2022年7月25日、大阪。リオネル・メッシ、ネイマール、キリアン・エムバペ、セルヒオ・ラモスなどを擁する強豪パリ・サンジェルマンは、「ジャパンツアー2022」でガンバ大阪を2-6と下した。川崎フロンターレ、浦和レッズに続いて、Jリーグのクラブを相手に3連勝で”宴”を締めくくったわけだが…。
実はデータを眺めると、意外にもガンバが健闘ぶりがわかる。
パス本数、パス成功率、コーナーキック数は拮抗し、ボール支配率ではわずかながら上回った。シュート本数では倍近く引き離されたものの、ガンバも16本打っている。事実、2得点したわけで、数字だけを見れば、「勝機はあった」とも言えるかもしれない。
だが、残念ながら、それは誤解だ。
ガンバが善戦したのは間違いないが、完敗だった。そこには、「日本サッカー < 世界」のフットボールの隔たりが見えた。そして、その差はE―1選手権優勝、カタールワールドカップにつながる教訓となるはずで…。
日本サッカーに絶対的に足りないもの…パリ・サンジェルマンが突きつけた世界との差
パリ・サンジェルマン「ジャパンツアー2022」で突きつけられた世界との差。日本サッカーには何が足りないのか?
データではガンバの健闘が光る
小手調べからのギアチェンジ
パリは、前半15分までガンバの実力を推し量るような戦いをしている。慎重になったわけではない。肌を合わせる中、どこまでの強度があり、どれだけのプレーレンジで、どこに綻びがあるのか。腰を据えて受け止め、ジャッジを下した。
これは欧州・南米における戦いの常道である。
少し脱線するが、ジョゼ・モウリーニョやディエゴ・シメオネなどの名将は、この“正攻法”を逆手にとって、最初の15分で一気に勝負を決める戦術を駆使している。相手の虚を突いて、対応する隙を与えない。それだけのインテンシティで攻め切って、試合を決めてしまうのだ。
話を戻そう。一つの潮目は、左のウイングバックであるヌーノ・メンデスが対面する小野瀬康介へのリアクションにあった。
序盤、メンデスは小野瀬のボールテクニックで後手に回っているように見え、間合いを警戒していた。しかし17分だった。ボールを受けた小野瀬を馬力で凌駕し、ボールを奪い返すと、豪快にカウンターを発動した。相手の実力・間合いを「恐れることはない」と見切り、攻勢に出たのだ。
これを合図に、チーム全体でもパリはガンバを攻め立てた。ハイラインを敷いたガンバの裏を悉く破った。じわじわと、各所で地力の差を見せつけた。
ガンバ陣営は、その重圧に晒されていたのだろう。ディフェンスの三浦弦太はあろうことか、目の前に来たメッシに慌ててぶつけてしまった。ネイマールにこぼれ球を拾われ、再びメッシが受けてシュートを打ち、そのこぼれをパブロ・サラビアに蹴り込まれた。
ガンバの戦いは高いラインを保ち、勇敢ではあったかもしれない。しかし力の差を考えたら、蛮勇に等しかった。手の内を見せないようないやらしさがなく、勝負の駆け引きで純朴過ぎた。
しかし2-0にされても、ガンバの選手たちは矛を収めなかった。点差がついて、パリにゆるみが出たのもあったか。右サイド、小野瀬が鮮やかにヌーノ・メンデスの裏を破った。そこからのクロスのこぼれを黒川圭介が押し込み、1点差とした。
前半の数十分間だけで、日本サッカーの無垢で反骨キャラクターが濃厚に出ていた――。
本来の意味での「マリーシア」
過去、日本代表は窮地に追い込まれた時、最大の力を示している。
2010年の南アフリカワールドカップ、2018年のロシアワールドカップは典型的だろう。下馬評は最悪だった。しかし却って選手が奮起し、ベスト16まで勝ち進んだ。
「前評判が悪い方が活躍する」
それはワールドカップだけでなく、どの大会でも恒例と言える。7月のE―1選手権では、弱小・中国とのスコアレスドローで瀬戸際に立たされた。ただ、これでチームは一つに束ねられたところがあった。背水の陣、あるいは反骨心というのか。もともと東アジアでの実力は劣っていないだけに、「二度と失態は見せられない」と士気が高くなり、韓国を鎧袖一触で3-0と撃破し、見事に優勝を飾った。
しかし勝負の駆け引きという点では、改めて無垢な一面をさらけ出した。窮地に立たされてから反発する、もしくは相手に一撃を食らってから目覚めるというのか。先んじて勝つ、相手を引き回して勝つ、その老獪さがない。
反転攻勢に転じられる力はあるが、本来の意味での「マリーシア」がないのだ。
マリーシアとはサッカー界では「ずる賢さ」のように説明され、時間稼ぎのためにボールを角でキープすることや審判に分からないようにファウルする「狡さ」に集約されているが、「90分間を通した駆け引き全般」を指している。11人対11人で戦えば、必ず強い箇所、弱い箇所が出る。そこで弱点を看破し、どのように局面で有利に戦い、効率よく勝利できるか――。
試合の流れをつかみ、たとえ自軍の状況が悪くても、それ以上に悪くしない、抜け目のなさが求められる。
もはや「善戦」はいらない
例えば2006年のドイツワールドカップ、2014年のブラジルワールドカップで、日本はグループリーグ初戦で終盤までリードしながら、敵の選手交代で呆気なく流れを失い、引きずり込まれるように選手交代で生じた流れにずるずると飲み込まれ、あえなく逆転を許した。
結果、最終戦は複数得点以上で強豪ブラジル、コロンビアに勝利することが必要になった。追い込まれた日本は意地を見せた。ブラジル、コロンビアを相手に先制に成功し、一時はゴールに沸き立った。しかし、その後は反撃に出た相手に立て続けにゴールを決められ、大敗したのである。
これを「善戦」と呼び続けるのか。
実はガンバ戦のパリも失点後、すぐに反撃に出ている。失点の責任の一端を負うヌーノ・メンデスが、それを払しょくするように攻め上がり、裏で絶好のパスを受け、左足を振り切ってゴールネットを揺らした。一瞬で借りを返したのだ。
その後、ガンバは失点を重ねながら、もう1点返した。最後まで高いラインを保った戦いで、後半は大差で厭戦気分になったパリに一矢報いている。その反撃姿勢は素晴らしかったが、勝機はほんの少しもなかった。
「後半は守備の課題も出た。あれだけ決定機を与えてはいけない。もっと激しいプレーができるチームにならないといけないし、やるべきことは山積みだ」
パリの将、クリストフ・ガルティエ監督はそう言って、課題に向き合っていた。
日本サッカーも、厳しく現実を受け止めるべきだろう。90分間の中での勝負の駆け引き=マリーシアをどこまで追求できるか。カタールW杯で「善戦」はいらない。
取材・文/小宮良之 写真/Getty Images
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