今季よりアスレチックスに移籍した藤浪晋太郎のメジャーキャンプが始まった。キャンプ2日目の16日(日本時間17日)には、早くもブルペン投球を披露。
「藤浪はすでに2月10日にはアリゾナ州メサにあるアスレチックスのキャンプ施設に足を踏み入れ、ブルペンでピッチングを始めていました。正式なバッテリー合流日より5日も早い始動で、コーチや球団幹部らの前でストレートや変化球も披露。その精度の高さと変化の鋭さにコーチらは賞賛の声を上げていました」(スポーツ紙メジャー担当記者)
それでも慣れない環境に緊張はあるはず。阪神でのキャリアがあるとはいえ、メジャーでの立場はまだ“ルーキー”だ。とくに投手は滑りやすい球質への順応や硬く傾斜の大きいマウンドなど、克服しなければならないポイントは少なくない。
しかし、メジャーでアジア太平洋地区を担当するスカウトは「深刻に考えることはないだろう」と話す。
「藤浪はメジャーへの憧れを持ち、数年前からこの時を待っていた。ボールやマウンドの違いも織り込み済みのはずです。強いて不安点を挙げれば、日本のようにブルペンで投げ込みができないことぐらいでしょう」
メジャーではブルペンでのピッチングは時間制で割り振られ、日本のようにひとりで数十球~100球と投げ込むことは出来ない。これには多少の戸惑いを持つかもしれないが、同スカウトは、日本とは異なるメジャーキャンプの“ある特性”を上げ、藤浪の覚醒を予言した。
「メジャー特有のインディビジュアルプラン(個人プラン)です。メジャーではキャンプ早々にチームが全選手に対してこれを作成し、トレーニングに役立てます」
アスレチックス・藤浪の“覚醒”にメジャーのスカウトが太鼓判「こちらには日本にはない長身投手の育成ノウハウがある」
「全部が楽しみですね。失敗すること、間違うことを含めていい経験になると思っています」阪神からアスレチックスに移籍した藤浪晋太郎(28)が新天地でキャンプインした。“未完”といわれ続けた大器にとって、この環境の変化は大きな追い風になるかも、と語るのは某メジャースカウトだ。
「ボールやマウンドの違いも織り込み済みのはず」

日本にはない長身投手向けのノウハウ
たとえば藤浪なら今季、どんな目標を立て、そのためになにが足りないと自覚しているかを本人からヒアリングし、それをコーチたちと共有するのだという。メジャーで先発し、1シーズン投げ続けることが目標だとすれば、それに見合う体力が備わっているか、不足しているのはどの筋力か、そうした課題をトレーニングコーチが提案する。
「技術面でも、例えばスライダーの回転数をメジャー平均より上げたいとするなら、メカニック(運動機能)をどう変えていくべきかを投手コーチと対話する中で模索していく。メジャーではまず選手が目的を明確化し、コーチがそれをサポートする形を取っています。決してコーチから命じたりはしません」
同スカウトがもうひとつ、藤波覚醒の追い風になると見ているのが、日本にはない長身投手向けのトレーニングのノウハウだ。
「日本では現状、身長190㎝以上の投手のトレーニングノウハウが十分に蓄積されているとはいえません。投手コーチにしても、高身長の投手のメカニズムに精通した人はそれほど多くはない。しかしこちらでは、球団を問わず多くのノウハウが蓄積されているので、藤浪の求めに対して、より適切なアドバイスが可能となるわけです」
そしてその利点は「コーチの経験だけに頼らない客観的なもの」でもあるという。
「日本ではコーチが代われば指導方法も変わることがあると聞きます。でもメジャーにはそれはありません。それぞれのチームに一貫したノウハウがあるため、ある選手がいつ入団しても、どのコーチだったとしても、指導方法は変わらないということです」
スキルは問題ない。懸念があるとすれば…

さて、キャンプも中盤になれば実戦が待っている。日本流にいえばオープン戦で、藤浪は先発候補のひとりとしてサバイバル競争が始まるというわけだ。
「最初は中継ぎで2イニング程度のスタートでしょう。そこで結果が出なくても、3回か4回ある登板機会は約束されています。藤波はメジャー契約ですから、すでに日時とイニング数まで球団と合意しているはずです」
「日本時代の藤浪は、制球に難があるというイメージがファンにもありました。ボールが続くと、スタンドがざわつく光景を実際に見たこともあります。でもこちらではほとんどの人が日本時代の藤浪を知らない。そしてキャンプでは結果も要求されない。だから思い切って自分のよさを発揮することだけ、意識すればいいのです」
ただし、藤浪にとってメジャーのすべてが有利に働くことわけではない、と同スカウトはクギを刺す。
「彼は、ピッチングにハッキリとした持論、こだわりがあると聞きます。要するに、人の意見を聞かないということ。アメリカで生きていくためには、持論を持つことは大事なことですが、結果責任もすべて負うことになる。シーズンに入ってからも好結果が続けば問題ないですが、もし不振に陥ったとき、監督やコーチの助言や指標に対して、しっかりと耳を傾けられるかどうか」
そして同スカウトは、こう結んだ。
「もし耳を傾けるなら、成功する確率は高くなると思います。スキル(技術)面は問題なく成功するレベルですからね」
藤浪は、今年1月に行われた甲子園球場での移籍会見でファンに向けてこんなメッセージを残した。
「皆さん、うまくいくところ、うまくいってないところ、人生の中でたくさんあると思う。人間、誰しもいい時ばかりではない。ここ数年パッとしなかった藤浪でも『あぁ頑張ってるな』と、ちょっと自分と重ねつつ見ていただければ」
アメリカでは「フィニッシュ・ストロング」という言葉がよく使われるという。「最後まで諦めずに頑張る」とでも訳せるだろうか。
メジャー1年目の藤浪が、シーズン終盤の9月にどんな笑顔を見せていることか、楽しみにしたい。
取材・文/木村公一 写真/共同通信社 AFLO
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