カメラ目線の絵に照れがあるのかもしれない
——今、アナログとデジタル、どちらで原稿を描かれていますか?
『君に届け』の番外編と、その後に描いた短編までは全部アナログでした。今、デジタルに移行中です。でも、全然ペン入れがうまくいかなくて。ラフみたいな線になっちゃうので、はてさて、と(笑)。もうちょっと練習してデジタルに…という感じです。カラーはこれからもアナログのつもりです。
——椎名先生のカラーですと、『君に届け』の1巻の表紙は、絵とデザインがとてもおしゃれなことでも話題になりましたね。初コミックスの『アナログアパート』も、「自分を知らない人の目にも留まる」ようにと、上下を帯状に黒くしたそうですが、『君に届け』もそういった意味で工夫されたのでしょうか。
そうですね。私も1巻の表紙をすごく気に入っています。レトロっぽくしたかったので、筆で主線を太く描いたんですよね。背景の色はデザイナーさんがいくつか候補をあげてくださったんですが、青が本当に素敵で。ちょっと夜みたいにも見えますし。
帯は担当さんが太帯にしたいと言ってくださって。タイトルの文字も、通常マーガレットコミックスでは横に置くところを縦に置かれていて、それもまたレトロな感じですごく可愛く仕上げてくださった。私も考えましたし、デザイナーさん、担当さん、みんなの意見の集合体というか。本当に良い表紙になったなと思っています。
爽子と風早が横顔というのも、ちょっと挑戦ではあったんです。やっぱり目がこっちを向いていないのは、1巻なのに「弱い」じゃないですか。なので、風早だけ完全な横向きではなく、少しだけ目を大きめにして、このぐらいだったらどうかな…?と考えながら描きました。
——印象的な表紙はいくつもあって、23巻でもあやねとケントが向かい合って、ケントはほぼ背中で、あやねは下を向いて泣いている絵でした。バチッと決めたものとは違う、物語性を感じる表紙です。
ありがとうございます。シンプルに、私がカメラ目線の絵がすごく苦手だというのはあると思うのですが(笑)。そういう絵が嫌いなのではなくて、私が描いても訴求力みたいものが生まれないというか…。カメラ目線の絵に照れがあるのかもしれないです。
——番外編の表紙はまた違った、華やかなイラストでしたね。
番外編は、植物と一緒に描いて、すごく少女漫画っぽいものに仕上げたかったんですよ。でもコミックスが発売されてから本屋さんに行ってみると、なかなか探し出せなくて。
デジタルで描かれた絵は強いので、すごく目に飛び込んできますよね。そういう中にふわっとしている絵があるのもいいかな?と思っていたんですけど、全然目立たないんだなぁと思いました。
——デジタルツールは、画面に直接描くようなタイプのペンタブをお使いですか?
そういうものを揃えてみました。デスク上のモニターに映したものを確認しながら、手元のペンを動かすのは、脳との関連がつけられないような気がして。ガジェット類は好きなので「ああ、早くパソコンで漫画を描いている自分に酔い知れたいな」と思いながら練習中です。
——作画環境だけでなく、縦スクロールなど新しい形式のものも登場して、漫画が大きく変化しています。どんなふうに感じていらっしゃいますか?
自然なことだよなぁ、と。以前、間合いの取り方がうまくいかなかったとき、参考のためにアニメの画面をスクショして並べてみたことがあって。これは縦スクロールの漫画に近いのかもしれない、と思いました。
実際、描くことに挑戦するかどうかは、今はまだわからないのですが。個人的には漫画の見開きがすごく好きなので、縦スクロールの漫画だけになったら困りそうな気はします。