このまま終われない。もう一度勝負したい。

2019年9月30日。レギュラーシーズン最終戦。相手は中日ドラゴンズ。すでにシーズンを戦い終えた3位・広島とはゲーム差なし。負ければ4位、引き分けでも勝利数が上回る広島が3位となる。クライマックスシリーズに進出するには、引き分けさえ許されない。

自分にとっては、阪神タイガースのユニフォームを着て戦うのは最後になるかもしれないということで、みんなが試合前に背番号1のTシャツで迎えてくれた。

「まだ引退するって決まったわけじゃないけど……」と思いながら、バックスクリーンを背に写真を撮ると、自然と笑みがこぼれる。

気を遣ってもらって「先発出場を」という話もいただいたが、チームにとって大切な試合。2019年シーズン限りでの引退を表明していたランディ・メッセンジャーにとっては、本当にラストゲームになる可能性があったので、自分のことだけを優先するわけにはいかない。これまでの流れを考えて、丁重にお断りさせていただいた。

試合前、かつて同じ阪神タイガースのユニフォームを着て戦った赤星憲広さんから声をかけてもらい、こう問われた。

「現役を続けようと思った時に、家族の反応はどうだったの?」

チームが変わるということは、生活環境が変わるということ。もし関西以外を本拠地とするチームに移籍が決まった場合、単身赴任の形になるだろうとは考えていた。正直に言うと、家族を関西に残したままになるというのは、自分のなかでも引っかかっていた部分だった。でも、「どういう形でもいいから野球を続けてほしい」と嫁さんや子どもたちが言ってくれていた。

「もし、家族から、お父さん……もういいよって言われていたら?」

赤星さんから再び質問を受ける。もしそう言われていたら、素直に引退していたかもしれない。このまま終われない。もう一度勝負したい。そう思わせてくれた最終的な決め手は、家族の声だった。