東京都は「臨時出店」で麺の“水さらし”を認めていない
さらに東京都が示すイベント出店時のルールを見ると、冷やし麺の扱いにくさがよりはっきりする。
東京都の「行事における臨時出店の手引き」では、うどん、そば、ラーメンなどの麺類について、麺は当日に茹で、当日調製した汁をかけることとしたうえで、「水さらしは行わないこと」と明記している。
ただし、臨時営業には複数の形態があり、今回の出店がこの「臨時出店」の基準に該当していたかや、実際の調理工程については、港区から明らかにされていない。
冷やしラーメンや冷やし中華では、茹でた麺を冷水で締める工程は珍しくない。むしろ、食感を整えるうえではおなじみの作業だ。しかし、屋外の仮設店舗となれば話は変わる。
通常の飲食店と同じような給排水設備や洗浄環境を整えられるとは限らない。限られたスペースで大量の水を使い、衛生的な状態を保ちながら麺を冷やすこと自体が難しくなる。
同じ手引きでは、具材についても、事前に許可施設など清潔な場所で仕込むことや、生卵を使用しないことを求めている。
盛り付けについても、「箸、トング等を使用し、素手で行わないこと」とされている。ここで厄介なのが、冷たい料理には“最後の加熱”がないことだ。温かい料理なら、提供直前にもう一度火を入れるという選択肢もある。
しかし、冷やし麺ではそれができない。冷却したあとに手指や器具から菌が付着すれば、そのまま客の口に入る可能性がある。だからこそ、冷やしたあとの扱いがより重要になる。
東京都の保健所も、「10℃から60℃」を食中毒菌が増殖しやすい「危険温度帯」とし、残った食品は「きれいな容器に入れ、10℃以下で保存」するよう注意を呼びかけている。
もちろん、「冷たい料理だから危険」という話ではない。十分に加熱し、素早く冷やし、低温で保存する。さらに手洗いや器具の洗浄、消毒を徹底する。そうした基本を守れば、冷たい料理を安全に提供することはできる。
ただし、真夏の屋外となると条件は一気に厳しくなる。気温は30℃を超え、テントの中はさらに暑くなることもある。そこへ客が押し寄せ、注文が重なり、スタッフは短時間で何百食もさばく。冷蔵庫の開け閉めも増え、盛り付けの回数も増える。
「麻布十番納涼まつり」で実際に何が起きたのかは、保健所による原因究明を待つ必要があるが、全国各地で夏祭りや音楽フェス、グルメイベントが開かれるいま、真夏の屋外で「冷たい一杯」を安全に出すことが、見た目以上に難しい仕事であることは確かだ。
涼しげな一杯の裏側で、どれだけ冷やし、どれだけ温度を保ち、どれだけ清潔に扱えるのか。
夏の屋台メシでは、その“見えない管理”こそが命綱になる。
文/集英社オンライン編集部













