2ヶ月前、深紅の大優勝旗が初めて白河の関を越えた。今年の夏の甲子園(全国高校野球選手権大会)の主役はもちろん仙台育英高校ナインだ。
しかし、その陰でもうひとつの“初めて”を達成したのが、阪神園芸入社2年目の石躍奈々さんだ。
女性として初めて聖地、甲子園のグラウンドキーパーを務めた彼女は、もともとサッカー少女。
チームの守護神として中学時代は全国3位を経験。しかし、故障をきっかけに競技を断念し、ゴールキーパーからグラウンドキーパーへと転身した。
今夏の大会前は女性初の甲子園グラウンドキーパーの誕生に、各メディアがこぞって彼女を取材し、野球ファンの間では知る人ぞ知る存在に。
あれから2ヶ月。甲子園の熱気がおさまった今、改めて石躍さんに直撃した。
――石躍さんは甲子園の近所、南甲子園小学校出身だそうですね。
はい。甲子園は身近な存在でした。小学校6年生のときに西宮市立小学校連合体育会という、市内の小学校が合同で行う運動会のようなものがあるのですが、その会場が甲子園なんです。テレビでよく見るグラウンドに立てて、とても感動した記憶があります。

「私の活動を見て、女性の甲子園デビューが増えてほしい」女性初の甲子園グラウンドキーパーが聖地に思うこと
聖地・甲子園の守り神、阪神園芸。同社のグラウンドキーパーとして、女性で初めて今夏の全国高校野球選手権大会でグラウンドを整備したのが石躍奈々さんだ。あれから2ヶ月、改めて彼女にグラウンド整備の奥深さを聞いた。
小学校の体育大会が初甲子園

今夏の甲子園で注目された石躍さんは元サッカー少女
――体育会では何をした?
東西南北のブロックに分かれた小学校ごとに披露する演目が決まっていて、私たちは組体操をやりました。
ただ私たちは外野の芝生のところに整列したので、内野の土のグラウンドに立てるコたちが少し羨ましかった。
みんな高校球児みたいに、どうやって甲子園の土を持って帰るか考えていたので(笑)。
甲子園球場の土の配合は本当に美しい
――その土を今度は整備する立場に。きっかけは?
小学校1年生からサッカーを始めて、ゴールキーパーをやっていたのですが、飛び込んだときの衝撃が蓄積して、大学生のときに首を痛めてしまい……。
競技をやめることを決断したときに、スポーツに携わる仕事をしたいと思ったんです。
大学がもともとスポーツ学科だったということもありましたし、支えてくれる人がいるからスポーツができることを自分が現役のころから感じていたので。
そんなことを考えたときに、地元の阪神園芸に興味を持ちました。
――入社2年で早くも甲子園デビュー。
メディアに取り上げていただいたことで緊張やプレッシャーもありましたが、一番は選手たちのことを思って整備をすることだったので、まわりは気にせずやるべきことをやろうと。
ただ取り上げられたおかげでいいこともあって、審判の方から激励されることもありました。
私と同じで初めて甲子園で審判をするという方からは「お互いデビュー戦やね。がんばろう」と声をかけていただいたりもしました。

プロ野球、阪神タイガース主催試合の甲子園。そのイニング間にグラウンド整備をする阪神園芸の職員
――今大会の一番の思い出は?
甲子園で、あれだけ大勢のお客様の前で仕事ができたことです。
私はライン引き担当で線が曲がらないようにとても集中していたので、まわりを見渡す余裕なんてありませんでしたが。
――プロ野球の試合でのグラウンド整備の違いは?
実はまだプロ野球ではやったことがなくて。弊社のグラウンドキーパーを行う部署はスポーツ施設部と甲子園施設部のふたつがあって、私が入社後に配属されたスポーツ施設部は甲子園球場以外の、高等学校のグラウンドや大学の専用グラウンドなどから依頼を受けて、単発で出張整備することがメインなんです。
――出張整備はどのような仕事?
野球場って定期的に大掛かりな整備を入れないとグラウンドがボコボコになってしまうので、図面を作る際に用いる道具で勾配などを測定して、足りないところに土を足して整備します。まるで道路工事みたいなんですよ。

道路工事のように大掛かりな整備をすることも
――球場によって個性はある?
球場ごとに土の配合が違って、その割合によって水抜けが変わってきます。真砂土という白い土だけのグラウンドもありますし。
ただ、黒土が入ってるほうが、これぞ野球場という感じで見栄えがいいですよね。そういう意味では、甲子園は本当に美しい球場だと思います。
「完全オリジナルのマイトンボがいつかほしい」
――甲子園は天然芝ですが、プロ野球球団のフランチャイズ球場はほとんどが人工芝。これについて思うことは?
天然芝のほうが足の負担が軽減されるので、選手はやりやすいと思います。私自身、ケガで競技を諦めた人間なので、もっと天然芝の球場が増えてほしいですね。
甲子園のような黒土は管理が難しいですが、グラウンドキーパー的には一番勉強ができる環境ではないでしょうか。
――イレギュラーが起こると気まずそうですね。
そうですね。自分のならしたところで打球がイレギュラーして野手がエラーしたら、「もしかして私のせい……?」と思ったりします(笑)。
――9月24日、関東地方の大雨で神宮球場の外野の一部が水没したというニュースがありましたが、グラウンドキーパーの目から見てどうでしたか?
人工芝で水たまりになるのを初めて見たので衝撃的でした。あの状態から試合をできるようにした神宮球場のスタッフの方々は本当にすごいと思いました。
――マイトンボは持っていますか?
姫路球場で使っているマイトンボがありますが、甲子園で働く甲子園施設部の方々のマイトンボは木材から発注して自分で組み立てる完全なオリジナルトンボ。
プロ野球選手のバットと一緒で一人ひとり違うので、私もそんなトンボがいつかは欲しいです。

意外と奥が深いトンボ。人によって重さや長さなどが違う
――プロ野球でもグラウンドキーパーをやってみたい?
甲子園ではいつかはできると思います。なので、プライベートで甲子園にプロ野球を観戦しにくることがあったときは、普段テレビで流れることのないグラウンドキーパーの動きを見て勉強しています。
あとは、阪神園芸では以前、ヴィッセル神戸の練習グラウンドの芝生管理をしていたこともあったので、サッカーグラウンドの整備もしてみたいです。
――やっぱり阪神ファン?
そうですね。もともと野球にそこまで興味があったわけではなかったんですけど、西宮市の甲子園出身なので応援するなら阪神。同い年の佐藤輝明選手を応援してます。
――では最後に、裏方としてスポーツを支えることの醍醐味を教えてください。
自分が整えたグラウンドで選手が気持ちよくプレイをしている姿を見られるのが何よりの醍醐味です。
基本的にずっと動き回るので体力的にかなりしんどい部分があるから男性しかできないと思われていますが、私の活動を見て女性でもグラウンド整備をやってみたいという人が増えたらうれしいです。
取材・文/武松佑季
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