学費が安いことを理由に国立大学に進学する学生は少なくない

「高度な大学教育を実施するためには、学生一人当たりの収入として300万円/年は必要」
「国公私立大学の設置形態に関わらず、大学教育の質を上げていくためには公平な競争環境を整えることが必要である」

こうした理由から伊藤氏の提案要旨によると「国立・公立大学の学費を年間100万円上げる」ということを主張している。

文部科学省が発表した「国公私立大学の授業料等の推移」によると2023年の授業料は国立大学(53万5800円)、私立大学(95万9205円)とされている。“価格競争”という観点で私立大学は国立大学に劣るため、優秀な学生の獲得だけではなく、そもそも入学者を確保することが難しい。

伊藤氏の提言要旨による「国立大学と慶應義塾大学の学納金の推移」
伊藤氏の提言要旨による「国立大学と慶應義塾大学の学納金の推移」

この学費の価格差を縮めることにより、公平な競争が促される環境を整備したいのだろう。

とはいえ、学費が安いことを理由に国立大学に進学する学生は少なくない。国立大学の学費が私立大学と同水準になった場合には、困窮世帯の若者の希望の芽を摘み取ってしまいかねない。そのため、〈貧しい家庭でも何とか行けるのが国立大学なのに〉〈そんなことをしたら大学進学を諦めざるを得ない方が増えますよ〉といった声がSNSに散見された。

 3割が奨学金延滞を経験

また、同会では「国公私立大学の設置形態にかかわらず、個人の経済状況に応じた奨学金制度を設計し、家庭の収入等の基準による公平な支援を設計する」と奨学金の在り方についても提言している。

この提言について伊藤氏はニュース番組『Live News イット!』(フジテレビ系)の取材に対して、〈基本的に奨学金を充実させて、広く必要な方に(奨学金を)届けることを前提にする一方で、学費を払える方には負担をお願いするシステムを提案したものです〉と説明した。

奨学金制度の多角的な拡充を求めているようだが、伊藤氏は奨学金返済に苦しんでいる人が多い現状を無視しているようにも思える。

労働問題などに取り組むNPO法人『POSSE』や奨学金返済当事者から主に構成されている民間団体『奨学金帳消しプロジェクト』の調査結果によると、約3割の人が奨学金返済の延滞を経験したことがあると回答した。奨学金を拡充されたとしても、国公立大学の学費が100万円上がると、いま以上に返済に苦しむ人は増えかねない。拡充ではなく、また違った議論が必要ではないだろうか。