ーー提訴した相手は、日常的にセクハラを繰り返していたそうですね。
大内(以下同) 一番最初におかしいなと思ったのは、(被告の劇作家が)日常的に劇団員の方に抱きついて胸を触ったり、お尻を触ったりするのを見たことです。それを周りの劇団員は止めるのではなく、「またやっているよ」と。何だろうこのノリはと疑問を抱いていたんです。
稽古終わりに台本の相談があるからちょっと来てくれと呼ばれて飲みの席に行くと、隣に座れと言われて、お酒が入ってくると気性が変わって「片親の女はちょろい。お前は父親がいなかったから愛情に飢えている。だから扱いやすい」「俺は今までいろいろな女を抱いてきた。女優は頼めばヤラせてくれるんだ」とか、信じられない発言をされました。
「女優は頼めばヤラせてくれるんだ」自宅に押し入られ、服をむりやり…俳優・大内彩加さんが実名告発した劇作家の卑劣な性被害の実態
福島県飯舘村出身の俳優・大内彩加さんは、所属する劇団の劇作家、谷賢一さんから性行為を強要されたなどとして、慰謝料など550万円を求める訴訟を東京地裁に起こした。大内さんはどんな思いで被害を告発したのか、性被害をなくすために何が必要なのか、YouTubeたかまつななチャンネルでインタビューを実施した。(取材:たかまつなな/笑下村塾)
日常的に劇団員のお尻や胸を…

大内彩加さん
ーー大内さんは、どんなセクハラをされたんですか?
ある日、稽古の休憩中に肩を揉んでくれと言われて肩を揉んだときに、そのまま胸をガシッと揉まれて……私はびっくりして固まってしまって。それからは、毎回(肩揉みを)頼まれるようになって、嫌ですと言っても私の手を掴んで逃げられないようにして胸を揉んでくる。他にも、突然胸を触ってきたり、羽交い締めにしてきたり、抱きしめたりするようなハラスメントが日常的に行われるようになりました。
ーー性被害にもあったそうですね。
2018年7月にまず福島公演を皮切りに東京公演が始まるんですけど、東京公演中にレイプされました。そのときも、谷を含む5人で飲み会が行われて、そのうちの1人の客演の女の子が帰るときに私も一緒に帰ろうとしたんですけど、帰してくれなくて。私は劇場から近い場所に住んでいて、終電が遅いことも谷は知っていたので、腕を引っ張られてその場に残されました。
それから羽交い締めにされて、放してくださいと言っても放してくれなくて。そのまま胸を揉まれて、服の上から手を入れられて直接胸を触られて。すごく抵抗したんですけれど、力の差は歴然で。そのまま終電を逃したからお前の家に行くって言われて。
それだけはやめてもらわなきゃと思って、「近くのホテルを取ったらいいじゃないですか」「タクシーで家に帰ったらいいじゃないですか」って言ったんですね。そしたら、「奥さんにも連絡したからお前んちに行くぞ」って言われて、そのまま無理やりタクシーに乗せられて。
私の家が1LDKで2部屋あったんです。しょうがないからベッドのある部屋で寝てもらって、私は隣の部屋で扉を閉めきって朝までどうにか過ごそうと思ったんですけど、そのまま腕を引っ張られてベッドに押し付けられて、無理やり服を脱がされて、レイプされてしまいました。
今さら出演をやめられない、自分の気持ちに蓋をした
ーーひどすぎます。
何よりひどいと思ったのが、避妊具を着けないまま彼の陰部を押し付けられて。その間もずっと抵抗はしています。本当にやめてほしかったので、ずっと抵抗をし続けたのですが……。「せめてゴムは」って言ったら、彼は「俺はゴムを着けてセックスしたことがない。それで子どももできたことがないから大丈夫だ」と言うんです。
その時点でおかしいんですよね。奥様もいらっしゃるし、お子様もいらっしゃるんですよ。なんとか避妊具は着けてくれたんですけど。私がずっと抵抗し続けたら萎えてしまったのか、そのままそっぽ向いて寝始めたので、私は朝までずっとどうしたらいいんだろう……とずっと眠れず、うずくまっていました。
朝、無理やり出て行ってもらったんですけれど、本当にその日が休演日でよかったなというぐらい、ずっとそこからレイプされたときのことが拭えない。フラッシュバックしますし、自分の体が汚いものだと思ってしまう。呪いにかけられたようにずっと苦しい日々が続いていました。

ーーその後も劇団に所属したのはどうしてですか?
レイプされたとき、私はまだ客演なんですけれども、その前に、次の本公演の舞台に出演してくれとオファーを受けて、劇団員にならないかと誘われていたんです。それで次の公演のオファーはありがたいので受けようと思ってOKしちゃったんですよね。なのでレイプされたあと、今さら降りますとは言えないと思ってしまったんです。
それに自分の家がばれているので、いつ乗り込んで来られるかわからない。そもそもレイプされたときもすごく命の危険を感じていましたし、何か私が反論したら危害を加えられるんじゃないか、自分の家族にも危害が加えられるんじゃないかという恐怖で支配されてしまって。それでどうにか自分の気持ちに蓋をして、お芝居を続ける状態になっていました。
ーーほかの劇団員の人たちは助けてくれなかったんですか?
レイプされたことを相談したことはあります。そしたら「大内以外にもそういう被害にあってきたやつがいっぱいいるからな。それでみんな辞めてきたから」って軽い調子で言われたんです。すごく絶望しました。ああ、この劇団はみんなそうなんだ。知っていても見逃すんだと。そこから数年、誰にも相談はしませんでした。
「役者を辞めるか、劇団を辞めるか」
ーー精神的にしんどくなって、病院にも行ったそうですね。
最初は、私自身がおかしくなっていることに気づかず、病院にも行けませんでした。予兆が見え始めたのが2022年の3月で、劇団の本公演があって、そのとき私は主役に抜擢されたんです。でも、稽古期間中に初めてみんなの前で怒鳴られて。「お前のせいでこの公演がダメになる」と言われ続けたら、稽古の終わりには歩けなくなってしまって。パニックになって息もできなくて、涙がボロボロこぼれて。ご飯を食べても味がしない、眠れない、役者を辞めたほうがいいんじゃないか、そんな状況に追い込まれて、公演が終わってようやく一息ついたとき、自分に残ったのは本当に死にたいという気持ちだけになって、初めて自分がおかしくなっていることに気付いたんです。
その後、2022年の6月に精神科に行ったら、長年、性暴力やハラスメントを受け続けてきたことによる適応障害、うつ病であると診断されました。なので医師には「役者を辞めるか、劇団を辞めてください」と言われました。
それで遺書にすべてを書いて誰かに託すか、もしくは遺書も書かずに墓場まで持っていくか……いずれにせよどうやって死ぬかを考えていました。私は母が大好きで、母はずっと私のことを一人で育ててくれたんですけれど、その母に一番迷惑のかからない死に方を考えてました。
死ぬことは、告発したあとも何度も考えました。自分が受けたレイプの詳細な記憶も、本当に昨日のことのように思い出せるんです。なので、それを訴状にまとめるときが何より苦しかったです。

劇作家、谷賢一さんから大内さんに送られたLINEメール
ーー告発後は、二次加害の言葉も届いたと聞きましたが、どんな言葉をかけられたんですか?
SNSには色々な方からDMが届くんです。「早く死ね」とか「売名行為」、「嘘つき」、「売れない女優だから被害を告発して売れようとしているんだ」とか。「仲良くなりたいです。あなたのことを支えてあげたいです」というものもあります。男性の方がかなり多いですね。
産婦人科で加害者の体液を採取すべき
ーーこうした性被害をなくすために、どんな環境が必要だと思いますか?
まず性被害に対しての理解を一人ひとりが深めていかなければならないと思います。被害者が被害を人に伝えるのは本当に勇気がいることです。だからこそ、誰かが性被害を受けたことを勇気を持って言ってくれたら、その言葉をしっかり受け止めることが大事だと思っています。
ーー性被害にあった人は、どこに相談すればいいですか?
産婦人科です。警察に繋いでくれる産婦人科もあるので、そういうところを受診する。私はレイプされたときに、産婦人科に行かなかったので加害者の体液を採取できなかったんですけど、産婦人科を受診して証拠をしっかり取って警察に繋げてもらうことを覚えておいてほしいです。証拠を残すことがどれほど大事か、今回の裁判ですごく実感しました。
あと私が相談したのは、NPO法人のレイプクライシスセンターTSUBOMIというところで、メールを送ると1週間に1回お返事が届くんですね。「あなたは本当に悪くない。悪いのは加害者であって、被害者の方は一切悪くないということを覚えておいてほしい」と言っていただいて、その言葉だけでも私はすごく助かりました。

ーー最後に、性被害で苦しんでいる方々にメッセージをお願いします。
性被害を受けた方は本当につらい思いをしていると思いますが、悪いのは加害者であって、性被害者ではない。絶対あなたは汚くないし、一人じゃない。あと、性被害を告発する上で、「なんでそのとき言わなかったの?」「なんで何年も経ってから言うの?」というのは、本当に心のなさすぎる言葉だと思うんです。その人が、受けた被害をいつ言えるかなんてその人自身にしか分からないので。被害から何年経った後でも、言いたくなったら、行動したくなったら動きだすべきだと思います。
取材/たかまつなな(笑下村塾) 監修/公認会計士・博士 花丘ちぐさ
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