カタールW杯で一番の驚きを提供しているチーム、それが日本代表だ。ドイツとスペインという世界にたった8か国しかいないW杯優勝経験国ふたつを破り、2位通過さえ極めて困難に思われたグループEを首位で勝ち抜けたのだから、サッカー発祥の地・イングランドをはじめ、世界各国のフットボールファンやメディアも驚愕し、賞賛を送っている。
2016年に米国で生まれたオンラインメディア『The Athletic』は、英国の高級紙などで健筆を振るっていたフットボールライターを集め、サッカーの報道や分析にも注力。今や欧州の目の肥えた読者も信頼を置く媒体のひとつと認識されている。そこから現地に派遣されたジャック・ピット=ブルック記者(元英紙『The Independent』)は、スペイン戦後に《ドイツとスペインを下した日本──この恐れなき集団はどこまで勝ち進めるか》と題する記事を執筆した。
「9日前まで、日本はW杯で優勝したことのあるチームに一度も勝ったことがなかった。でも今、そのうちのふたつを倒した。(中略)彼らの傑出したパフォーマンスは、気概に満ち、組織的で、抜け目のないカウンターアタッキング・フットボールだ。守る時と攻める時を見極め、再び後方で守備を固めるべき時も心得ている。大国を下したことがなかったチームが突如、とても巧みにそれを実現した」
過去の日本代表との違いとしては、欧州の主要リーグでプレーする選手の多さを挙げ、「彼らは日頃から対戦している相手(ドイツやスペインの代表選手を含む)に怖気付く必要がない」。だからこそ、「ドイツやスペインに先行されてもパニックに陥ることはなかった」と記した。
またチームの大きな特長は「団結力とスピリット」にあり、本田圭佑や中田英寿ら、スター選手を中心に築かれた以前の代表とは違い、どこにもエゴがないことを指摘。その集団を統率する森保一監督は、「忍耐力と明確な考えを持ち、ここまでのところ、間違いなくこの大会の最優秀監督だ」と称えている。
本田圭佑も中田英寿もいない日本代表が勝てた理由は「団結力とスピリット」―英国メディアが激賞する3人の選手
カタールW杯グループEを首位通過した日本代表を海外メディアはどう報じているのか。英国各紙の報道とプレミアリーグのレジェンド選手たちの言葉を伝える。
「逆転の王様」ブルー・サムライ
本田圭佑も中田英寿もいない日本代表
グループステージ終了時点での最優秀監督は?
同記者はまた、別の記事で日本サッカーの成長を支えた元ウェストハムの指導者の存在についてもレポートしている。
英国営放送『BBC』の電子版では、クリス・ベバン記者が《ラウンド16で日本を侮れない理由》とタイトルを打った記事で、次のように綴っている。
「今回のW杯では数々の予想外の教訓が生まれた。その中でおそらく最大のものは、先入観に囚われて日本を甘く見てはならない、ということだろう。彼らが次に対戦するクロアチアも、注意しなければならない。なぜならブルー・サムライ(海外のメディアでは往々にして、日本代表の愛称が逆さまに記される)は、カタールで最大の逆転の王様となり、彼らの交代選手たちはふたつのとてつもない勝利を手繰り寄せたのだから」
この記事では、ハーフタイムまでにリードを奪われ、そこから逆転勝利を二度も掴んだチームは、W杯史上3つ目──1938年大会のブラジルと1970年大会の西ドイツに続く──だという事実も紹介。そしてもし、次のクロアチア戦でまたビハインドに陥っても、「(日本が)諦めないことは誰もが知っている」とした。
英紙『The Guardian』は、より落ち着いたトーンで日本の快挙を伝えた。《日本が劇的な形でスペインに衝撃を与え、ドイツをW杯から追いやった》との見出しの記事で、ポール・マッキネス記者は「日本の平均ポゼッション率は18%で、通したパス数は175本。対するスペインのそれは991本だったが、勝利にふさわしかったのは日本だ」と書いた。
そして英データ会社『Opta Sports』のツイートも紹介──17.7%のボール保持率での白星は統計を始めて以来、W杯史上最低だったと。
レジェンド選手たちが激賞する3人の選手

写真:森田直樹/アフロスポーツ
またレジェンドたちも、こぞって日本代表に賛辞を述べている。スペイン戦では田中碧の決勝点に繋がった三笘薫のクロスが物議を醸し、明確な説明をしなかった審判に疑問を向ける識者が多かったものの(のちにFIFAが釈明)、初戦のドイツ戦の後においてはその戦いぶりが称えられた。
英放送局『ITV』で解説を務めたマンチェスター・ユナイテッドOBで元主将のロイ・キーンは、「(日本は)ガッツと欲望を持ち、恐れ知らずにプレーした。ふたつのゴールも素晴らしかった。(日本は勝利に)ふさわしい」と語った。

写真:ロイター/アフロ
アーセナルOBで元イングランド代表のイアン・ライトは「同点ゴールを決めた堂安(律)を褒めないと。あれは簡単なものではない」と言い、元レンジャーズのアリー・マッコイストは「見事な交代策だった。三笘が左サイドで推進力を生み、浅野(拓磨)は元気いっぱいに駆け回った」と話した。

写真:ロイター/アフロ
長年の目標である8強入りまであとひとつ。それが達成されれば、日本代表史上初の快挙だ。その前に立ちはだかるクロアチアとの一戦について、英ブックメーカー『William Hill』はクロアチアが有利と予想している(本稿執筆時点で日本の勝利は3.75倍、クロアチアの勝利は2.05倍)。
しかし、元イングランド代表のクリス・サットンは『BBC』で、延長戦の末に日本が2-1で勝利すると予想している。また英紙『Evening Standard』も「日本を侮ることはできない」として、日本の2-1での勝利を予想している。
さて、実際はどうなるか。
12月5日0時、運命のキックオフの笛が吹かれる。
取材・文/井川洋一
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