1次ラウンドの侍打線の爆発は、もちろん大谷翔平の好調さもあるが、私は1番を打つヌートバーが打線の持ち味を最大限に引き出したと感じている。彼があれほど活躍すると、誰が予想しただろう。
相手投手の左右も苦にすることなく、いたずらに引っ張るわけでもなく、凡ゴロでも全力疾走する。明るい性格のようでチームに早く溶け込めたことも成功の秘訣だろうが、あの積極性がはまり、2番の近藤健介、3番の大谷とうまく繋がったことが、いずれのゲームでも大量得点につながった要因だろう。
それにしても大谷は地球人じゃない、宇宙人だ(笑)。パワーとテクニックの次元が違う。具体的に言えば、高めゾーンの打ち方だ。
見送ればボールかも知れないギリギリの高め。日本だったら「上から叩け」と指導されるような高さのボールでも、大谷は低めを打つのと同じ軌道でバットを振っている。一見すると、しゃくり上げるような独特のスイングがそれだ。
普通、あれだとラインドライブがかかってしまい、打球は上がらない。ところが大谷は手首の使い方がうまいので、当たってもドライブはかからず飛んでいくというわけだ。
昔から日本のホームラン打者の打球は大きな弧を描き、そのアーチの美しさから〝ホームランアーチスト〟などと呼ばれたものだが、大谷の打球はミサイルのように飛ぶ。それもパワーがあるからスタンド上段まで飛んで行く。
これまでの日本人ホームラン打者との違いはそこにある。あれはなかなか真似できないもので、強いて探せば、ソフトバンクの柳田悠岐が近いスイングをしているが、パワーは大谷には及ばない。
あのようなスイングは今、メジャーで流行しているようだが、思えば大谷は日本ハム時代から同様のスイングをしていた。ただメジャーに渡り、打球の違いを痛感したのだろう。ムキムキの筋肉を付けてパワーアップしたのは、そうした理由からだと推察される。
【WBC】「決勝トーナメントのキーマンは岡本、牧、山田」侍打線が1次ラウンドで見せた唯一の「死角」を名コーチが分析
唯一の山場と見られていた韓国戦も13対4の大差での勝利し、圧勝続きで1次ラウンドを一気に勝ち上がった侍ジャパン。ここからは負けたら終わりの決勝トーナメントが始まるが、好調の侍打線に死角はないのか。野球評論家の伊勢孝夫氏が分析する。
大谷の打球が「ミサイルのような弾道」を描く理由

1次ラウンドでは12打数6安打でチームトップの打率をあげた大谷翔平
侍打線が見せた唯一の「死角」

侍打線をけん引する1番ヌートバー、2番近藤、3番大谷はいずれも左打者だ。
さて、今大会で好調な打者に共通しているのは、ストライクゾーンに対する見極めだ。近藤健介が良い例だが、結果を出せている打者は、総じてストライクゾーンに来た球をしっかり叩けている。
「今度は流してみようとか、引っ張ってみよう」といった意思が、打席から感じられる。それはストライクゾーンをしっかり把握できているからだ。
国際大会の審判は各国から派遣された人達が多く、かつてはその日によってゾーンがマチマチだったと聞いていた。しかし今回見る限り、極端に日本と違う感じはしなかった。調子の良い打者も、早いうちからそれを察したのだと思う。
ただ、好事魔多し、という言葉がある。打線は水物。ましてや相手が日ごとに変わる国際大会では、今日打てたからといって翌日も同じように打てる保証はない。
それに東京ラウンドは、率直に言って日本とは実力差があるチームばかりだったから、打ったといってもあまり手放しでは喜べない。そこで私が着目したのは、日本打線が打ちあぐね、抑えられたイニングだ。
たとえば3月10日の韓国戦。結果的に13対4で大勝したが、初回、2回の攻撃は、5三振を喫して封じられたイニングだった。以下にスコアを記そう。
1回表
1番 ヌートバー センターフライ(スライダー)
2番 近藤 空振り三振(ストレート)
3番 大谷 空振り三振 (スライダー)
2回表
4番 村上 見送り三振(ストレート)
5番 吉田 セカンドエラーで出塁
6番 岡本 空振り三振(チェンジアップ)
7番 牧 空振り三振(チェンジアップ)
3回には相手先発の金廣鉉(キム・ガンヒョン)捕らえて、長短打で4点を取って引きずり下ろしたが、あれは彼のガス欠からくる自滅。3回になった途端、球速もボールのキレも落ち、それまでとは別の投手のようだった。
左の好投手をどう攻略するか?

牧のペッパーミルパフォーマンス
2回までの彼は、決め球のタテに落ちる独特なスライダーを徹底して打者の外角低めに集めていた。ストレートを見せ球にして、同じ軌道からストンと落ちる精度の高いスライダーで、わずか2イニングとはいえ侍打線を手玉にとった。
準々決勝以後、あのようなタイプの左投手が出てきたときに、果たして上位から左打者をずらりと並べた侍打線がどう対処するのか、気がかりだ。
ポイントは、低めに集めてくる落ちる球種を、キッチリ見極められるかどうか、捨てられるかどうかだ。追い込まれるまで完全に捨ててかかれば、相手投手も同じ球種ばかり投げるわけにもいかなくなる。そこがつけいるタイミングだ。カギを握るのは、やはり右打者だろう。
金廣鉉は右打者の岡本、牧ら右打者に対しては、スライダーではなくチェンジアップを決め球にしていた。右打者へのスライダーは、ちょっとでも甘く入ると絶好球になってしまう。そこで緩急を利用したチェンジアップを使う。この左投手の“定石”は、いまだ洋の東西を問わないパターンのようだ。
ともあれ、左の好投手が相手としてマウンドに立ったときが、日本打線の真価が問われるときかもしれない。1次ラウンドでは好調だった左打者(打率360)がチームを牽引したが、岡本、牧、山田ら右打者の頑張りもまたカギになるだろう。
構成/木村公一 写真/AFLO
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