事件当日の8月6日12時10分。対馬は新宿の商業施設地下の食料品店にて880円相当のベーコンとオリーブオイルを万引きしようと試みる。しかし、女性店員に110番通報され、駆けつけた警官から厳重注意を受けた。商品を買い取ることで万引きに関しては不問となったが、刃渡り6.4センチのカッターナイフを所持していたという理由で後日、銃刀法違反容疑で任意の取り調べをする旨を伝えられていた。
「万引き事件後の対馬は警察官に連れられ一度川崎市の自宅に戻りますが『(通報した店員を)殺してやりたい』と考えた。しかし、すでに店は閉店していたため、以前から考えていた電車内での無差別殺人を実行することを決意。包丁、はさみ、サラダ油をバッグに入れてアパートを出たようです」
万引きを通報したことで逆恨みされ、下手をすれば被害者になっていた可能性もあった食料品店の店員は「詳細なことは本部からでないと話せない」としながらも、
「2年経った今でも当時のことは鮮明に覚えてます。元々この店が狙われていたわけですし、万引きがキッカケでまさかあんな怖い事件にまで発展するとは思っていませんでしたから……」と憂い顔で当時を振り返った。
〈明日初公判・小田急線刺傷事件〉「幸せそうな女性を見ると殺してやりたい」列車内で油をまきライターで着火を試みるも断念…牛刀を振りまわした自称・元ナンパ師・対馬悠介被告の転落人生
2021年8月6日、東京都世田谷区を走行中だった小田急線の車内で乗客10名が刃物で襲われ、重軽傷を負う事件が起きた。重軽傷を負った乗客のなかには当時20代の女子大学生も含まれていたが、腹部や背中など7カ所を執拗に刺されていた。「6年ほど前から幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思うようになった」――。この事件により殺人未遂容疑で逮捕された対馬悠介(当時36歳)は逮捕後の警視庁の取り調べに対してそのように供述したというが、凄惨な犯行に駆り立てた動機は果たして何だったのだろうか。6月27日に予定されている初公判を前に、改めて対馬被告が起こした事件と彼の生い立ちを振り返ってみる。
事件直前に地下食料品店で万引きを試みるも

対馬被告が万引きしようとした食料品店
アパートを出た対馬被告は午後8時18分、新宿行きの各駅電車に乗り込み、登戸駅で快速急行に乗り換えた。そして、電車が祖師ヶ谷大蔵駅付近に差し掛かった頃、持っていたトートバックから刃渡り約20センチの牛刀を取り出し、隣に座っていた女子大生の胸を右手で逆手に持った牛刀で二回刺し、逃げようとした女子大生を背後から執拗に襲った。
その後も対馬被告は別の乗客を次々と襲いながら前方の車両へと移動。車内の床にサラダ油をまき、ライターで火を付けようとまでした。

祖師ヶ谷大蔵駅のホーム
「ですがサラダ油では着火するはずもなく、車内に火は燃え広がりませんでした。対馬はその後、事件発生を受け緊急停止をした電車から車外に降り、線路を歩いて祖師ヶ谷大蔵駅に向かい、駅員の様子をうかがいながら改札口から逃走。そして、約3キロ離れた都営住宅の駐輪場で見つけた無施錠の自転車を盗み、杉並区のコンビニ店でビールを勝手に飲んだ後、店員に『事件の犯人だ』と申し出て通報を受けた警察に逮捕されました」(前出の記者)
「側から見たら非の打ちどころのない人だった」高校時代
逮捕数カ月前からは仕事の収入はなく、月約10万円の生活保護で生活していたという対馬被告は青森県出身。幼少期に本事件を起こした祖師ヶ谷大蔵駅近くに転居し、マンションで両親と弟二人で暮らしていたという。
地元の小学校ではサッカークラブに所属し、中学に進学するとテニス部で活動するなど活発な存在だったという対馬被告は成績もよく、高校は偏差値約60の東京都立大付属高校に入学。高校ではサッカー部に所属し、同級生からも慕われるムードメーカー的存在だったようだ。

高校の卒業アルバム
「対馬はツッシーと呼ばれていて、どんな生徒とも仲良かったし、明るい性格でいわゆるムードメーカーでした。しかも自分たちが通っていた高校はそれなりに偏差値の高い学校だったんですけど、その中でもツッシーは比較的成績上位でした」(高校の同級生)
「自由な校風だった」(同前)という高校での対馬被告は髪の毛の色を少し茶髪にしたり、私服もおしゃれだったという。また、人づきあいもよく、カラオケやボウリング、ビリヤードなどに繰り出し、友達と一緒に楽しんでいた。
「ツッシーは特に歌が得意だったから、カラオケの時は当時流行った曲なんかを歌ってくれて大盛り上がりでした。正直、高校時代のツッシーは傍から見たら非の打ちどころがない人でしたね」(同前)

明るく活発だったという高校時代の対馬被告
理系ながらも文系の勉強も「それなりに出来た」(同前)という対馬被告は、高校卒業後中央大学理工学部に進学。大学ではテニスサークルに所属したが、それ以降対馬の人生は暗転していくこととなる。女性に対するコンプレックスも同時期に生まれたようだ。
「逮捕後に対馬は『大学のサークルで女性から見下され、その頃から勝ち組の女を殺したいと思うようになった』と供述しています。電車内で対馬が執拗に狙った女子大生に対しても『勝ち組の典型に見えた』と屈折した感情を露にしています」(前出の警視庁担当記者)
大学中退後は生活保護と万引きで生計を
高校を卒業後も対馬被告と何度か出会ったことがある、前出とは別の高校の同級生は卒業後の対馬被告の変貌ぶりに驚いたという。
「対馬は大学を23歳で中退し、まともな職業にはついていませんでした。私を笑わせるためか職業はナンパ師だって話していました。三軒茶屋とかでよくナンパしているとか、女子高生にも手を出していると言ってて、そのときは笑い話のように聞いていましたが、『仕事もせずに何やってるんだ』って気持ちにはなりましたね」

対馬被告がひとりで住んでいたアパート
この同級生は20代の半ばごろに最後に対馬と会ったというが、
「その時には女性への恨みとか、見下された、って話もしてなかったんで、まさかあんな事件を起こすほどに女性への敵対心みたいなのがあったとは気づかなかった」という。
高校時代の同級生の証言からは仲間たちの中心的存在だった対馬被告の生活は大学進学、中退後、急激に荒んでいったように思える。
逮捕時には月約10万円の生活保護を受給しながら家賃2万5千円の築40年のアパートに一人で暮らし、日常的に「万引き行為などを繰り返していた」(捜査関係者)という対馬被告。
高校の同級生らは初公判に臨む対馬への想いを口を揃えてこう語る。
「昔は本当にいいヤツでしたけど、なぜ万引きなどをして生活してたのか、なぜ女性に強い執着を持つようになってしまったのかはっきりとしたうえで、しっかりと裁かれるべきだと思います」
初公判で対馬被告の口からは何が語られるのだろうか……。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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