6月10日~12日に開催されたアメリカ女子ツアー「ショップライトLPGAクラシック」で4戦ぶりに予選通過して17位と、ドツボからの復活が見えてきた渋野日向子。そのスイング復調のバロメーターは、「直ドラ」との説が……。
直ドラとは、ティーアップせずに地面のボールをドライバーで直(じか)に打つこと。4月にハワイ・ホアカレイCCで開かれた「ロッテ選手権」で、メジャーチャンピオンのキム・ヒョージュ(韓国)とデッドヒートの末、2位になった渋野。彼女はこの試合の4日間で5回も直ドラを放った。いずれも距離のあるパー5の第2打で、ボールはフェアウェイにあって打ちやすい状態だった。

渋野日向子は「直ドラ」で復調できるのか? タケ小山は試合での有効性に否定的
渋野日向子が4月の「ロッテ選手権」で多用し、大きな話題になった「直ドラ(じかドラ)」。繊細で難度が高く、プロの試合でもあまり見られないショットだが、直ドラにはどんな利点があるのか? なぜ渋野は多用したのか? アマチュアにもできる技なのか? プロゴルファーで解説者のタケ小山氏に聞いてみた。
解説者は直ドラの有効性に否定的

ロッテ選手権で2位になった渋野日向子 画像/Getty Images
「直ドラを打ちやすい状況でも、プロは試合ではほとんどやりません。中継なんかを見ていても、ほとんどいないでしょ。向かい風が強いとか、地面が固いとか、ボールを上げたくないとか、できるだけ距離がほしいとか、いろんな状況があって直ドラという選択になるんだろうと思います。ですが、現在のマルチコアのボールや進化したクラブなら、直ドラよりも高い確率で、望んだ軌道に近い球は打てるはずなんです」
プロゴルファーで解説者のタケ小山氏は、直ドラを試合で使うことにやや否定的なニュアンスで解説し、こう続けた。
「現在のドライバーのヘッド(体積)はほとんどが大型の460㏄です。これだとセットアップしたとき、ボールの芯にドライバーのスイートスポット(真芯)が届かず、ヘッドの下側にしか当たらないと思いますよね。ちょっと専門的な話になりますが、ヘッドが大型化して重心深度が深くなりました。そうするとどうなるか。ボールにヘッドのフェース(打球面)が当たったときに、ボールがフェースの上を滑っていくというか、ヘッドがボールの下に潜り込んでいくような動きをするんです。
その結果、ボールにバックスピンが入ってきます。プロはヘッドの下側にしか当たらなくても、ボールにスピンが入って上がることがわかっているので、ボールの赤道にリーディングエッジ(打球面の下側先端)が当たるように打ってくるんです。そんなに難しいことじゃないです。もちろん、ある程度のヘッドスピードとスイングの正確性がなければ、ボールは上がらないし、捕まえられませんけど。渋野はハワイの時には、自信があったんじゃないですか」

「直ドラ」について解説したタケ小山氏 撮影/一ノ瀬 伸
直ドラ猛練習で調子を取り戻す?
ハワイの「ロッテ選手権」での渋野のスタッツを調べてみると、フェアウェイキープ率(※パー3以外のホールでティーショットがフェアウェイにとどまる確率。主にドライバーショットの正確性を測る目安)は驚異の83.9%。56ホールのうち47ホールでフェアウェイキープをしている。やはりこの時点で渋野のドライバーは絶好調だったのだ。
一方、渋野は5月に一時帰国して参戦した「ブリヂストンレディスオープン」で予選落ちを喫している。予選2日目のフェアウェイキープはわずか4回。率にして28.6%と、ハワイのときとはまるで別人のようだ。それだけ状態が深刻だったのだろう。

5月の「ブリヂストンレディスオープン」で予選落ちした渋野 画像/Getty Images
予選落ちが確定した2日目のホールアウト後、渋野はドライビングレンジで1時間以上も直ドラの練習に打ち込んでいた。メディアには「やけくそで直ドラ打ちまくってました」と話していたそうだが、ティーアップしない、より難しい条件で練習することで、好調時のドライバーの感覚を取り戻そうとしていたに違いない。そして、その成果が今回の4戦ぶりの予選通過、17位という結果だったのだろう。
ところで、我々アマチュアは直ドラをしてもいいのか? タケ小山氏はこう言う。
「練習さえすればやってもいいと思いますよ。同伴プレーヤーから、『おおっ、アイツ直ドラやってるよ!』という注目を浴びるくらいの効果は期待できます」
やはりアマチュアは、渋野の直ドラを見るだけで満足しておいたほうが無難なようだ。
取材・文/志沢 篤