「アスリート 盗撮」といったワードでインターネットで検索すると、女子陸上選手がスタート時に前屈みになっている姿や、女子バレーボール選手のレシーブの瞬間の股間を狙った写真など見るに堪えない写真が無数にヒットする。そればかりか赤外線カメラで撮影された下着やバストトップなどが透けて見えてしまっている写真まで出てくる有様だ。
なぜ女性アスリートが狙われるのか。『ルポ性暴力』の著者でノンフィクションライターの諸岡宏樹氏は言う。
「競技によってその形状は様々ですが、密着したユニフォームから浮かび上がる肢体や記録更新に向けてひたむきに競技に取り組む女性の姿を自慰行為目的などで撮る男性は非常に多い。盗撮は一方的な支配感情によって成立しているため、許可なく撮影することの暴力性には気づいてない人が多いのです」
実際にアスリートの盗撮に手を染めていただけでなく、未成年の撮影会に参加し、児童ポルノ禁止法で罰金30万円の刑罰を受け、今は自助グループの更生プログラムを受けている50代会社員男性、A氏は言う。
〈卑劣・アスリート盗撮問題〉「セパレートのユニフォームは我々へのサービスかと思った」逮捕された50代盗撮犯の懺悔告白と盗撮大国ニッポン「投稿誌に載ることが私にとってのステータスだった」
警察庁の統計によると、盗撮事犯の検挙件数は2010年時点では年間1741件だったのが、21年は3倍近い5019件で過去最多を更新。逮捕者のなかにはごく一般的なサラリーマンをはじめ、警察官や教職員もおり、再犯率も高い。“盗撮大国ニッポン”といっても過言ではない状況に陥っているなか、今回はとくに問題視されている“アスリート盗撮”の許しがたい手口に迫った。
投稿雑誌に写真を横流しするカメラマンも

かつて盗撮犯で逮捕歴もあるA氏(50代)
「もともと高校生の頃から女性のパンチラ画像を盗撮しては、当時流行ってた投稿雑誌に送る趣味がありました。80〜90年代はこういった写真投稿雑誌ブームで、公然と盗撮写真誌が書店に何冊も並んでいたのです。投稿誌に載ることが私にとってのステータスだったので、ラジオ番組の投稿職人と同じような感覚で、罪の意識はありませんでした。もちろん今は反省しています」
また、当時はプロのカメラマンの中にも偽名でこの手の投稿雑誌編集部に自らの写真を売ったり、投稿するケースもあったという。
「競技大会などで報道写真を撮るために取材で入るプロのカメラマンの中にも、本来の仕事の写真とは別にパンチラや股間狙いの写真を撮ってるカメラマンさんはいました。いい瞬間が抑えられれば本来の仕事以上に高値で買い取ってもらえる場合もあったので、嬉々として撮ってるかたもいたほどです」(A氏)

A氏がかつて高校時代に夢中になって投稿していた投稿雑誌の数々(A氏提供)
それまであらゆるジャンルの盗撮を好んだA氏がアスリート盗撮に特化するようになったのにはキッカケがあった。
「まさにシドニーオリンピックで高橋尚子さんがゴール瞬間にバンザイをしてヘソを見せた瞬間です。それまでのマラソンランナーはシャツをインするのが主流だったので、その斬新なユニフォームにグッときました。それ以降は陸上競技をメインに高校や大学、何かしらの陸上競技の大会があるたびに盗撮に行くようになりました。特にセパレートのユニフォームが主流になってからは、我々へのサービスかと思ったほどでした」
超小型カメラを使いバレないように撮影
当時は一体どんな手口で撮っていたのか。
「90年代までは一般客が一眼レフで撮影していても何もお咎めはありませんでした。でも2000年初期頃から競技場に撮影禁止の張り紙が出されるようになったんです。そのため、超小型カメラを使ったり、スマホの画面を見ているフリをしながらレンズを競技側に向けて撮るなど、自然な動作でバレないように撮っていました」

マラソンをする女性(写真はイメージです)
A氏は単独で盗撮していたが、なかにはグループで撮っているケースもあったという。
「たまに見かけたのが、自分と同世代の50代くらいの男が2、3人の若い男に指示を出し、同じ子を狙っていたり、手分けしていろんな子を撮っているのを目撃したことがあります。あの手のグループはおそらく営利目的でネットのアダルトサイトで販売用の写真を撮っていたのだと思います」
アスリート盗撮における法整備がまだまだ準備段階である点も被害件数が減らない理由だろう。2021年5月、テレビ番組に映った女性アスリートのきわどいポーズの瞬間を切り取り「丸見え放送事故!」などの下世話なコメントをつけて画像を無断転載していた男が著作権法違反容疑で逮捕された。これは女性アスリート画像を性的なものととらえて晒す者の初の摘発となった。
全国新聞社会部記者は言う。

丘の上から望遠カメラで盗撮することもあったという(A氏提供)
「逮捕された男はテレビ番組の画像39枚に卑猥な見出しをつけ、さらにアスリートとは無関係の女性の裸の画像とともに掲載していました。かねて問題となっていた女性アスリートの盗撮問題にメスを入れるべく、画像を無断で使用されたテレビ局を被害者として、選手の告訴を待たずとも立件に漕ぎ着けられると判断し、警視庁保安課が著作権法違反の容疑でサイトを運営していた男の逮捕に踏み切ったのです。
また、同様の事件を起こして、2021年6月に警視庁に逮捕された大阪府内の会社員は著作権容疑だけでなく名誉毀損容疑でも追送検されている」
A氏の逮捕歴を会社は知らない
“性的画像”ではあっても“わいせつ物”ではない以上、「摘発のハードルが高かった」と前出の社会部記者は言う。今後、この盗撮問題においては今年6月16日に成立した新たな法律「撮影罪」によって処罰される。
グラディアトル法律事務所の清水祐太郎弁護士はいう。
「これまで盗撮を取り締まる法令は、迷惑行為防止条例と軽犯罪法と児童ポルノ禁止法の3つでした。この夏にも施行予定の『撮影罪』は、盗撮や性的行為を密かに撮影する行為などを法律で統一的に取り締まります。強制性交罪や強制わいせつ罪などの成立要件も拡大されます。また、捜査の過程で押収した端末などに保存されている性的な画像を消去できることになります。ただしこの法にも抜け穴があります。隠しカメラや透視機能がついた赤外線カメラでの撮影は『撮影罪』の対象ですが、競技中のユニホーム姿などの撮影行為は規制対象に盛り込まれていません。今後さらに検討が必要だと思います」

左から頭や肩に装着するタイプのカメラ、小型カメラ、一眼レフ。今これらで盗撮することはもうないと言うが…(撮影/集英社オンライン)
盗撮はとても身近で卑劣な犯罪である。今回、取材に応じたA氏は一般企業の会社員で、罰金30万円を支払ったものの、罪状は勿論、逮捕されたことも会社に知らされることはなく、社会的な立場が抹殺されるほどの窮地には至っていない。教職員などの場合は即、職場に知らされることになるのに、対応に差異があるのには解せない部分もある。
アスリートのなかにはこうした盗撮者の存在への不安から、本来の動きに躊躇が生まれ、パフォーマンスが低下する事態に陥ってしまう選手もいるだろう。アスリートが性的な目線に晒されることなく、競技の新記録更新だけをひたむきに目指せる世の中が来ることを願うばかりだ。
※「集英社オンライン」では、アスリートにまつわる事件・トラブルについて取材をしており、情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。
メールアドレス:
shueisha.online.news@gmail.com
Twitter
@shuon_news
取材・文/ 河合桃子
集英社オンライン編集部ニュース班
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