〈秋田コンクリートづめ女性遺体〉マザー・テレサに憧れたボランティア少女はなぜ覚せい剤事件の元組員(48)と夫婦になったのか…遺棄事件に関与の容疑で逮捕「いつのまにか悪い男に引っかかった」
2年前に失踪した愛知県在住の女性Aさん(当時48歳)が秋田市内の雑木林にて変死体で見つかった事件で、警視庁捜査1課は6月7日、元暴力団組員、井上大輔(48)=覚醒剤取締法違反罪で服役中=と元妻の土岐菜夏(34)=さいたま市緑区=、いずれも職業不詳の菅原和宏(44)=千葉県成田市=、飯田翔(29)=埼玉県川口市=、下田陸朗(26)=住所不定=の5人の容疑者を死体遺棄容疑で逮捕したと発表した。
短大時代にマザー・テレサの著書を読んで「平和に目覚めた」
調べでは、5人は共謀して2021年6月から9月ごろにかけて、秋田市金足下刈の雑木林に、木箱に押し込んだA子さんの遺体を遺棄した疑い。死後1〜2年とみられる遺体はコンクリートづめになっており、死因はわからなかった。遺棄現場の土地は同年12月に売買され、土岐容疑者が購入していた。

被害者のAさん
遺棄現場の南約10キロ地点の実家で生まれ育った土岐容疑者は、地元の短大で管理栄養士の資格を取り、卒業。短大時代にマザー・テレサの著書を読んで「平和に目覚めた」という理由で長崎に居を移し、離島の五島市で診療所に就職。その後もさまざまな場面でボランティア活動に没頭した。その様子は当時、頻繁に地元紙や全国紙の地方版に掲載されていたほどだ。
2012年8月8日の長崎新聞朝刊にはこんな記事が掲載された。
<被爆者の高齢化が進む中、被爆体験を語り継ぐ市民を育てようと国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館(長崎市平野町)は4月から「被爆体験記朗読ボランティア育成講座」を始めている。8月9日を前に、受講生の一人で秋田県出身の土岐菜夏さん(24)=長崎市=は「いつか講座を修了し、朗読活動を始めたとき、戦争や原爆について考えてもらうきっかけをつくりたい」と語る。(略)短大での授業をきっかけに貧困や紛争問題に興味を持ったという土岐さん。22歳で紛争直後のスリランカを訪れ、弾痕の残る民家や地雷原を目の当たりにした。帰国して数日後、東日本大震災が発生。見知った三陸海岸の風景は無残に変わり、福島は原発事故に伴う不安が覆う。「平和幻想がはがれ落ちた気がした」
今年4月、被爆者が暮らす長崎市で、栄養士として病院に就職。育成講座の受講も決めた。戦争や核被害について、もっと真剣に考えたいと思ったからだ。
病院や平和公園で10人以上の被爆者から話を聞いた。そして気づいた。被爆したことによるいじめや差別、子どもの健康不安-。そんな心の痛みが、体験記に全て記されているわけではないということを。「痛みの全てを理解することはできない。けれど被爆者がいる限り、分かろうとする試みは続けたい」と話す>

ボランティア活動に熱心だった土岐容疑者(本人SNSより)
記事を一読するかぎり、平和をこよなく愛する女性にしか見えない彼女が、なぜ元暴力団員と結婚し、死体遺棄事件に主体的に関わるようになってしまったのか。
3年前くらいからベンツやレクサスでアパートに訪れていた…
しかし、熱心にボランティアへの志を話していた土岐容疑者は、翌2013年6月には自らのブログに埼玉県に居を移したという報告とともに、自己紹介にはこうつづっていた。
「慢性疾患アトピーアレルギー介護不妊等の食事でお悩みの方個人栄養指導いたします」
その後2016年にさいたま市緑区内のアパートに「出張リラクゼーション」をオープンするなど、セラピストとして生計を立てていたとみられる。同じアパートに住む70代の男性は、土岐容疑者のことをよく覚えていた。

リラクゼーション店で“神の手”といわれていた土岐容疑者(店舗HPより)
「はきはき喋るいい子だったんだけどね。一昨年の夏にウチのエアコンが壊れたときには『おじさんこれ使ってよ。大変でしょ』ってアイスノンと冷風機を持ってきてくれたよ。よくチワワのような小型犬を連れ歩いていて『近くのドッグランに行ってきた』とニコニコ報告してくれたり、見た目も明るく真面目で本当にいい子ですよ」
男性が土岐容疑者を見かけるようになったのは、今から5年くらい前だという。ともに秋田出身だったことが、打ち解けるきっかけになったようだ。
「私も秋田の出なので、共通の話題があったことで少し話す間柄になりました。引っ越してきた最初の頃は一人暮らしで、一度お父さんも見かけました。お父さんは秋田から車を運転してきて『疲れた』と言ってましたが、家族とは仲のいい印象でした。
それが、3年前くらいからベンツやレクサスでアパートに訪れる不良っぽい男性を見かけるようになりました。アパートの前に駐車して、そのまま部屋に上がっていくので彼氏だと思っていました。男性はいつもジャージ姿で体格がよく、まあ雰囲気がヤクザっぽいというか…」

井上大輔容疑者(知人提供)
しかし、井上容疑者とみられるこの男は、2年ほど前から見かけなくなったという。それもそのはず、男はAさんの事件後に別の覚醒剤事件で受刑囚として網走刑務所に収監されていた。
知人によると井上容疑者はかつて暴力団員だったが破門となり「引っ越し屋で働いている」と話していたという。入れ墨をチラつかせ、女性関係もだらしなく、覚せい剤も頻繁に使用していたという。
男性が続ける。
「入れ違いで見かけるようになったのが、今一緒に住んでいる弟さんです。弟さんは名古屋で働いていたようですが、コロナか何かの理由で仕事を辞め、このアパートで暮らすようになったと聞いてます。1年くらい前には妹さんが遊びに来ているのも見かけましたよ。異変があったのは、今年の4月の終わりか5月の始め。朝6時ごろ、練馬ナンバーの車がアパートの近くに2台止まって、スーツ姿の男性数人と女性1人がぞろぞろ降りてきて土岐さんの部屋に入ったんです」
おそらく今回の事件で警視庁が家宅捜索をしたのだろう。しかし、その後も土岐容疑者は変わらぬそぶりを見せていたという。
「何人かが折り畳んだダンボールを持って部屋に入ったので、これがテレビで見たことのあるガサ入れってやつだなと思っていました。しかし、その後も普通に土岐さんを見かけるし、私もあまり気にしていませんでした。最後に見かけたのは昨日(6月6日)の朝でした。ゴミ捨てに出たタイミングがバッタリ合って、彼女はいつも通り『おはよ』と声をかけてくれました」
土岐容疑者の部屋からは、可愛がっていたという小型犬とおぼしき鳴き声が玄関越しに聞こえた。インターフォンを押して扉を叩くと、少しだけ扉を開いて中から男性が顔をのぞかせた。土岐容疑者の弟かどうか問いかけたが、男性は答えず、記者が差し出した名刺も受け取らずにドアを固く閉ざした。
家族を支える頼れるお姉ちゃんだった土岐容疑者
遠く離れた秋田市内の実家周辺でも、土岐容疑者逮捕の一報は驚きをもって受け止められたようだ。近くに住む女性はこうため息をついた。
「この辺りは1999年ごろに開発された新興住宅地で、土岐さんご一家も出来始めのころに引っ越されてきました。二世帯住宅で、彼女からすると祖父母とご両親、妹弟の7人でお住まいでした。とても雰囲気のいいご家族で、きょうだい仲もとてもよかったですよ。おじいさんが亡くなられたのに次いで、お母さんも十年以上前に亡くなられました。お母さんの葬儀でお会いしたときも、菜夏さんは喪主であるお父さんの手伝いをしたりと、頼れるお姉さんでした。昔から気さくでかなりはきはきとした女の子だったんですよ」

本誌記者が直撃した際の土岐容疑者(撮影/集英社オンライン)
2年前に土岐容疑者が帰省した際に交わした会話も女性は覚えていた。
「お父さんは以前は車関係のお仕事をしていて、お母さんは専業主婦でした。お母さんがガンで亡くなられたとき、弟さんはまだ高校生ぐらいで、妹さんも一緒に菜夏さんのことをすごく頼りにしてました。秋田市のアパートで姉弟3人で暮らしていた時期もあったそうです。実は2年くらい前、ご実家に菜夏さんが今回逮捕された男性を連れて来たことがあるんですよ、ワンちゃんも連れて。やたら怖い顔した男性だからなんとなく覚えてましたけど、逮捕のニュース映像を見て驚きましたね。家族を支える頼れるお姉ちゃんだったのに、いつのまにか悪い男に引っかかっちゃったんですかね」

遺体遺棄現場(写真/共同通信社)
遺棄事件後、土岐容疑者と井上容疑者は離婚している。だが、井上容疑者が網走刑務所に収監された頃、土岐容疑者は店のYouTubeチャンネルで、網走刑務所のTシャツを着て番組に出演するなど、服役中の元夫への未練があったようにもみえる。
マザー・テレサを夢見た“いい子”はなぜ、井上容疑者の悪に染まってしまったのかー。
警察の調べに対して土岐容疑者は黙秘を続けているという。
※「集英社オンライン」では、今回の事件について取材をしており、情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班