給料泥棒と言われ、30回以上転職

ギリギリの成績で高校を卒業し、一般入試で大学の福祉系学部に進んだ。「人に感謝してもらえる仕事がしたい」と思ったからだ。だが、大学が合わず、すぐに行けなくなってしまう。結局、2年生が終わったときに中退した。

「うちの親父は六大学出身で商社に入ったけど、辞めて飲食店をやるようになったんです。父親には、お前にはサラリーマンは無理だとか、あれをするな、これもダメだって言われることが多くて。私が大学に行けなくなったとき、私に相談せずに、親が勝手に退学届を出したんですよ。それで親への不信感と、学歴コンプレックスだけが残ってしまったんですね。

その後の20代は自分探しの旅ですよね。福祉、教育、NPOとか手当たりしだい、いろんな仕事をして、クビになり……」

仕事は長くても1年くらいしか続かず、転職は30回以上におよんだ。同僚や上司とコミュニケーションがうまく取れず、「報告、連絡、相談」ができなかったことが大きい要因だという。

いじめ、オムツしてひきこもり、発達障害…自称「生きづらさ5冠王」の43歳男性が、給料泥棒と罵られ30回以上の転職を繰り返しても働きたい理由_4

最初に就いた介護の仕事ではこんなことがあった。例えば、利用者の洋服を脱がせるときに2つのやり方がある。時間がかかっても自分でボタンを外させるか、介護者が代わりにやるか。大橋さんが勤めていた施設では、自分でやらせる方針だったのに、大橋さんはよかれと思ってやってあげていた。それを同僚が目にして、「違うやり方をしている」と問題になったのだ。

「最初に一言報告しておけばよかったんだけど、黙っていたことで大火事になっちゃう、みたいな感じですかね。頭ごなしに怒られると、私、耳を閉じちゃうんですよね。後からわかったけど、そういう傾向のある発達(障害)の人は、結構いるみたいです」

数字の転記をするとズレて書き写してしまうなど、ケアレスミスも多かった。業務の優先順位をつける、締め切りを守ることも苦手だった。

「期待に応えたい、認められたいという気持ちも強いので、最初に大風呂敷を広げちゃうんだよね。でも仕事をしていると、発達(障害)の特性もあって、ボロが出てくる。なんでこんなことができないのってなっちゃうわけですよ。それで注意されて、居づらくなって辞めることが多かったですね。給料泥棒、育てた親の顔を見てみたい、ってよく言われました。無断退職、俗に言うトンズラっていうのもやっています」

話しているうちに、当時の辛い思いがフラッシュバックしたのだろうか。大橋さんは突然、「ごめんなさい。しんどいので、一旦、やめてもいいですか」と言って話を中断。「続きは後日にしましょうか」と声をかけて見守っていると、すぐに落ち着きを取り戻し、再び話し出した。