そもそも本を出すことになったきっかけ
──その後、もう1つの正しい時刻を指している時計が11時の鐘の音を鳴らしたころにまたインターフォンが鳴った。
今度こそヤマト運輸の配達員が発泡スチロールの箱に入ったズワイカニとモサエビを届けてくれた。その箱を茂さんがダイニングテーブルのほうに持っていって広げると、まな板と包丁を用意してズワイカニとモサエビを振舞ってくれた。
──すいません。こんな美味しいご飯まで振舞っていただいて。
いいんですよ。僕はね、こうしてメディアの人が来てくれることに対しては、こっちが取材させてやってるのではなくて、取材していただいてると思ってるからね。
──こちらこそですよ。茂さんの本、ベストセラーになっているので取材もたくさんきてますよね。自分が本を出して売れるなんて思ってましたか?
思わへんよ。出版社から「本を出さないか」と言われたとき、僕は「無駄や。本になんてならへんやろ。誰も買わへんよ」って言うたんよ。それでも「87歳でデイトレードをしている人なんてそうはいません。本当におもしろいですから、その経験をみんなに伝えてください」って言われてな。それで筆をとったんや。
──そもそもどういうきっかけで本を出すことになったんですか?
1年くらい前にな、懇意にしている岩井証券の人がテレビ東京の人に僕のことを紹介してくれてな、テレビ東京のYouTube動画に出たことがあるんですよ。それが120万再生だったらしくて、これはとてつもない数字らしいわ。ようしらんけど。その動画を見た編集者が「本を出したい」って言うてきてな。
──なるほど。どんな風に本を書こうと思いましたか?
どうせ書くなら読んでくれる人の役に立ちたいと思ってな。隠しごとなしに日常生活から投資法まで全部書こうと思いましたわ。
──茂さんは隠し事が嫌いなんですね。
そうや! 株で儲けている人の多くは、自分が儲けてるって言いたがらないやろ。その点、僕は自分をよく見せようとも思わんし、なにも隠さへん。唯一僕がみなさんに胸を張って言えるのは、僕はすべてを惜しみなく公開してるいうことですわ。君、ビール飲めるか?
──飲めます。
じゃあ飲みなさいな。
──いただきます。
こうして、ビール片手にズワイカニとモサエビを食べながら、茂さんの人生についてのロングインタビューが始まるのであった。
#2に続く
取材・文・写真/山下素童