大相撲夏場所が盛況をみせるなかで、新世代の若手力士たちが注目されている。春場所で初優勝を飾った関脇・若隆景(荒汐部屋)が今場所も賜杯を抱き、一気に大関への足がかりをつくるか。さらに同じ関脇の阿炎(錣山部屋)、小結・豊昇龍(立浪部屋)、春に11勝4敗の活躍で敢闘賞を受賞した琴ノ若(佐渡ヶ嶽部屋)らの活躍にも期待がかかる。
しかし、将来へ向けた明るい話題の一方で今、土俵にひとつの危機が忍びよっている。それが「横綱空位」だ。
注目は、先場所6日目から右かかと、左ひざのケガで休場した横綱・照ノ富士(伊勢ケ浜部屋)が復活できるのか。そして、御嶽海(出羽海部屋)、正代(時津風部屋)、貴景勝(常盤山部屋)らの大関陣が奮起するのか。もし、この2つがかみ合わなければ「横綱空位」が現実となってしまう。
夏場所前。ある協会幹部は「次の横綱へ上がる力士候補がいないんだよな」と嘆いていた。
最有力は初場所で3回目の優勝を飾った御嶽海だったが、綱取りとなった先場所は11勝止まり。しかも、負けた4つの黒星は、すべて格下の平幕相手と内容も印象も悪かった。ほかの2大関は正代が9勝6敗、貴景勝は8勝7敗と勝ち越すのがやっと。優勝争いにからむこともなく大関の責任を果たしたとはいえない成績だった。先場所優勝した若隆景は、今場所はまさに真価が問われ、阿炎、豊昇龍は未知数の印象はぬぐえない。たしかに幹部がなげくように次の横綱をになう人材が「いない」ことはまぎれもない事実だ。
さらに、深刻なのが初日を黒星で終わった照ノ富士のケガの状況。春場所で休場した際に師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱・旭富士)が「あのケガで普通に相撲をとっていること自体が大変」と明かすほどの重傷だった。今場所、どこまで回復するかがカギとなるが、伊勢ケ浜部屋関係者は進退を決める覚悟を持っていると話す。
「ケガで序二段まで番付が落ちたにもかかわらず、復活して横綱にまで上がった照ノ富士にとって自分の相撲人生はやりきった感がある。あとは、ケガを抱えているヒザがどこまで持つか。もう1回、負傷すればいさぎよく引退を決断する可能性は高い」
すでに国籍もモンゴルから日本へと帰化し、引退後も相撲協会へ残る準備を固めている照ノ富士。大関陣、あるいは新世代が一気に飛躍せず照ノ富士がケガを再発、あるいは横綱としての成績を残すことができなければ、横綱の空位が訪れるのだ。

大相撲夏場所、令和初の日本人横綱誕生への期待と立ちはだかる深刻な2つの壁
観客数の上限を拡大し、通常開催に近い形で開催している大相撲夏場所。しかし、そんなにぎわいを見せる角界に「横綱空位」という危機がせまっている。次に横綱になるのははたして誰か!? 誕生の予感はあるものの、何かもの足りない大関・関脇陣。角界関係者を取材し、未来の横綱候補をさぐった。
満身創痍の横綱・照ノ富士の引退は近い!?
横綱空位以上に深刻な大相撲の問題点
1909年に優勝制度が設けられてから横綱空位時代は2度しかない。最初が1931年5月場所から1932年10月場所までの6場所。2度目が1992年夏場所(番付上は名古屋)から1993年初場所までの5場所(番付上は4場所)。
横綱は、いうまでもなく大相撲の看板であり相撲協会の顔。大黒柱が空位となれば、土俵は空虚な場所となってしまう。3度目の不名誉な時代を防ぐためにも大関陣の奮起が急務となる。
横綱昇進の条件は、「大関で2場所連続優勝あるいはそれに準ずる成績」と掲げられている。高いハードルを越えるために必要なものは何か。貴景勝の高校時代の恩師で数多くの関取を輩出している埼玉栄高校相撲部の山田道紀監督は、まず貴景勝について「大関に上がってからケガをして、治ってまたケガをしての繰り返し。まずは、ケガを治しきって本当に稽古を積める体をつくるのが先決です」という。さらに照ノ富士に続く横綱が生まれない状況をこう解説する。
「今の力士は、いつ稽古をしているのかなと思う。場所中はほとんど稽古をしない力士が多いですよね。場所が終わると、1週間は休んで、そこから自主トレーニングを始めて、初日の2週間前から本格的に稽古をしているはずです。けど、本当にそれだけでいいのかなと思います。他のスポーツを見てください。世界を股にかけているトップ選手たちは、朝から晩まで練習していますよ。それに比べると、どうなのかと思ってしまうんです」
続けて角界の稽古不足は「誰が優勝するかわからない」群雄割拠の時代を生んでいるという。
「特に相撲は感覚のスポーツ。肌と肌の感覚を脳に浸透させていくことが大相撲で実力をつける秘訣で、それには稽古しかないんです。そこが足りないから今は、誰が優勝するかわからない。私はアマチュアの監督ですから偉そうなことはいえませんが、見ていると今は横綱から大関、三役、幕内まで番付ほど実力差はないのではないでしょうか。その場所によってバイオリズムがいい力士が優勝している。だからこそ、稽古を誰よりも積んで肌と肌の感覚、肌感を養えば頭ひとつ抜けだせる時代だと思います」
山田監督は、現役力士では貴景勝を筆頭に琴ノ若、北勝富士、琴勝峰、妙義龍らを高校時代に育ててきた。魅力ある関取、そして、横綱、大関を生みだすためにも相撲協会が主体となって相撲の普及活動に乗りだすことが必要だと力説する。
「子供たちの相撲人口は減っています。これは非常に危機的な状況です。そこでたとえば、協会が幕下で品行方正な人物を普及委員として協会で雇用し、全国へ派遣するなどの普及活動をするべきだと思っています。子供たちへの相撲教室や大会を開いたり、1人でも多くの子供たちに相撲のすばらしさ、魅力を伝える。そういう地道な積み重ね以外に将来の関取を生みだす方法はないと思います」
「稽古不足」と「相撲人口の減少」。
忍びよる「横綱空位」の危機は、抜本的な相撲普及策を考えなければいけないという大相撲の現実も抱えているのだ。
取材・文/中井浩一
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