性に目覚めて両親とバトル
小学校高学年になると勉強についていけなくなった。特に苦しんだのは算数だ。割り算や図形の空間認識がまったく理解できない。運動も苦手なのに無理やり教師に鉄棒をやらされ、落ちて大泣きしたこともある。手先も不器用でおまけに音痴だった。
地元の中学が荒れていたので、進学塾に通って中学受験をしたが、不合格。越境して別の公立中に進み、いじめられることはなくなったが、新しい友だちもできなかった。
「私ね、性に目覚めるのが結構早くて、小学校でいじめられたころから傾向はあったんだけど、中学生になってひどくなって。女の子と付き合いたくてトラブル起こしたり、エロ本とか、いかがわしいもので喜んでみたり。性的な欲求を親に話すとぶん殴られたんですよ。両親ともに手が出たし、あとは兵糧攻め。要するに飯抜きが始まるので喧嘩になっちゃう。だから、中学時代は親子関係、きつかったっすね」
中学では吹奏楽部に入部。2年生のときは生徒会で会計をやるなど、自分なりにできることを探して頑張ったそうだ。
血尿、黄疸まで出て「高校は地獄」
やがて推薦で私立高校に進学したのだが、本人曰く、暗黒時代の再来だったという。
「高校は地獄ですよ。数学とか理科系がほんとダメで、赤点取って怒られてばかりでした。担任が数学の先生で、指導の名のもとに自分のやり方を押し付けてくるから、チョー合わなくて。今思えば、僕、軽度の知的障害があるから勉強ができなかったんだけど、そのころはまったく気が付いてなかったから」
勉強面に加えて、苦しんだのは同級生とのコミュニケーションだ。
「これも、当時はわからなかったけど、高校時代から多動とか多弁とか、発達障害の気質が出ていたのかなって思う。同級生と話をしても、もう北と南って感じですれ違っちゃうし、相手にされない。掃除やっておいてとか、ノート見せてとか、いいように使われておしまいになる、みたいな感じで」
発達障害は先天的な脳の発達の偏りによるものだ。知的障害もそうだが、本人の努力で簡単にどうにかなるものではない。それなのに一番理解してほしい親にも、「怠けている、努力不足だ」と責められて、大橋さんはイライラを募らせていく――。
「一生懸命愛情を持って育ててくれたとは思うよ。教育とか食事とか。でも、親のよかれと本人のよかれが本当に違ったんです。
一番は『俺の話を聞け』ってことですよ。親は聞いてるつもりだろうけど、ちゃんと反応してくれない。だから“親が話を聞いてくれない”とずっと感じていたんですよね。私の話をありのままに受け止めて、『ああ、そうなんだ、あんたはそう思ったんだね』と言ってほしかったのに……」
大橋さんはストレスからか血尿や黄疸が出るようになる。だが、病院で検査をしても異常は見つからず、「お金の無駄遣いだ」と親からは怒られた。精神的に追い詰められて、カッターで手首を切ったことも。学校も休みがちになり祖父母の家にしばらく家出した時期もあった。