下北沢の小劇場でアニバーサリー公演を敢行したナイロン100℃
東京・下北沢の小劇場、ザ・スズナリ。
2023年3月21日(春分の日)にここで上演されたのは、「ナイロン100℃」の48th SESSION『Don’t Freak Out』。明治か大正時代のとある屋敷の女中部屋を舞台とする、ホラー味の強い舞台だった。今年結成30周年を迎えた同劇団の記念公演第一弾で、この日は東京公演の千穐楽である。
終演後、2回目のカーテンコールで舞台上に登場したのは、「ナイロン100℃」の主宰者にして、作・演出を手がけるケラリーノ・サンドロヴィッチ。
Tシャツの上にロングコートを羽織り、金色の長髪にハット、太めのデニムとスニーカーという普段着姿のKERAは、割れんばかりの拍手を送る客に、柔和な笑顔で手をあげて応えた。
ケラリーノ・サンドロヴィッチことKERAは、インディーズブームが佳境に差し掛かり、有頂天のブレイクが確定的となった1985年、みずからの劇団、「劇団健康」を旗揚げした。1993年に結成された「ナイロン100℃」は、その前年に解散した「健康」(1990年に「劇団健康」から「健康」に改称)を発展的に引き継いだ劇団だ。
その後「ナイロン100℃」は、人気と知名度がぐんぐん伸びていく。それとともにKERAが作る演劇の、作品としての評価も上昇。1999年には、前年上演した15th SESSION『フローズン・ビーチ』で第43回岸田國士戯曲賞を受賞する。その後も、東京都千年文化芸術祭優秀作品賞や菊田一夫演劇賞、読売演劇大賞・最優秀作品賞など、日本演劇界の名だたる賞を次々と受賞していく。
こうして今や日本を代表する劇団の一つとなっている「ナイロン100℃」の記念すべき30周年公演が、ザ・スズナリという、現代演劇界の聖地で、客席数150席ほどの古びた小劇場でおこなわれたのである。ここにKERAからの何らかのメッセージがあるのではないかと、ファンならずとも考えることだろう。
たとえば“あの頃”=1980年代から、KERAがずっと心の奥底で変わらず持ち続けている“インディーズ魂”の表れとか?
「30周年にあえてぶつけたと思われがちですけど、実はあまり関係なくって。スズナリは一昨年に押さえていたのにコロナ感染拡大の影響で公演中止になり、たまたまこのタイミングになったんです」
劇作家・演出家として、またミュージシャンとしても、「自分にとっての適正キャパのようなものがある」と語るKERA。ライブハウスだったら新宿LOFTや渋谷La.mama、劇場なら下北沢の本多劇場、トークイベントなら新宿・歌舞伎町のロフトプラスワンやROCK CAFE LOFT is your roomといった、比較的小規模なスペースを好きな場所として挙げる。最大の新宿LOFTでもキャパは500人余り、最小規模のROCK CAFE LOFT is your roomに至っては客席数45の会場である。
「興行規模をまったく無視して選ぶことはないですけど、キャパが小さくても回数をたくさんやれば、大勢の人に見てもらえるわけですから。演劇でいえば多分、本多劇場くらいまでなんですよ。“目線が伝わる距離”というか、俳優が何かを見る演技をするとき、首を動かさず、ふっと目を動かしたことを、お客さんにわかってもらえるくらいの距離が好きなんです」