農林水産省によると、日本人の魚の消費量は年々減少傾向にあるという。2016年度にはついにピーク時の約半分である年間24.6kgとなり、1960年代前半とほぼ同じ水準にまで下がっている。

そんな中、愛知県名古屋市で、朝5時に市場を巡り、巨大イカをさばいては小学生の前でマグロを解体し、果ては魚を求めて遠くアラスカまで飛ぶ魚屋がいる。

YouTubeチャンネル「魚屋の森さん」で知られる、寿商店(ことぶきしょうてん)常務取締役・森朝奈さんだ。運営する寿商店では、「魚屋だからできること」をモットーに、魚屋としてはもちろん飲食店事業やマグロ解体ショーなどを手掛けている。まだまだ男社会といえる水産業界において、IT業界で培ったスキルを駆使して活躍する森さんに話を聞いた。

寿商店常務取締役森朝奈さん
寿商店常務取締役森朝奈さん

小学生に痛風鍋が人気!?
動画の力を実感した瞬間

――魚屋「寿商店」で常務取締役を務める森さん。“魚屋”として、市場での買いつけやマグロの解体ショーの様子を配信するYouTubeチャンネル「魚屋の森さん」が人気です。

森(以下、同) コロナ禍になる直前の2019年12月に、YouTubeチャンネルで、きまぐれクックさん※とコラボさせていただいたんです。彼がイベントでお店を出店される際、寿商店に運営を依頼していただいたのがきっかけですね。

※魚をさばく動画をメインに活躍するYouTuber

――イベントの際、森さんも店頭に立たれたとか。

お店で出していたのは、白子・牡蠣・あん肝が入った「痛風鍋」なのですが、店を訪れた小学生ぐらいの子どもたちが喜んで食べていたのが印象的で。子どもたちが白子やあん肝をおいしく食べているだけではなく、「これってタラの白子だよね」「精巣なんだよ」と、魚の知識までYouTubeから得ていると知りました。
そんな様子を店頭で見ていて、自分もYouTubeで情報発信してみようと思い立ったんです。
 

――水産業界のなかでYouTube配信をされている方は珍しいですよね?

各地の市場や漁港に行って漁師さんと話をする際、多くの方にYouTubeみたよと話しかけてもらえます。業界としてはまだまだアナログですが、働く人たちにはデジタルツールを介した発信がちゃんと届いているので、もっといろいろな角度で情報を発信できたらなと試行錯誤しています。

――森さんのチャンネルは、「魚」をテーマにしつつも、扱う企画は買いつけや解体、調理など多岐にわたります。反響が大きかった動画はなんでしょうか。

最初はお魚をさばく動画をメインでアップしていたのですが、漁港に行ってカメラを回した動画が好評で驚きました。魚屋としては、漁港の風景は日常の一部なので、これほどまで視聴者の皆さんに刺さるとは思わなかったんです。

各漁港、産地ごとの特色の違いのおもしろさを再認識する出来事でしたね。