今年の交流戦でファンが最も関心を持つのは、ロッテの佐々木朗希がセ・リーグの打者相手にどんなピッチングをするかだろう。井口資仁監督は中6日ペースで金曜日の登板を続けると話しているから、日程的に阪神、巨人、DeNAの順番で対戦することになる。
では、セ・リーグの打者たちが佐々木朗を打てるかといえば、率直にいって打てる気がしない(苦笑)。いや、まったく歯が立たないんじゃないかとさえ思っている。
もし打ち崩すことがあるとすれば、彼の調子がよほど悪く、真っ直ぐも走らず、コントロールもイマイチ……といった場合だけではないか。それくらい力量の差があるように感じる。
佐々木朗の凄さは、言うまでもなく球の速さだ。5月20日のソフトバンク戦では、投じた45球のストレートのうち、91%にあたる41球が160キロ超え。この日のストレートの平均球速は161.1キロだったというから、もはや人間(打者)の対応力を超えている。
投手が150キロ台のボールを投げて、ホームベースを通過するまでの時間は約0.4秒だという。対して打者がそのボールに反応し、スイングを開始して叩くまでが約0.2秒。つまり打者は差し引き0.2秒の間にその投球がストライクなのか、さらには打てる高さ、コースなのかを判別しなければならないわけだ。
それが163キロ、164キロとなったら、それこそボールをリリースした瞬間にバットを振りに行かなくては対応できない。
セ・リーグの打者からすれば未知の球速だろう。昨日までほとんど140キロ台後半の真っ直ぐばかり見てきて、今日、いきなり160キロを打てと言ったって、それは無理というものだ。さらに150キロのフォークもある。普通の投手の真っ直ぐより速いのだから、まさにバケモノだ(苦笑)。

【交流戦開幕】セ・リーグの強打者たちがロッテ・佐々木朗希を攻略する、ただひとつの方法
5月24日から開幕するプロ野球交流戦。ここ10年で9度勝ち越すなど、圧倒的な強さを見せてきたパ・リーグだが、今季の注目はなんといってもロッテの佐々木朗希投手。はたしてセ・リーグの打者たちは彼を打ち崩すことができるのか? 近鉄、ヤクルト、巨人などでコーチを歴任してきた野球評論家の伊勢孝夫氏が展望する。
ストレートの平均球速が160キロ超え
狙うべきコースは外角、高さはベルト付近
対応策はあるのかと問われれば、打撃マシンの球速を最高にして、まずは目と身体を160キロ超のボールに慣らすところから始めるしかない。おそらくセ・リーグ各チームはすでにやっているはずだが、これに慣れるには最低でも十日くらいの時間は必要だ。
あとは打席への臨み方。佐々木朗はストレートとフォークが基本の投手だ。ストレートでどんどんストライクを取り、フォークで空振りを奪うのが基本パターンだ。走者を許したときなどを除けば、ボール球で様子を見ることもなく常に攻めてくる。だから打者はいたずらに待球してもカウントを不利にするだけだ。
となればバットをグリップひとつ、あるいはふたつぶん短く持ち、ファーストストライクから積極的に打ちにいく。そして強引に引っ張らず、センターから反対方向(右打者ならライト、左打者ならレフト)に打ち返すことを心がける。狙うはストレートのみ。結果、フォークを投げられての空振り三振には目をつむるしかない。
5月13日、敗れこそしたものの、オリックスの打者は初回からこの戦法を実践していた。単純だが策はこれしかない。大事なのは1番打者から9番まで全員が、この策を徹底することだ。もちろん主軸も同じ。
そうしてジワジワと攻めることで、佐々木朗のペースを乱していくしかないが、今のセ・リーグの打者では、それも難しい印象だ。
対戦する可能性の高い阪神、巨人で言うなら、攻略できそうなのは阪神なら近本光司、佐藤輝明、巨人なら吉川尚輝、坂本勇人あたりの、比較的速い球にも対応できるスイングの選手だけだろう(ただし、吉川は故障あがり。坂本も膝の靱帯を痛めており、交流戦には間に合わない可能性が高い)。
やはり狙うべきコースは外角で、高さはベルト付近。センターから反対方向を狙うのならば、この一点に絞るべきだろう。フォークは捨てて真っ直ぐのタイミングだけで待つ。その上で、ストライクを取りに来た真っ直ぐが、ややすっぽ抜けたような球質ならばラッキーといったところか。
セ・パ格差の原因の一端はドラフト戦略にあり
巨人では不振だった岡本和真が調子を上げつつあるようだが、まだバットが遠回りして出てくる。わかりやすく言えば、構えた位置から約45度、バットが最短の角度でボールを捉えるのがいいスイングなのだが、ヒットが出なくなっていたここ最近は、バットがやや下がってから振りにいっている。そのぶん、ボール一個ぶんほど遅れてバットが出てくるから、捉えることができなくなっているのだ。
DeNAは宮崎敏郎あたりに期待したいところだが、最近の試合を見る限り、集中力そのものが落ちていて、低迷するチームを反映しているような印象を与える。もし佐々木朗の調子が良ければお手上げだろう。
パ・リーグを見渡すと、佐々木朗以外にも千賀滉大(ソフトバンク)、山本由伸(オリックス)、田中将大(楽天)と好投手ぞろいだ。
同じリーグにいい投手がいれば、その投手を打ち崩そうと打者が工夫し、打撃を磨く。それで打者が優位に立てば、今度はその打者を抑え込もうと投手もピッチングを高めていく。そうした相乗効果が今のパ・リーグにはある。
なぜ、パ・リーグとセ・リーグで、こんなにも差がついてしまったのか。それはドラフト戦略にも原因の一端があるのではないか。
セ・リーグは比較的まとまった、言い換えれば粗さの少ない選手を獲る傾向があるように思える。投手で言うなら160キロは期待出来ないが、変化球の精度はそこそこ高く、大崩れしないタイプ……無難と言ったら失礼かも知れないが、こうした傾向が変わらない限り、当分、パ・リーグ優位は変わらないだろう。
構成/木村公一 写真/共同通信社
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