「公的な立場にある政務秘書官として不適切であり、けじめをつける。任命責任は私自身にあり、重く受け止めている」
5月29日夕方、首相官邸で記者団の取材に応じた岸田首相は、固い表情で、長男の更迭理由を説明した。全国紙政治部記者が解説する。
「当初は『異次元の親ばか』ぶりを見せ、厳重注意で乗り切る考えの首相でしたが、連日、おふざけ写真がテレビをにぎわせ、せっかくのサミット後なのに、日経新聞の世論調査では支持率が5ポイント低下。国会でこれ以上追及を受けないよう、更迭を決断しました」
岸田首相、長男・翔太郎氏更迭で“異次元の親ばか解散”→7月総選挙が浮上。「10増10減」で自公協力に亀裂。いっぽう立民は…
「公邸の階段に寝そべり」「演説台で総理会見ごっこ」――外国要人を迎えての歓迎行事なども開かれる公邸での大はしゃぎ忘年会問題を受け、岸田文雄首相は5月29日、長男の岸田翔太郎秘書官を更迭した。当初は「異次元の親ばか」ぶりを見せ、厳重注意にとどめていた首相だったが、世論の反発を受けて更迭を決意。永田町では「スキャンダルを終わらせ、一気に解散総選挙に向かうのでは」という観測が流れている。
「こういう答えでよろしいでしょうか」
当初は低姿勢だったが……

異次元の親ばかぶりを発揮?(写真/共同通信社)
別の政治部記者はこう語る。
「翔太郎さんはもともと、岸田首相の事務所で秘書をしていましたが、そのときは秘書仲間からも『政治家の息子にしては腰が低く、先輩の話も素直に聞く』と、まずまずの評価でした。首相秘書官に就任した直後は『身びいき』との批判が強かったこともあり、マスコミの取材にも『こういう答えでよろしいでしょうか』などと、神妙な面持ちで対応していました」
だが、1月の首相の欧米外遊への同行以降、翔太郎氏が首相の足を引っ張ることが増える。
1月26日、「週刊新潮」(2月2日号)にて外遊同行中に翔太郎氏が日本大使館の公用車を利用して、パリやロンドンの観光名所を訪れていたと報道。政府は「対外発信に使うための街の風景やランドマークの外観撮影」が目的だったとしたが、のちに朝日新聞が翔太郎氏の撮った写真を情報公開請求したところ、「『画像データ』は行政文書に該当せず、保有していない」と回答。写真はいまだに、政府のSNSやホームページといった対外発信の媒体で使用された形跡はない。

秘書時代は「政治家の息子にしては腰が低く、先輩の話も素直に聞く」と言われていたが…(写真/共同通信社)
そして5月24日、「週刊文春」(6月1日号)では、新閣僚の記念撮影が行われたこともある階段で、首相の位置に翔太郎氏、閣僚の位置にいとこたち、という組閣時を模したような写真や、翔太郎氏のいとこの男性がアイスのカップのようなものを手に、赤じゅうたんの階段に寝そべる写真などが掲載された。
「当初はおとなしくしていた翔太郎氏も、首相秘書官として周りにちやほやされ、勘違いしてしまったのでは。外遊での『観光名所撮影』『お土産購入』報道後も、若手実業家らとの飲み会に積極的に繰り出しては、首相秘書官として持ち上げられ、はしゃぐ姿が目撃されています」(官邸関係者)
「10増10減」混乱も「なんだかんだ自公はうまくやる」
翔太郎氏の問題とともに、ここ最近の首相の頭を悩ませてきたのが、「10増10減」をめぐる自公の対立だ。
公明は、次回衆院選で東京の選挙区が増えることを受け、東京28区に公明候補を擁立することを求めていたが、自民が認めなかった。結局、公明は28区の擁立は断念する一方、東京都内の自民候補を推薦しない方針を伝達。自民党内からは「1選挙区あたり公明票は2万票ほどある。公明から推薦をもらえない影響は大きい」との嘆きの声が聞こえる。
しかし、全国紙政治部記者は対立の影響は限定的とみる。
「公明は連立離脱までは望んでいないし、都内で自民候補を推薦しないとはいえ、選挙では水面下での様々な協力のしかたがある。自民も、公明が候補者をすでに発表した埼玉、愛知の選挙区では候補者を擁立せず、公明の顔を立てる形にする。なんだかんだで、うまくやるはずだ」

なんだかんだうまくやる? 山口代表(山口那津男氏のFacebookより)
この政治部記者は、自公の対立、翔太郎氏の問題はあったが、夏の総選挙は十分あり得るとみる。
「首相はサプライズ好き。自公の混乱、翔太郎氏の問題にも一定のけりをつけ、直前まで解散に向けた動きは悟られないようにしながら、6月解散、7月総選挙を仕掛けてくる可能性は十分ある」
一方、対する野党第一党の立憲民主党には、あきらめムードや、党の分裂を危惧する疑心暗鬼の雰囲気がただよう。
「正直、夏だろうが秋だろうが、いつ解散しても、立憲にとっては同じでしょ」とため息をつくのは、落選中の立憲の前衆院議員だ。
泉健太代表は、次の衆院選で、現有議席の約1.5倍となる150議席に達しなければ代表を辞任する考えを明言。だが、共同通信が27、28日に実施した世論調査では立憲の政党支持率は8.8%で、維新の12.6%に4ポイント近くの差をつけられるなど厳しい状況が続き、党内では、衆院選後の泉氏の引責辞任は既定路線になっている。

泉氏の引責辞任は既定路線?(泉ケンタ事務所Facebookより)
泉氏の意向について立憲関係者は「まったく党勢が上向く兆しがない中、4月の国政補選で1勝もできなかった責任も問われ、泉代表は辞めたくて仕方がない」と解説する。
「岡田克也幹事長が必死になって泉代表の辞任を止めてきたが、その背景には『泉代表自身も代表を降りたら、維新に行ってしまうのではないか』との懸念もあった。もはや、代表すら他党に行ってしまうのでは、と思われるくらいに、党内は疑心暗鬼の状態だ」(前出の立憲関係者)
物価高、少子化対策など国民にとっての課題は山積みだが、与野党ともに目の前の衆院選に向け、浮足立っていることだけは、確かなようだ。

国会議事堂(写真はイメージです)
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班