――2022年のチームの手応えは、いかがですか。
「ライン制を敷いて、2年目ですが、今年もBラインから数名Aラインに合流しています。実は昨年も箱根で8区を走った3年の大泉真尋とアンカーだった4年の有村祐亮は8月までBラインにいて、夏以降、Aラインに上がってきた選手です。今年の全日本の予選会で走った3年の尾方(馨斗)と4年の島崎(昇汰)、また2年の石口(大地)もBラインですが、徐々にAラインに合流しています。
前回お伝えしましたが、下から上がってくる選手が出てくるとチームはすごくいい雰囲気になります。Bラインの選手は、『あいつが上がったのならば、俺もまだがんばれるはずだ』と思うし、Aラインの選手はうかうかしていられなくなる。競争意識が高まります。誰でもコツコツ積み重ねていけば箱根を走るチャンスが出てくる。ポジティブなメンタリティを持ったチームになっていきます」
――6月の全日本大学駅伝の予選会では、1組目で走った1年生の宮本陽叶選手の好走が光りました。神奈川大は1年生で頭角を表す選手が少なく、ここは従来と違う感じがします。
「宮本は、高校駅伝での実績を持っていますし、飛び抜けた存在です。今年は宮本の他に山田(基貴)、酒井(健成)もAラインで練習しています。1年生が3人もAラインで走るのは、なかなかない。宮本のような選手獲得は本学では稀だと思います。毎年複数人、宮本クラスの選手が入学すれば、誰を選ぶかっていうことで相当迷うことになりそうですが、そうなってみたいですね(笑)」

全国化は必要か? 駅伝界の名伯楽が考える箱根駅伝の未来像
神奈川大学は来年の箱根駅伝出場権を獲得するために、10月15日、箱根駅伝予選会に出場する。6月に行われた全日本大学駅伝の予選会では東洋大、東海大など強豪校を抑えてトップ通過を果たし、その強さを見せつけた。夏合宿を終えて、現在どんなチームに仕上がってきているのだろうか。
チームの競争意識が高まる仕組み
流れをつくれ、流れをとめるな
全日本大学駅伝の予選会は、1組目から宮本らの好走で流れを掴んでトップ通過を果たした。箱根予選会も同様の流れでいくのが理想だ。大後監督は、「流れをつくれ、流れをとめるな」という心得を寮のホワイトボードに記している。
――駅伝は、より流れが重要になりますね。
「うちは流れをつくれる、ゲームチェンジャーのような選手を育成すると共に、流れをとめない選手も、より多く育成する必要があります。箱根の予選会については8割〜9割位は何とか仕上げて、東海大、早大、明大を追いかけたい。ただ、それだと欲のかき過ぎですね。現実的には真ん中ぐらいで通過して、本番に向けてしっかりやっていくことが大事だと思っています」
――現在、チームの課題はありますか。
「コーチ陣からはもうちょっと競争意識を働かせた方がいいというアドバイスをもらっています。ひとりひとりの状況を把握し、きめ細かく指導しているので、他大学と比較すると競争意識がもうひとつなんだろうなって思います。
しかし現状は故障させないようにするので精一杯です。BラインからAラインに上がってきたことでAラインの選手たちは適度な危機感を抱いているので、それでいいのかなって思っているんですけど(苦笑)」
全国の大学が箱根駅伝予選会に出場できる意義
箱根駅伝は再来年100回大会を迎える。その記念大会として、来年の予選会は関東圏の大学だけではなく、全国の大学が出場できる。ただ、これはまだ100回大会だけの限定で、それ以降、継続されるかどうか未定だ。箱根駅伝の全国展開は、前から叫ばれていたことだが、大後監督は、全国展開についてどう考えているのだろうか。
――箱根駅伝の全国展開化は、100回大会以降も継続すべきでしょうか。
「とてもデリケートな質問です。私は日本学生陸上競技連合の強化委員を仰せつかっています。あくまで個人的な意見ですが、地区の競技力格差を埋めるためだけを狙うのであれば、箱根駅伝を全国化するのは一定の効果があるのかもしれません。
現在、高校生の上位8割程度が関東学連所属の大学に進学し、一極集中化が現状です。分散化を第一優先事項とするならば、どの地区でも箱根駅伝に挑戦できるということになれば選手は出身地に残る可能性が出てきます」

――本当に、箱根の全国化だけで関東一極集中が解消できるのでしょうか。
「一助になる可能性があるということです。多くの高校生が箱根駅伝を目指したとしても、現行では20大学、各チーム10名しか走れません(連合チームを含めれば21チーム)。冷静に考えても狭き門です。また仮に箱根駅伝が全国化されたとしても出場チーム数が増える可能性は低い。
しかし厳しい状況でも箱根駅伝に挑戦する門戸が開かれれば、各地区に将来性のある選手が残り、本格的な選手強化を考える大学も増える可能性があります。結果、選手強化に多様性と多角的という要素が加わり選手の活躍の場が広がることが考えられます。
また今の構図では、実業団チームの強化戦略にも影響を及ぼしてしまっている。どういうことかというと、関西や九州を拠点にしている実業団チームが東京にも拠点を置くようになってきています。理由は関東で活躍した大学生が競技を継続する場合、可能な限り強化環境を変えたくない傾向があるからです。
実業団チーム側も将来性のある選手を招き、マラソン、トラック競技にて日本を代表する選手を育成しながら、駅伝競技でも好成績を収めていきたい。学生の要望に寄り添うために関東地区での強化拠点を準備しなければならない状況があるからです」
――大後監督は、今後も毎年、箱根を全国規模で開催すべきとお考えですか。
「これまでの意見を集約すると、全国化推進派のように思われるかもしれません。しかしながら事はそう容易ではありません。100回大会以降の方向性については、関東学連内でも議論を重ねる必要がありますし、各地区学連を統括する日本学連とも情報を共有し進めていかなければならないと思います。
個人的には全国規模の大会は出雲の選抜駅伝と秩父宮賜杯を掲げる全日本大学駅伝がありますので、この2大会で十分ではないかと思います。その上で学生アスリートの全国的な強化課題をどの様に解決していくのか。必要以上に箱根駅伝に期待するべきではありませんし、箱根駅伝の適切な関わりについての具体的な方策を考えなくてはならないのだと思います」
4年生の走りが勝負の命運をわける
箱根予選会を突破すれば、本戦へとチームは向かって行く事になる。夏合宿の情報が大学間で行きかい、SNSなどでチーム情報などが容易に入ってくる時代になったが、「今年は、よりチームが見えない」と大後監督は言う。
――来年の箱根駅伝は、どんな戦いになるのでしょうか。
「正直、予想がつかないですね。今年もコロナの影響で、どこの大学も苦しんでいます。出遅れた選手については、工夫して秋の準備をさせていますが、大学によっては合宿ができないという情報も入ってきています。
こういう時は、最終的に走力だけではなく、結束力とかが要求されるのではないでしょうか。そこは他の大学に負けないようにしていきたい。もしかすると、その要素が最後の勝敗を分けるような気がします」
――戦力的に大きなカギを握るのは、何でしょうか。
「4年生ですね。最終学年の力は凄いなって本当に感じます。3年生まで鳴かず飛ばずだった選手が、4年生になって突然頭角を現すようになる。今までもそんな事を体現した多くの4年生がいました。集中力が凄い。夏から信じられない頑張りを見せて、箱根を担う。最後の意地というか、最後だっていう気持ちがそうさせるのかなと思います」
――目標はシード権になるのでしょうか。
「シード権確保です。毎回、箱根に出る度にシード権と言っていますが、昨年の12位でどこまでレベルを上げなければいけないのか、選手は体感してくれていると思います。そこに挑戦していきたいと思っています」
チーム内改革を進め、徐々に成果が見え始めてきた神奈川大学。国学大の前田康弘監督を始め今の若い監督たちが選手だった頃、神奈川大をどう倒すのかに集中していた時のように、「打倒・神奈川」と他大学に呼ばれるチームに進化できるか――。
そのための脚作りが今、静かに進んでいる。
取材・文/佐藤俊
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