第104回全国高校野球選手権大会の出場を決める各地方大会が終了し、甲子園で出場する全ての高校が決まった。
今年の注目点の一つとして、11連覇を狙った作新学院が栃木大会準決勝で敗退。また、序盤戦で常総学院などの甲子園強豪校が敗退するなど、波乱含みの年とも言われている。どの学校も努力を重ねているからこそ、時に波乱も起きるのだが、一方で昨今の傾向として色濃くなり、個人的に見逃せないと思っていることがある。
それは大量得点差によるゲーム決着だ。
例えば、千葉県大会の1回戦では千葉学芸が82−0で、わせがくに勝利。三重県大会では津西が60-0で徳風に勝利している。昨今は地方大会での大量得点差が目立つようになってきているが、ついに80点差まできたことには驚かざるを得ない。千葉学芸は1試合でなんと17本塁打。1イニング30得点を2度にわたってマークするなど圧倒的な試合を見せた。
大量得点差試合は相変わらず多く、数年後には100得点差の試合も生じるかもしれない。

82対0のスコアが浮き彫りにした、高校野球予選の課題と改革案
全国各地で熱戦が繰り広げられた、第104回全国高校野球選手権大会の地方予選。強豪校の敗退などが注目を集めた一方で、長きに渡り高校野球を追い続けている氏原英明氏は「ある課題」が浮き彫りになったと指摘する。高校球児の命にも関わる課題とその改革案について考えたい。
大量得点差の試合が大きな話題に
チーム強化に大きな差が生じている
なぜ、それだけの差が生まれてしまうのだろうか。これは単純に、学校間のレベルの差が如実に表れた結果といえる。
同じ試合をした時に、次も82−0の得点差がつくかどうかは別にして、現時点で両チームにこれだけの差があるのは間違いない。
ただ、現在の高校野球事情を鏡みれば、当然の帰結ともいえる。なぜなら、学校ごとに野球部を強化するレベルに差が生じているからだ。
単純に考えて、高校野球の強豪チームになり得る要素には、主に以下の3つが挙げられる。
1 選手の質と量
2 それに見合うだけのグラウンドと指導者の人数
3 練習時間
もし、全国の野球部に部員制限があり、練習時間制限もあり、他府県への野球留学が禁止されていたとしたら、これほどの差にならないだろう。
しかし、今の高校野球にそのようなルールは存在しない。選手をたくさん抱えられるチームはどんどん選手層に厚みを保つことができるし、練習時間は深夜まで及ぶこともある。多くのOBをコーチとして招聘するチームも少なくない。
選手の質と量を確保できた上に、練習グラウンドがあって、みっちりとした練習時間を確保できる。そういうチームと、部員9人を揃えるのがやっとで、グラウンドは他のクラブと共用。指導者は監督しかいない、といったチームが対戦するとしたら、その差は歴然としたものになるだろう。

photoAC
あえて極論な例を挙げたが、ここで重要なことは、全てを備えられるチームとそうでないチームに大きな不公平感があるということではない。上記に挙げた3つの要素のプラス面とマイナス面がある中でチームづくりを行った際に、大きな隔たりができることを理解する必要があるということだ。
それこそ第1回の甲子園が開催された時、上記3つの要素において、今ほどの違いはなかっただろう。高校野球は部活動であり、学校の授業の延長線上としてのみ存在し、大きな隔たりを生むことはなかったはずだ。
高校野球を語る上で、時に「平等」を口にする人もいるが、今はそんな時代ではないのだ。この現実を受け入れなければならない。
高校球児の安全が守りきれない
また、これほどの大量得点差には、懸念しなければいけないことがいくつかあることも事実だ。
その一つに、先に書いたような技術レベルの差によって生じる「事故の危険性」だ。
2019年夏の甲子園、1回戦・岡山学芸館対広島商の試合で、広島商の打者の打球が岡山学芸館の投手の顔面に直撃したことがあった。
命に別状はなかったが、日本高野連は恐ろしいほどの打球が球児の顔面に直撃するシーンを目の当たりにして、金属バットの仕様変更に踏み切っている。
この事案は、全国大会に出場している学校同士の試合で起きたことだ。これにより新たなルール設定につながったが、実力差があった場合、その危険度は金属バットの仕様を変更したからといって守られるものではない。
強い方のチームが放った痛烈な打球を、野手がグラブに収められず頭部直撃した場合、どんな災難が待っているかは容易に想像できるだろう。
また、千葉学芸対わせがくの試合がそうであったように、1イニング30得点が2イニングも続くということは、それだけ守備時間が長いということでもある。炎天下の中で何時間も守備に立ち続けていたら、熱中症のリスクが高くなる。事実、この試合では数名の選手に足の痙攣があったという。
そして、投手の登板過多も危惧される。82得点も失ったということは、その分、投手は投げなければいけない。昨今は投手の登板過多について、高校野球界では議論が激しくなっているが、大量得点差試合では投手の球数が多くなってしまい、時代に逆行したことを招く危険性もあるのだ。
大量得点差が起きるのは、両校に「取り組みの差がある」と片付けることもできるかもしれない。しかし、そこに死の危険性、高校球児の身の危険があることを理解しなければならないのではないか。
レベル差を考慮した「2次予選形式」の導入を
では、今後の高校野球はどういう手立てを打つべきなのだろうか。
まず一つ目は、先に書いてきたように、高校野球は部活動でありながらチームを強化する段階において、各校に大きな隔たりがあるのを理解するということだ。
「平等」を謳ったところで解決策はない。それほどチーム強化に「違い」がある。
それを理解した上で、各府県の出場校を過去の成績から実力レベルにランク分けし、その上で、実力最上位のチームと下位に位置する高校は対戦することがないよう大会のシステムを変更する必要がある。
ここでお勧めしたいのが、夏の大会を「2次予選形式」にするという案だ。
簡単に説明すると、1次予選は5月くらいから開催。2次予選は通常の7月初旬から下旬にかけて行うというものだ。5月の1次予選にはランク別の最下位グループから3カテゴリーくらいが出場。勝ち上がったチームのみ2次予選に進む。一方、2次予選は1次予選を突破したチームと残りの上位カテゴリーチームが出場し、甲子園の切符を賭けて戦う。
この方式の利点は2つある。
一つはレベルの最上位と下位チームの対戦を避けることで、怪我や事故のリスクを防ぐこと。もう一つは、全高校球児に大会出場のチャンスを担保しつつ、大会を早期に開催することで、受験勉強や就職への切り替えを通常より早く促すことができる点だ。
周知のように、同じ高校スポーツの全国大会「インターハイ」は7月下旬から8月にかけて開催される。甲子園とほぼ同じような時期だが、その予選は5〜6月の時期に開催されている。高校野球より早いのだ。
サッカーやバスケットボールのように、冬にも全国大会が開催される競技はあるものの、他の競技者は高校球児より早く受験勉強に切り替えている。早く受験に備えたいと言っても、これまで続けてきた野球を途中で諦めてしまうのではスッキリしない。どの高校球児も高校3年間をやりきって野球に区切りをつけたいと思っている。だから、大会は残しつつ2次方式に分けて先行開催することで、球児たちの想いに応えるというものである。
そして、2次予選である本予選は通常通りの開催だが、すでに1次予選で数校が敗退しているため、いつもと同じ期間でやっていたとしても、日程は緩やかにできるはずだ。1次予選も2次予選も実力相応の拮抗した大会になり、日程も窮屈にならない。
82−0の大量得点差の試合があったことは、異常なこととして受け止めなければならない。「同じ高校生だ」と言っても、取り組んでいるレベルには大きな隔たりがある。この事実を受け入れ、死者や事故を起こさないためにも、新たな改革が必要だ。
高校野球のランク分けを行い、安心・安全な大会の開催を望む。
文/氏原英明
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