政府債務と家計資産が同時に消える
隠れた日本の債務削減作用として、インフレ効果がある。物価が2倍になれば、過去の債務価値は半分(1/2)に減る。これは、物価が2倍になって、税収も2倍になるという関係があるから、債務返済能力が高まって、債務の実質価値が半分になるという解釈もできる。
政府は、さすがにインフレ調整を前面に出すことはできないので、経済規模(名目GDP)を尺度にして、政府債務が先々は相対的に小さくなるという見通しを発表している。
2023年1月の「中長期の経済財政に関する試算」(成長実現ケース)では、2022年度の公債等残高の対名目GDP比が217・0%と過去最高になった後、10年後の2032年度は171・7%まで下がる見通しになっている。名目GDPが1・36倍に増える効果を見ているのである(この間、一般会計の税収も1・36倍)。
注意したいのは、政府債務残高が軽くなるとき、同時に家計金融資産残高も軽くなることだ。日本全体のバランスシートでは、資産と負債は裏腹の関係でつながっている。家計が金融資産を取り崩して納税すると、その税収の一部が政府債務の返済に回って、政府債務残高を減らす。反対に、政府が低所得者向けの給付金を3兆円ほど支給すると、家計金融資産残高は3兆円増える。
もう一方で、給付金を全額国債発行で賄うと、政府債務残高は3兆円増える。政府債務の増減と、民間部門の資産増減はパラレルに動く。同様に、実質価値で見たときは、政府債務残高が2%ほどインフレで減るとき、家計金融資産も2%ほど減ってしまう。こうした国民資産の価値の減少は、増税と同じ効果を持つので、インフレ課税(Inflation Tax)と呼ばれる。