自分の役目を自覚するきっかけとなった中継とは…
「なんでも中継」が評判となり、さらなるウケを狙って始めたのが「隠しマイク作戦」だった。袖にマイクを仕込んで街なかから生中継をする。中継車はかなり離れたところに待機する。いわば「どっきりカメラ」のラジオ版だ。
「キャバレー突撃体験」や「ピンクサロン潜入ルポ」。女装して新宿駅前の靴店に行ったこともあれば、ビキニの女性のへそ形を採るために真夏の海水浴場を白衣とネクタイ姿で歩き回ったこともある。今だとプライバシーや人権上の問題でできない企画ばかりだが、あんなスリリングで面白い体験はなかった。
ホームレスに扮して中継したときは大問題になった。よれよれの格好をして銀座・三越の前にゴザを敷いて座り込む。イヤホンを付けられないので、オンエアがいつ始まるかわからない。遠く離れた所でディレクターがハンカチを振るのを合図にオンエア開始。歩き出すと通行人はよける。お店に入ろうとすると、「入っちゃダメ!」と冷たくあしらわれる。
数寄屋橋のほうに歩いていくと交番を見つけた。
「トイレを貸してください」
と頼んだら、お巡りさんが叫んだ。
「ダメダメ、汚ねぇ! 向こう行け!」
これが全部、隠しマイクを通してオンエアされてしまった。『土曜ワイド』は生放送なのだ。「警察官が人を差別するのか!」。抗議の電話が警視庁に殺到し、TBSは警視庁記者クラブへの「出入り禁止」の処分を食らった。
どうすれば面白くなって、どうやってリスナーやスタッフの予想を裏切るか。番組中はずっとそれを考えながらしゃべっていた。毎週「もっと良い中継を」と思っていた。そして、ときには自分でも感心するほどうまく話せたこともあった。
今も記憶に残っている中継がある。渋谷の「道玄坂」がテーマだった。華やかな格好をした若者たちが行きかう秋の道玄坂。足元に落ちているものに目が留まった。
「道端に吹き寄せられた落ち葉が側溝に溜まり、その脇に赤いハイヒールのかかとが落ちています」
ラジオは映像こそないが、聴く者はこちらが発する言葉一つで映像を思い浮かべる。ハイヒールのかかとが折れて、それを拾わずに立ち去った女性。そんな風景を連想し、道玄坂のイメージがぱっと広がる。聴く者の想像力のレンズにピントを合わせる対象を一つでも現場で探しだし、うまく言葉にのせること。それが自分の役目だと思うきっかけになった中継だった。
当時の『土曜ワイド』はラジオとしては破格の予算があった。スタッフ約20人も普通の番組の数倍だ。番組が終わった後はスタッフみんなで翌日の朝方まで飲んでいた。毎週がお祭りだった。