殺人罪の適用も視野に入れて捜査を進めてきた

この事件は5月18日午前、東京都目黒区の自宅で猿之助が首つり自殺を図ってもうろうとしているのをマネージャーが発見、倒れていた父の四代目段四郎(同76)と母の延子さんが救急搬送先の病院で死亡確認されたもの。司法解剖の結果、死因は2人とも向精神薬中毒の疑いで、猿之助は当初から「死んで生まれ変わろうと家族3人で話し合い、両親が睡眠薬を飲んだ」などと説明していた。

猿之助と段四郎(写真/共同通信社)
猿之助と段四郎(写真/共同通信社)
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猿之助の逮捕容疑は同日未明、自殺を企図していた延子さんに、自分が処方されて所持していた睡眠薬を大量に渡して飲ませ、頭からビニール袋をかぶせるなどして自死をほう助した疑い。
事件発生から1カ月余りが経過して逮捕にいたった経緯について、社会部記者はこう解説する。

「段四郎と延子さん双方の遺書もないことから、警視庁は殺人罪の適用も視野に入れて捜査を進めてきました。しかし、発見時の状況から両親に抵抗した痕跡などもなく、任意捜査の段階から猿之助の説明には一貫性があり、自殺ほう助罪にあたると判断した。ところが猿之助は用意した睡眠薬のパッケージやビニール袋を早々にゴミとして集積所に出し、事件を認知した時点ですでに焼却処分されてしまったため、物証が極めて少なかったのです」
 

事件後の猿之助の自宅(撮影/集英社オンライン)
事件後の猿之助の自宅(撮影/集英社オンライン)

立証に時間がかかったのはそれだけではない。

「こういう物証が少ない事件を着手するのを、地検は嫌がります。起訴して公判になってから証言が変わって否認事件になれば、有罪に持ち込むのが難しくなるからです。『公判維持が難しい』と起訴が見送られることがあるのは、こういう理由があるからです。とはいえ、検察も警察もこれだけ世間を騒がせた事件を放置するわけにもいかないので、『公判維持』のために地検がいろいろと注文をつける。
具体的には、遺体から検出された向精神薬の成分と、猿之助が処方されて母親に飲ませたとされる睡眠薬の成分が一致しているかどうかや、両親の頭にかぶせたビニール袋の入手先の特定など、かなり細かな注文が多かったようですね」