課題が山積み? 議論・検討しなくてはいけない3要素
1つ目の、どこまでの事業者にDBSを義務付けるべきかどうかというのは、どういう問題なのか。
「DBSの適用範囲に関してですが、学校や幼稚園・保育園以外にも子どもとかかわる場は多岐に渡ります。
例えば、学習塾やスイミングスクールなどの習い事の場や、フリースクールやこども食堂、サマーキャンプといった子どもを支援する場などです。過去にはキャンプやフリースクールで子どもへの性暴力事件が起きた事例もあるので、そうした場も含めて導入をどうするのか検討する必要があります。
けれど現在の法案は、学校や幼稚園・保育園は犯罪歴の照会が義務化されることになっていますが、学習塾やスイミングスクールなどは任意となっており、義務化の対象範囲が狭すぎるという批判があるのです」
では2つ目の、犯罪歴を照会できる期間についてはどういった課題が残っているのだろう。
「日本の刑法では刑の執行終了から一定期間過ぎると、社会復帰を促すために犯罪者は前科のない者と同様の扱いになります。
その一定期間が過ぎた後も、DBS上にデータを残すのかどうかという課題があるのです。DBSが犯罪者の職業選択を狭めてしまうのではないかという危惧があり、社会復帰のためには犯歴を照会できる期間の上限を設けるべきだという意見があります。
一方、イギリスのDBSでは継続的にデータが残るようになっています。犯罪記録を残し続けることで加害者の再犯の支援や、抑止力になるという考え方で、結果的に犯罪者やその家族の利益にもなるという視点があるからです。ですが、日本ではこの点の議論がまだあまり進んでいません」
そして3つ目となる条例違反や不起訴処分への対応が、末冨氏いわく一番重要とのこと。
「今回、提出される予定だった法案では、起訴された犯罪者をDBSに記録するというものでしたが、仮に起訴された犯罪者しかDBSに載らないとしたら、実質的にかなり抜け穴だらけのデータベースになってしまうでしょう。
実は現在わいせつ事件で処分される教員の約8~9割が刑法で裁かれているのではなく、条例違反のレベルにとどまっているのです。犯罪として起訴しようとすると、子どもの証言能力が十分ではなかったり、被害者当事者や家族が二次被害者捜査に耐えられなかったりするため、多くのケースで不起訴や示談になっています。
当然そういった条例違反や不起訴の事件の加害者を野放しにしないためにも、DBSには記録するべきということで、今回の法案には与党内から反対の声が相次ぎ、提出が見送りになったという経緯もあります」