関西地方の小学校で特別支援学級の担任として働く30代男性は「本当にやりがいのある仕事で、私自身は辞めたいと思ったことはありません。ただ、厳しい労働環境を考えると、なり手が少なくなり、日本の公教育が成り立たなくなるのではないでしょうか」と危機感を覚えている。
この男性は、児童が登校する30分ほど前の7時半には学校に出勤。6時間目までの授業を終え、15時半すぎに子どもを見送るまでの8時間、一般企業では当たり前の「昼休憩」はない。
「定額働かせ放題」教員のブラックな現状。就活生からも「学校は“沈みかけた船”」と見放されて深刻ななり手不足…学校教育の危機に、どうする文科省!?
教員の長時間労働の常態化や、なり手不足を受け、文部科学省が公立学校の教員の待遇改善策や働き方改革を本格的に検討し始めた。外国人、不登校の子どもの増加や、教育現場のデジタル化など、教員に求められることは増えているが、公立学校の教員には残業代が支給されず、基本給の4%が上乗せされるのみの「定額働かせ放題」での残業が常態化。現場の教員からは、抜本的な働き方改革を求める声があがっている。
職場の滞在時間12時間+仕事の持ち帰り&休日出勤

※写真はイメージです
「子どもにとっては休み時間、給食の時間でも、教員にとっては、子どもから目を離せない時間。気を抜くことはできません」
子どもが下校してからも、仕事は続く。
17時ごろまでは会議や打ち合わせ。それが終わればさすがに勤務終了……となるはずが、その後も保護者への連絡や行事の準備、子どもの学習課題の用意など、やることは山のようにある。
日常的に残業をしないと仕事がまわらず、平日は18時半~19時半まで残業するのがほとんどだ。1日12時間ほど学校で過ごすうえ、家では職員会議に提案する資料を作ることもある。
男性は「同僚も、若手・ベテランに関係なく、家に仕事を持ち帰ったり、休日出勤をしています。長時間働くことが当たり前になりすぎています」と、長時間労働に「麻痺」している現状を嘆く。
基本給30万円なら1万2千円の支給で数十時間の残業
こうした労働環境は特殊なケースではない。
文科省が全国の教育委員会に対し、教員の勤務実態を調べた調査では、2022年4~7月に時間外勤務時間が月平均45時間を超えていた割合は、中学校では54%、小学校では37%だった。
文科省は教員の働き方改革や待遇改善に取り組むべく、5月22日、文科相の諮問機関である中央教育審議会に対し、対策を諮問した。
検討課題のひとつが、「定額働かせ放題」と言われてきた働き方だ。
公立学校の教員には、基本給の4%が「教職調整額」として支給されているが、いわゆる時間に応じた「残業代」は支払われない。基本給が30万円であれば、1万2千円の支給で数十時間の残業をしている教員が多数いるのが現状だ。
自民党はすでに教職調整額を4%から10%以上に引き上げる提言を示しており、中教審では、この教職調整額の引き上げについても検討される見通しだ。
ただ、この提言について現場の教員の思いは複雑だ。

文部科学省が令和4年1月に発表した教師不足の状況についての一覧表
前出の教員はこう訴える。
「教職調整額が引き上げられるなら単純にうれしいですが、残業ありきの議論ではなく、まずは基本給を上げてほしい。
『教員は待遇がよくない』というイメージや現状を変え、離職を減らし、優秀な人材を確保する必要があると思います」
関東地方の小学校で5年生の担任として働く30代の男性教員は「現状では、給与が仕事の負担に見合っていません。教職調整額が増えるならありがたい」と歓迎するが、同時に働き方改革も重要だと指摘する。
「運動会の種目を絞って時間を短縮するなど、仕事のスクラップ・アンド・ビルドは少しずつ進んでいますが、抜本的な改革はまだまだです。
人員配置の充実も課題だと思います。私の勤務校では、音楽・体育などの教科の専科の先生はほぼいません。一部を除いて自分がすべて授業しているので、専科の先生の配置ももっと進めてほしいと思います」
教員志望学生は「学校は沈みかけた船」と
教員の有志団体や有識者も、労働環境を改善する方向に議論が進むよう、声をあげている。
5月26日、文部科学省で会見した岐阜県立羽島北高校の西村祐二教諭は「公教育が生きるか死ぬかの瀬戸際。今が最後のタイミング」と危機感を語る。
それは、過酷な労働環境によって教員不足が進み、学校現場が「崩壊」していることを感じるからだという。
「すでに別の学校で講師として働いている知人は3月に10~20校ほど別の高校から、『うちで講師をやってくれないか』と連絡があったそうです。1年前に比べて、講師のなり手不足問題は、顕著に悪化していると感じます」
教員不足の問題は、将来に向けてよからぬ影響をすでに生み出しているという。
「残業が理不尽すぎる今の労働環境を大学生は理解していて、ある大学生は『本当は教員になりたかったけれど、学校は“沈みかけた船”。乗船をやめました』と言っていました。
教員になりたいという夢をもっていた高校生や大学生が待遇の悪さからその夢を諦めてしまえば、たくさんの教員志願者を失ってしまうことになります」

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そのうえで、教職調整額の引き上げについては、こう疑問を呈する。
「今の教員給与特別措置法だと、残業は先生が好きでやっている扱い。残業を残業として認め、残業が発生していることに管理職が責任を負う。時間に応じた残業代などの対価を支払う。
ここに踏み込まないと、手取り額をひとりあたり月2万円程度多くしても、『定額働かせ放題』の現状は何ひとつ変わりません」
西村氏は「たとえば、教員が1時間早く出勤して校門に立って行う登校指導も、現状は教員が使命感で、好きでやっていることになっています。
こうした仕事についても、管理職が残業代や残業時間を意識し、別のスタッフを雇ってやってもらったほうがいいんじゃないかとか、業務の洗い出しをする方向にいってほしい」と、願っている。
優秀な教員を確保できなくなると、しわ寄せは子どもに向かう。教員が心身ともに健康に働ける労働環境と、責任ある仕事に見合った待遇改善が求められている。
※「集英社オンライン」では、教員の労働環境について、情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
●著者
集英社オンライン編集部ニュース班
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