「金融緩和が円安を招き、物価高を招いた」は事実誤認
異次元の金融緩和が円安を招き、物価高を招いた、とされているが、これは事実誤認である。異次元の金融緩和はアベノミクス3本の矢のうち、1本目の矢であることはご承知のとおり。そもそもアベノミクスはデフレからの脱却を目指して組み立てられ、実施されてきた政策の体系である。
金融緩和については、デフレは貨幣現象であるから日銀が大規模な金融緩和をしてマネーを大量に供給するとともに、2%の物価安定目標を設定し、物価上昇期待へ働きかけることで、安定的な物価上昇を達成でき、デフレから脱却出来るというものである。
したがって、アベノミクスの異次元の金融緩和は円安誘導のために行われたものではない。確かに民主党政権下よりは円安方向に進んだが、最初の年、平成25年は一時期1ドル100円になったものの、基本的には90円台後半で推移し、翌26年も100円台前半、それ以降も円安が進んでも120円台前半であり、昨秋の150円前後には遠く及ばない。
イールドカーブコントロールで金利を低く抑えているから、日米金利差で円安になっているという主張も耳にするが、金利差の影響は全くないとは言わないが、円安が急激に(と言っても140円台から150円程度)進んだときと言うのは、ドルはユーロやポンド、人民元に対しても高くなっており、要は円安ではなくドル高であった。
その後、米国のインフレが天井を打って米国の利上げが鈍化はしたが、利上げは続けられてきた。もし金利差が円安の決定的な要因であるというのであれば、もっと円安が進行してもおかしくないはずだが、昨年の11月以降、円安から円高基調に変わり、その後多少は円安方向に戻ったものの、概ねその基調には変化はないと言っていいだろう。
また、物価高の原因であるエネルギーや食料原料価格の輸入価格の上昇は、ウクライナ紛争や天候不順等によるそれら自体の国際価格の上昇によるものであって、為替レートが主な原因ではない。
そもそもエネルギー価格等の上昇による生活コストの上昇に喘いでいるのは日本だけではない。例えば英国では生活コスト上昇による危機に対して、様々な公務員関係労働組合が政府に賃上げを要求して昨年末から断続的にストが行われてきている。