聞きなじみがない音なので判断が遅れてしまう

取材に応じたのは、2017年に発症した脳出血の後遺症で、「右同名半盲」という視覚障がいを負った京都府在住の岸野亮哉さん(48)。岸野さんはふだん、白杖を持って外出しているのだが、電動キックボードにはこれまで何度も危険な目に遭っているという。

「電動キックボードの厄介なところは『音に気づきにくい』という点にあります。これまでも、『スピードを出した自転車』や『歩きスマホ』には困っていましたが、電動キックボードは走行時の音も小さいので、気づかぬうちにスピードを出したまま横をすり抜けられていき、ヒヤッとした経験があります。自動車などと違ってルールを習うわけでもないし、警察による取り締まりもない。そのため、速度をきちんと守っている人にもあったことがないし、人間が走るくらいのスピードで走行している人がほとんどで困っています」

電動キックボード(撮影/集英社オンライン)
電動キックボード(撮影/集英社オンライン)

岸野さんによると、京都で電動キックボードを見かけるようになったのはおよそ1年前から。電動キックボードが普及して日も浅いことから、まだ「音に慣れていない」と不安を語る。

「それこそ自転車や自動車でしたら、ペダル音やエンジン音などで気配を察知できますが、電動キックボードの音については聞きなじみがないので判断が遅れてしまう。おまけに私たち視覚障がい者は、目が不自由であることから、事故にあっても逃げられてしまったり、ときには被害者であっても『そちらからぶつかってきた』『急に飛び出してきた』などと嘘をつかれ、加害者扱いされてしまうおそれがある。電動キックボードに対しては不安がありますし、同様の声は視覚障がい者仲間からもあがっています」

愛知県内に住む、生まれつき全盲の男性からはこんな情報提供もあった

「自転車がすぐ横をすり抜けただけでも非常に怖い思いをします。それが速度の出る電動キックボードともなりますと、身の危険を感じざるをえません。変に普及しすぎて後からどうのこうの言っても事故は後を絶たないと思うので、今のうちにきっちり講習を受けるなどして、免許制にすることを望みます」

東京都盲人福祉協会の事務局長の山本氏は、電動キックボードに対する相談が後を絶たないという。

「7月1日の道路交通法改正以降、電動キックボードの歩道走行に対する相談はやはり増えていて、『(電動キックボードが)いると思わなくてスーッと通られた』などの声が多く届いております。協会としても、東京都や都議会の各会派に対する『要望書』のなかに『視覚障がいを持った人たちも安心して歩行できるよう、自転車同様に電動キックボードの取り締まりをお願いします』といった内容を明記して、改善に取り組んでいます」

視覚障がい者が白い杖を持っている意味を改めて考えたい
視覚障がい者が白い杖を持っている意味を改めて考えたい

警視庁は9月1日、規制緩和された電動キックボードをめぐる7月の検挙件数は計406件にのぼり、交通ルールに反して歩道を走行するなどした通行区分違反が4割ちかくを占めたと発表した。重篤な事故につながる前に、何らかの対策が求められる。


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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班