昨年12月30日の夜、名古屋市守山区内にある大型入浴施設の女湯で、不審な動きを見せる初老の女がいた。
女は午後7時55分から約1時間、タオルやクシ、ポーチなどが入ったかごを手に、脱衣所と浴場を何度も行き来し、度々かごの中を確認する様子を見せていたという。不審に思った他の利用客が、従業員に連絡。女性従業員2名がかごの中身を確認したところ、ポーチの中から2台の小型カメラが出てきた。現場の責任者だった副店長が愛知県警守山署に通報し、駆けつけた同署員が問い質すと、女はあっさりと盗撮行為を認めたという。
当日は非番だった店長が、逮捕に至った経緯をこう説明する。
「現場では警察が押収した小型カメラを再生できず、盗撮した証拠を確認できなかったと聞いています。そのため、現行犯逮捕ができませんでしたが、状況的には明らかに盗撮の疑いがある。警察からの要請で当施設が被害届を出し、『建造物侵入』容疑で逮捕してもらいました。うちのような入浴施設は、お客さんがたくさんいる中で不審な行動をされた時点で大迷惑。業務妨害以外の何物でもありません」
〈名古屋発〉母はなぜ37歳の引きこもり息子のために入浴施設で20回以上も盗撮を繰り返したのか? 父の蒸発・逮捕で息子は変貌、不登校・暴力…祖母は「生きていても何もいいことがない」
愛知県警は1月19日、盗撮をおこなったとして関佐登美、関明範容疑者を再逮捕。両容疑者は母子関係で、息子の明範容疑者が盗撮を指示し、母・佐登美容疑者が実行していたという。理解しがたい親子関係……その裏には関一家の深い闇が横たわっていた。
「息子が自宅にこもりがちで、
落ち着かせるために言うことを聞いた」

関佐登美容疑者が盗撮をおこなっていた入浴施設
逮捕されたのは、名古屋市北区に住む会社員の関佐登美(63)容疑者。彼女は、その後の取り調べで、「実の息子に指示されるままに犯行に及んでいた」と驚くべき供述をする。
母とともに逮捕された無職・関明範(37)容疑者は関佐登美の実の息子。明範容疑者は19日までに県迷惑行為防止条例違反(盗撮)容疑も加えて送検されている。「助言や指示はしたが、全ては共謀していない」と一部容疑を否認するも、「インターネットで売れると知り、将来的に販売しようと思った」と販売目的の犯行であったことを認めている。
佐登美容疑者は「息子が自宅にこもりがちで、落ち着かせるために言うことを聞いた」と話している。
その後の捜査で東区の入浴施設でも同様の盗撮行為の疑いが持たれ、再逮捕された母子。愛知県警は、昨年8月ごろから、7か所の入浴施設などで少なくとも20回以上にわたり盗撮を繰り返していたとみて、捜査を進めている。一体、何が母子を連続盗撮行為に駆り立てたのか――。
明範容疑者は容姿にひどいコンプレックスを抱えていた
「ニュース映像に映るおぼこい(あどけない)面影を見て、すぐに関くんだとわかりました。関くんとは小学校の時に同じクラスで、一緒に遊んだこともある仲なのでとても残念です。友達数人には時折かわいらしい笑顔も見せてくれて、すごく優しい子でした。ただ、極度に内気な性格でおとなしく、ボソボソと喋っていた印象です」

関明範容疑者(学生時代のアルバムより)
そう語るのは、明範容疑者と同じ小・中学校に通っていた同級生。10年ほど前に亡くなった明範容疑者の祖母と交流があった近隣住民も、少年時代の明範容疑者の姿を記憶している。
「あっくん(明範容疑者)はちっちゃい頃はいい子で、地元の中学に通うようになるまでは、通学途中にあるうちの前を通るときにちゃんと挨拶してくれてたんだよ」
優しく礼儀正しい少年だった明範容疑者は、地元中学校に入学すると、内気な性格に拍車がかかり、やがては引きこもりになってしまう。小学生時代には一緒に遊ぶ仲だった前出の同級生も「学校でたまにすれ違っても、会釈をする程度の関係になった」と疎遠になるなかで、明範容疑者の変化をこう語る。
「昔からぽっちゃりした体型など自分の容姿に強いコンプレックスを感じていたようで、自分から打ち解けられるタイプの子ではなかったが、中1の途中から明らかにうつむきがちで、どんどん暗くなっていきました。中学校という新たな環境に馴染めなかったのが原因なのかもしれません」

関佐登美、関明範両容疑者の自宅
他の同級生たちも、明範容疑者については「とにかく暗い人」「影が薄かった」と口を揃える。
「途中から学校にもほとんど来なくなって不登校気味でした。たまに学校に来ても、よくわからないことで先生に怒られていました。ヤンキーでもないのに授業中にガムを噛んで怒られていたのを覚えています」(別の同級生)
前出の近隣住民はそんな明範容疑者を、まれに外で見かけることがあったという。
「中学に上がってひきこもるようになってからは『家でよくパソコンをいじってるみたい』とあっくんのおばあちゃんから聞いていた。たまにあっくんが外出する姿を目にすることがあったけど、髪の毛も髭も伸ばし放題で驚いた。祖父が生きてたころは犬を飼っとって、祖父が散歩に連れていけない時はあっくんが犬の散歩をすることがあったんよ。その時は帽子を深く被って、顔がよお見えんようにして、散歩に行きよったね」
「生きていてもいいことがない」
祖母にそう漏らさせた関一家の闇
中学校当時、明範容疑者は母・佐登美容疑者と祖母との3人暮らしだった。父親は30年前、明範容疑者がまだ幼い頃に、離婚して家を出ている。愛人をつくり蒸発したらしい。その父親について祖母と親しい友人はこう話す。
「関さん夫婦(祖父母)は子どもができなかったから、あの子(明範の父親)が赤ちゃんの時に里子として引き取った。おばあちゃんは一生懸命愛情を注いで大学まで行かせた。結婚した佐登美ちゃんが家に入っても嫁姑でけっこう仲良くやってたみたい。
(明範の)父親が蒸発した後は佐登美ちゃんを養女にして、自分の面倒を見てもらう代わりに、おばあちゃんの死後は家やら財産を佐登美ちゃんが相続することにした。そのときにはおじいちゃんはすでに亡くなっていたけど、長年鉄工所に務めていていくらか財産を遺しただろうから、お金には困ってなかったと思うよ」
しかし、その後、関一家の崩壊を決定づける出来事が起きてしまう。明範容疑者が家に引きこもるようになる少し前、蒸発した父がとある事件を起こして逮捕され、テレビや新聞で報道されてしまったのだ。前出の(祖母の)友人は当時のことをこう語る。
「この一件で関一家は父親と縁を切ったそうです。父親は子供の頃から別の子のおもちゃを取り上げたり、怪我をさせちゃうような粗暴なところがあって、祖母がそれを叱る声がよく外まで聞こえていた。その(明範の)父がテレビや新聞のニュースになるような事件を起こしてしまい、祖母はひどく心を痛めていた。本当にかわいそうでした」
そして、中学入学直前という多感な時期を迎えていた内気な少年の心にも、父の逮捕は少なからぬ影響を与えたのだろう。その直後から引きこもりがちになった明範容疑者は、彼が対面する数少ない人間に対して、暴力を振るうようになる。

明範容疑者が通っていた中学校
「その頃、おばあちゃんはよく顔を腫らしたり、あざを作ってたから『どうしたの?』と聞いたら、『あっくんに叩かれた』と言う。犬の散歩を手伝うこともあったから、いつもというわけじゃないんだろうけど、息子は蒸発するし孫には殴られるしでおばあちゃんがとても不憫だった。『生きていても、何もいいことがない』と言っていたよ」(前出・祖母の友人)
「急に殴られた」近隣住民が語る
関一家との最後の交流
周囲に「早く死にたい」と漏らすようになっていた祖母。近隣住民も気がかりに思うなか、この祖母が亡くなったことを機に関一家と近隣住民の交流も途絶える。祖母の生前、関一家との最後の思い出を前出の祖母の友人がこう述懐する。
「私はたまに、関さんちに料理をしに行くことがあった。おばあちゃんから『食べたい料理があるからうちでつくってほしい』と頼まれることがあったからね。そのときもひと通り料理をすませて関さんのお宅から帰ろうとしたら、あっくんが急に玄関にやってきて、いきなり横っ面を殴られたの。どうしてかはわからない。『家に入ってくるな』ってことなのかねぇ」

関容疑者の自宅玄関
突然の暴力に友人は警察へ通報しようとした。しかし、
「あくる日に佐登美ちゃんが謝りにきて『それ(通報)だけはやめてちょうだい』と言う。私は彼が憎くて通報するんじゃなくて、ひきこもりのあっくんの何かのきっかけにしたい思いがあった。お母さんには『あの子はあんたより長生きするんだから、一人でご飯を食べていけるようにしてやらなダメだよ』とも伝えた。
でも結局、通報することはなかった。それ以来、あの家には足を踏み入れていないし、おばあちゃんが亡くなってからは付き合いもなくなった。佐登美ちゃんは近所付き合いするような社交的な人じゃないからね」
祖母が亡くなり、母と子の二人きりになってから約10年。母は63歳。外界に心を閉ざし、25年近く引きこもり続けた息子は37歳になっていた。
やがて、子が指示役、母が実行役となり名古屋市内で盗撮行為を繰り返すようになることは冒頭の通り。
母子の心の闇、そして異常な関係が本人らの口から語られる日は来るのだろうか。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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