嘔吐物を顔に浴びせられました。避けられなかった自分を悔いましたね……」