タイガー・ウッズ(アメリカ)の本格復活なるか、松山英樹は2年ぶり2度目のグリーンジャケット獲得なるか、など数々の話題を集めた「第87回マスターズ」。
悪天候に翻弄されながらも、今季絶好調のジョン・ラーム(スペイン)が優勝した。最終日最終組でラームと激しく優勝を争ったのはブルックス・ケプカ(アメリカ)。最近のパワーゴルフを代表するムキムキなマッチョゴルファーの対決が注目を集めた。

マスターズ王者ラームはガチムチ、石川遼もマッチョ化! でも…ゴルフに“ムキムキボディ”は必要なのか?【タケ小山が解説】
4月6〜9日に開催された「第87回マスターズ」は、ジョン・ラームがスペイン勢4人目のチャンピオンに輝いた。ラームといえば印象的なのがムキムキな腕。日本では石川遼が年々、その肉体に磨きをかけているように見える。だが、はたしてゴルフはマッチョが有利なのだろうか? ゴルフ解説者のタケ小山氏に聞いてみた。
過剰な筋肉はゴルフの邪魔になる?

今年のマスターズを制したジョン・ラーム
23回連続予選通過という偉大な記録を残しながらも最終日で棄権となったウッズや、惜しくも予選通過が叶わなかったローリー・マキロイ(イギリス)、ブライソン・デシャンボー(アメリカ)など、PGAツアーには、肉体を鍛え上げたマッチョなボディを誇る選手が数多くいる。
日本でも近年の石川遼は、かなりマッチョな体をつくってきている。一方、今回のマスターズで史上最年長、52歳で2位となったフィル・ミケルソン(アメリカ)は肉体改造により「大学生の頃以来」というスリムなボディでパトロン(マスターズの観客)を驚かせた。

2022年8月、「Sansan KBCオーガスタゴルフトーナメント」に出場した当時30歳の石川遼(10〜20代の石川の写真は3ページ目)
また、2つのメジャー(2020年全米プロ、2021年全英オープン)を初出場で制した若手、コリン・モリカワのようなスリムな選手も活躍している。
かつてはプロに限らず、「過剰な筋肉はゴルフの邪魔になる」といわれていたのも事実だ。
ゴルフもスポーツである以上、ある程度のパワーが必要なのは当然だろう。しかし、ゴルフ経験者の多くは、「力を抜いて」というアドバイスを受けていると思う。
はたしてゴルフにマッチョなボディは、本当に必要かつ有効なのだろうか?
「筋トレを一切やらない選手もいる」
プロゴルファーで解説者のタケ小山氏は言う。
「ウッズとかマキロイはたしかに好きですよね、筋トレ。ものすごい体をしていたデシャンボーは、どうも体を壊してやめちゃったみたいですけどね。
みんな筋トレをやりたくなっちゃうんじゃないですか。やらない選手は一切やらないですけどね。
コリン・モンゴメリー(1993~1999年、2005年の計8回のヨーロッパツアー賞金王)は、筋トレをやらなかったです。選手生命が長い選手でやらない人はいっぱいいます。
デービス・ラブ3世(PGAツアー21勝、うちメジャー1勝)もやってるふりしてやってなかったですね。
その時代に強かった中でやってたのは、グレッグ・ノーマン(PGAツアー20勝、うちメジャー2勝)。彼はトレーニングフェチだったから。まあ、二手に分かれるんです。やる派とやらない派に」

プロゴルファーで解説者のタケ小山氏
やる派、やらない派、それぞれに根拠や思惑があってそうなっているのだろうが、選手の好み以外に、どんな理由があって分かれていくのか?
「ムキムキになるような筋トレは、やり過ぎると関節などの鍛えられないところが故障してしまうことがあるんです。たしかにパワーはつくんですけど。
単純に筋トレでマッチョな体をつくって成功したという話は、あんまり聞いたことないです。
基礎的なトレーニングはともかくとして、故障するとその箇所とその周囲を鍛えるためにフィジカルトレーニングを始めて、理学療法、フィジカルセラピーで治していく。
アメリカの場合、故障すると選択肢はふたつなんですね。手術をするかトレーニング(フィジカルセラピー)をするか。
僕自身も左肩の回旋盤を故障したときに、アメリカの有名な医師にそのふたつのチョイスを提示されました。
自分はもともと手術とかが嫌いだったから、トレーニングで本当に治るかと聞いたら、『タケくらいの故障だったら、回旋盤そのものを治すのではなくて、周りの筋肉を鍛えることで治すことができる』と。肩回り、特に左肩は、ゴルファーは故障しやすいんです。
結論を言うと、僕はトレーニングで治しました。少し話はそれましたが、故障をしたからとか、故障を防ぐためにトレーニングを始めるケースは多いんです。
それで、やり始めると、球が飛ぶとかパワーが増すとかでみんなさらに筋トレしていくんです。
そういう中で、ちょっとナルシストな人は体をカッコよくしようとトレーニングにどんどんのめり込んでいっちゃう。
あと、やっぱり選手は不安があるとたくさんトレーニングをやりたくなるんですよね」
タケ小山氏はこう分析してくれた。
筋肉量と優勝回数は比例しないが…
では最終的に、プロとして戦う上で、ムキムキな筋肉は有効なのか?
「筋トレしたらゴルフがうまくなるかと言えば、そんなことはありません。筋肉量と優勝回数は比例しません。
ただ、石川だって、あれだけムキムキになれば、たしかにパワーはついたろうと思います。それと故障しにくくなったんじゃないでしょうか。
自分が学生の頃は、筋トレなんて先輩のキャディバッグも一緒に担いで回ることくらいだったけど、今は高校生だってウエイトトレーニングをやってます。
そうしたほうがゴルフという競技にプラスだという判断があるからですよね」
もうひとつの要素として、アスリートが大人の体になっていく過程で、マッチョな方向に向かうということもあるようだ。
「石川とか松山は、10代の頃からプレー中の写真が残ってますよね。特に石川は15歳で初優勝しちゃったわけだから。その頃はふたりとも、いわば子どもの体で線が細い。
一般のファンも含む我々は、そのときから見てるからなにかすごく意図的に体をつくってるように感じるけど、その変化はふたりの成長なんですよね。
まあ今、石川はマッチョで松山は野武士みたいな体躯になってますけど」

16歳の石川

21歳の石川
プロレベルでは、筋トレは必要だが、特に“ムキムキボディ”であること自体はそれほど重要ではなさそうだ。
しかし、アマチュアレベルでは、ケガをしない、安定したプレーをするために、適度な筋トレはできるものならやっておくに越したことはないだろう。
取材・文/志沢 篤
写真/共同通信、Getty Images
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