一連の事件の起点となったのは昨年5月2日、京都市中京区の貴金属店「ビッグムーン京都」に2人組が押し入り、ハンマーを振り上げて店員を脅し、高級腕時計41本、約7000万円相当を奪って逃走した事件。京都府警は7月に実行犯の男女4人を逮捕したが、いずれもがSNSを通じた闇アルバイトの募集に応じた犯行であることを突き止め、さらにこの4人に犯行の役割や段取りを指示していた“調整役”も逮捕した。
この人物は大阪で起きた別の「闇バイト」事件でも実行役の募集に絡んで、逮捕監禁致傷などの容疑で逮捕されており、犯行グループの全容解明が待たれている。
〈狛江90歳強盗殺人にも関与!?〉中野区強盗傷害事件。貧困家庭で育った永田陸人容疑者(21)の過去と、フィリピンから指示をだす首領の正体「コネを活用すれば“別荘の中”でも自由を謳歌できる」
東京都狛江市の住宅で1月19日、90歳の老女が両手首を結束バンドで縛られ惨殺された強盗殺人事件に関連し、指示系統が同一とみられる強盗事件が全国で多発していることが明らかになった。昨年5月に京都の貴金属店が襲われたのを皮切りに、西日本や首都圏の店舗や住宅を狙って30数件の強盗事件が発生。いずれも首魁が発注した“仕事”を、SNSを通じて請け負った実行犯たちが黙々とこなしていく姿が浮かび上がってきた。
実行犯を変えて再び暗躍

昨年5月に強盗事件が起きた「ビッグムーン京都」
しかし数か月後、場所を首都圏に移して、彼らの仕事は再開された。もちろん実行犯は新たな「雇われ」たちだ。そして西に東に、類似の強盗事件が頻発していった。
同10月20日、東京都稲城市の住宅で現金3500万円や貴金属が奪われる強盗傷害事件が発生、11月7日には山口県岩国市で5人組の男が住宅に押し入り金品を強奪しようとして失敗、12月5日には東京都中野区の住宅に男7人が侵入して現金約3000万円を奪った。
その後も年末から年始にかけて、下の表のように立て続けに類似の強盗事件が発生、狛江市の事件では遂に殺人を犯すまでにエスカレートした。
いずれも首魁から発注された”仕事”がいくつものフィルターを通して遠隔操作され、実行されたとみられる。

昨年から全国で相次いでいる強盗事件
シングルマザー・中卒・市営住宅…永田容疑者の過去
狛江強盗殺人事件は、1月12日に起きた千葉県大網白里市のリサイクルショップの事件で逮捕された自衛官、中桐海知容疑者(23)が所持していたスマートフォンに“仕事”の発注記録が残されていたことで、千葉県警から警視庁に連絡が入り、捜査が急展開した。
そして21日に中野区の事件で逮捕された金沢市の職業不詳、永田陸人容疑者(21)のスマートフォンにも同様の記録が見つかったほか、狛江の事件で犯行現場から逃走したレンタカーの1台を永田容疑者が使っていたこともわかった。

永田容疑者の生い立ちとは…
「中野」と「狛江」の事件を結びつけることとなった永田容疑者は、なぜこの若さで凶悪犯罪の実行役を担うまでになったのか。
永田容疑者の出生地は京都市山科区。市営共同住宅で母と弟とともに育ち、中学卒業後は一人で金沢市に転居したようだ。
「永田さん一家は陸人くんがまだ保育園くらいの時に家族3人で引っ越してきたんです、お父さんらしき人は一度も見たことはありません。子供の頃からとてもかわいくてお利口で、挨拶もよくしてくれました。すぐ横にある公園で団地のうちの子達とよく遊んでました。元気な子だったけどやんちゃな感じもなくて、気さくな良い子でしたよ」(同住宅に住む70代女性)
同じ団地の住人で、永田容疑者の母親のママ友という40代女性はこう語った。
「永田さんはシングルマザーで陸人くんと年子の弟の3人暮らし。家族仲はとても良かったです。持病があって体が弱い母親に無理をさせないようにと息子たちが気を遣っていました。子供の頃の陸人くんは、大人しくて人見知りの弟とは対照的に、活発で友達も多いタイプ。ただ、通信制の高校に通っていたけど合わなかったみたいで、辞めた後は金沢で建設系の仕事をしてると母親から聞きました。『遠くに行ったけど真面目に働いてくれてすごくうれしい』と喜んでいた姿が今も思い出せます」

永田容疑者が育った団地
2年前の正月に永田容疑者が帰省した際には、久しぶりに顔を合わせたという女性はこう続ける。
「以前と変わらずきちんと挨拶してくれたので『頑張って働いてるんだってね、親孝行するんだよ』と声をかけると『わかってます。親孝行しますよ!』と元気に返してくれて、その時は本当に立派に育ったなあと思いました。病弱で働けない母親と専門学校生の弟を支えるために罪を犯してしまったのかなとも考えました……。これが贅沢や自分のための犯行なら同情の余地はないですね」
金沢市内の土木建築会社では昨年7月まで約1年間働いていたという。元同僚の一人は取材にこう答えた。
「挨拶もちゃんとするし、いつもニコニコした普通の若者という印象しかありません。土木工事の現場が主な仕事で、先輩たちも早く一人前になれるように熱心に教えていたし、彼もそれに応えるよう素直に聞いて頑張っていた。無断欠勤も1日もありませんでした。ただ『自分はこの会社には合わなかった』と突然辞めてしまいました。アパートで一人暮らしするには十分な給料はもらっていたはずなんですけどね」
フィリピンの刑務所で指示をだすのは何者なのか?
自首した自衛官といい、親孝行だった永田容疑者といい、躊躇なくタタキ(強盗)ができる凶悪犯のイメージとは程遠い。そんな彼らを駒のように自在に操り、犯罪収益を吸い上げていたのは何者なのか。
「組織暴力を背景に特殊詐欺グループを率いる別の犯罪者集団と接点があり、本人は詐欺を生業としていた北国育ちの40代の男です。海外逃亡中に現地の入国管理局に拘束され、現在はフィリピンの拘置施設にいて、足のつかないプリペイド式のスマホを使って外の仲間経由で“仕事”を発注している。仕事先は特殊詐欺グループから横流ししてもらったリストから選んでいるとみられます。日本では想像できない世界ですが、フィリピンではカネとコネを活用すれば“別荘の中”でも自由を謳歌できるようですよ」(社会部記者)
殺人被害者まで出した事件の首魁は、いつまで枕を高くして寝られるのか。日本の捜査当局の威信が問われている。

狛江強盗殺人事件の事件現場
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班