――15年ぶりに岡田彰布さんが阪神タイガースの監督に復帰しました。
ドキッとしたというか、「え? まさか?」と思いました。岡田監督がいいとか悪いとかではないですよ。早稲田大学の先輩でもありますし、プロに入ってからも選手としてずっと使ってもらった監督なので、そもそも敬意しかありません(笑)。
ただ、矢野燿大さんがファーム監督を経て一軍監督になったように、次は、ファーム監督の平田勝男さんが一軍監督に上がってくるといった「チームとしての流れ」ができてくるのかなという思いはありました。
ファーム監督が一軍に上がるシステムは、一緒に戦った若い選手たちが、監督が一軍に上がった時に求めるプレーを理解しやすいというメリットがあるんですよね。
ファンの方や、プレーしている選手も、自分と似た思いがあったかもしれません。今後、ある程度つながりをもってやっていくのだろうと予想していたところでの岡田監督就任は、ある意味でサプライズだったのではないでしょうか。
チームとして、このままではダメだ、今の流れでは勝てないといった判断が、どこかであったはずなので、岡田監督になったことで、必ず変化が生まれるでしょう。もちろんそれがいい方向への変化であればいいなと思いますね。
――鳥谷さんが思う『岡田野球』とは?
選手を、本当に信頼してくれますね。目先の結果を気にすることも当然、あるとは思うのですが、それよりも選手の将来や、年間トータルの結果を見て戦える監督だと思います。自分からすると、唯一、優勝を経験させてもらった監督でもあるので、「勝つ」ことに対する嗅覚や執念は、突出していると感じています。
「普通の監督はJFKをあの順番には並べない」鳥谷敬が語る、阪神“岡田野球”の真髄
阪神の新監督に就任した岡田彰布氏。“優勝請負人”としてタイガースに復帰する形だが、はたして「岡田野球」とはどんなものなのか? 入団以来、その野球を間近で体感してきたプロ野球解説者の鳥谷敬氏がその真髄を明かす。
今オフの岡田監督就任はサプライズだった

「JFK」は普通ならジェフか球児さんがクローザー
――阪神タイガースがリーグ優勝した2005年は、勝利の方程式『J・F・K』が確立されていました。
先発投手が6回まで投げれば、もう後は、ジェフ・ウイリアムス、藤川球児さん、久保田智之さんの3人に任すだけという形がしっかりできていましたよね。
それまでも、クローザーとセットアッパーを確立しているチームはありましたが、どんな場面でも終盤の3イニングを、決められた3人でいくという形を作ったチームはなかったと思います。監督は選手を信頼して、しっかり固定して起用する、選手は信頼にこたえるプレーをするといったバランスは非常によかったですね。
JFKの3人の投手の並びも、岡田監督ならではのものでした。当時、自分たちの目から見ても「絶対に三振をとれる」「打たれない」というイメージがあったのは、ジェフか球児さんでした。それにも関わらず、岡田監督は久保田さんにクローザーを任せたのです。
普通は、後ろからいいピッチャーを並べたくなるものなのですが、そうしなかった。その理由として、試合の流れの中で、接戦の時には7回、8回には打順が上位に回りやすい。そこをしっかり抑えるために、球児さん、ジェフ、久保田さん、あるいは、ジェフ、球児さん、久保田さんという並びにしたというのです。
しかも、延長戦になっても久保田さんが残っていれば複数イニングを投げることができるところまで見越してのことです。岡田監督は、野手出身にも関わらず、そのあたりのバランス感覚も抜群だったと思います。
セントラル・リーグの場合は、打順の巡り、イニング、試合展開など、全てを読み切っての勝負勘が必要になってくるので、岡田監督の本領が発揮されるのは、やはりセ・リーグではないでしょうか。
佐藤輝明、大山悠輔の「守備と打順」
――岡田監督は就任会見の時から、大山悠輔選手をファースト、佐藤輝明選手をサードに固定するという話をされています。
そこについては、自分も全く同じ意見です。大山選手の場合は、ファーストの守備が抜群に上手い。内野手からすると、少々の悪送球は捕ってもらえるという安心感があるのとないのではプレッシャーが全然違うので、内野手の送球に関するエラーは確実に減ると思います。
佐藤選手については、育てるという意味も含め、「4番・サード」に固定されることを期待します。外野からベンチに戻ってきて打席に立つ、サードからベンチに戻ってきて打席に立つといったわずかな違いだけでも、年間を通しての疲労度は変わってくると思います。
そもそも外野の守備よりサードの守備の方が上手いと思うので、打撃に重点を置くためにも、自分が得意なポジションで固定されることで、チームの中心として活躍してほしいですね。
――もし、鳥谷さんが阪神タイガースの監督だったら、どんなオーダーを組みますか?
4番・サード、佐藤選手、5番・ファースト、大山選手、この2人は固定です。外国人野手は外野手しか獲得しないでしょうね。4番打者の重要性を考えると、日によってポジションが変わるという発想は、自分にはありません。ましてや、試合中にポジションが変わる4番打者というのは……。
6番や7番を打つのであれば、多少は流動的になっても仕方がないかもしれませんが、基本的には絶対に固定がいいと考えます。143試合、先発メンバーが全員決まっていれば、監督・コーチは作戦を考えることに集中できますよね。監督・コーチが先発メンバーを考える必要がない状態がチームにとって最善ではないでしょうか。
近年、先発メンバーや打順を固定しなくなってきた理由としては、データが浸透したことによって、対戦投手との相性などが明確になってしまっていることがあげられると思います。
昔は、「あの選手は、敵のあの投手を苦手にしていそう」というイメージがあっても、いつも試合に出場している選手を使ったほうが、期待値が高いという人間の心理が働いていたような気がするのですが、今はそういうことが少なくなりました。
例えば、相手の先発が右ピッチャーだけど「対左バッターの被打率が1割、対右バッターの被打率が4割」というデータがあると、いつもと違う布陣になっても右打者を並べたくなってしまいます。
データがたくさんあるために、色々なバリエーションを組んだほうが勝つ可能性が高くなると、その瞬間は思ってしまうんです。
ただし、同じことを続けていれば確率的には必ずどこかで当たりを引けるはずです。それなのに、確率を高めようとするあまり、いつもとは違う方法をとってしまうところに落とし穴があるような気がします。データは使い方次第で、すごくいい部分もありますが、マイナスな部分もある。バランスが難しいですね。
「岡田野球」は感覚重視

2003年12月、阪神の入団発表で岡田監督(中央)らと写真に納まる鳥谷氏(前列右)
――岡田監督はデータを重視されるタイプですか?
はっきりとは言えませんが、岡田監督は自分の感覚を重視されるタイプではないでしょうか。野球界に本当の意味での詳細なデータが持ち込まれ出したのは、ここ何年かの話です。
今年、岡田さんと野球中継の解説でご一緒させていただいた際、計測器を使って、投球のスピン量などを映像で見せられる映像技術の話が出たのですが、「そんなもん、いらん」「見ればわかる」とおっしゃっていました(笑)。
ただ、岡田さんが監督になられて、実際にチームの中に入ってデータが使えるとなれば、即座に取り入れる柔軟性はあると思います。人には言わずとも、自分の頭の中でデータを使ってみて、何かしらの答えを出すことはされると思いますね。
――岡田監督に、鳥谷さんが取材をする機会もありそうですね。
普通になんでも聞きますよ。自分も、そこは気を遣うとか全然ないタイプなので。逆に岡田監督から何か無茶ぶりされても、「それは、無理です」って言いますし(笑)。
構成/飯田隆之
明日、野球やめます
選択を正解に導くロジック
鳥谷 敬

2022年6月24日発売
1,650円(税込)
四六判/224ページ
978-4-08-781722-5
プロ野球界屈指の遊撃手として、阪神タイガース・千葉ロッテマリーンズで活躍し、2021年シーズンをもって引退した鳥谷敬、引退後初の著書。
「40歳まで遊撃手を守る」「試合に出続ける」という目標をみごとに体現したプロ野球人生18年間。
NPB歴代2位の1939試合連続出場、遊撃手としては歴代1位となる667試合連続フルイニング出場という輝かしい軌跡を辿るとともに、誰にも言わなかった苦悩の日々を初めて本書で明かします。
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