〈学童保育のリアル〉児童がすし詰め状態で支援員の目が行き届かずトラブル続出…学童が嫌だから学校にも行かない」と言いだす子ども…高齢者支援員の限界をベテラン支援員が吐露
「もうとっくに崩壊しています」。そう訴えるのは地方で働くベテラン学童支援員。少ない補助金で人材確保が難しい運営、働きの悪い高齢職員…劣悪な環境から「学童にいきたくない」と泣き出す児童も。そんな窮地を救った“新しい学童”の取り組みとは…。
高齢者ばかりの支援員、疲弊して動けない

「うちでは70代、80代の支援員が多く働いています。でも、60代以上になると、ザ・昭和っていうか、今の子どもにまったく合わない、時代遅れな対応をしてしまう人が多くいます。優しい支援員さんもいるんですが、言葉づかいが粗かったり、声が大きくて怖かったり、なかには子どもに手をあげてしまう人も。
運営者には『年配の支援員が乱暴な保育をしているので、しっかり管理しないといけないんじゃないか』と伝えていますが、あまり改善されません。しかも、そんな高齢の支援員もフルタイムの人数としてカウントされている。
ですが、はっきり言って仕事量ではとても『支援員一人分』にはカウントできません。長時間、若い支援員と一緒に働くと『ああ、疲れちゃったー』と座り込んじゃって、送り迎えのご家族に対応をしなかったり、ケガをした子がいても知らない顔をしたり、『今日は外遊び、やらなくていいんじゃない?』とか言いだすんです。
私としては『それは子どもが決めることで、あなたが決めることじゃない』って思うけど、若い支援員は年上の方には強く言い返せなかったりします」
現場を牛耳る“高齢者支援員”の重圧に耐え兼ね、Aさんの働く学童保育では、若い支援員の離職率が高いという。
「高齢者だからダメと言いたい訳じゃないです。昔ながらの遊びを教えてくれる方がいたり、和やかでいい面もある。それこそ14時半から忙しい17時半くらいまでとか、短時間だけ来てくれるなら助かります。
実際、市区町村によっては、短時間だけ最低賃金で来てもらうようにしているところもあって、そういう雇用の仕方はすごくいいと思います」

ベンチに座る高齢者の支援員(イメージ)
Aさんの年収は100万円、現状はシフトをいれたくてもいれてもらえない雇用形態にも不満を抱いている。
「私たちの学童は『扶養の範囲内』で雇われていて、社会保険にも入らせてもらえないのでちゃんと雇ってほしいです。補助金が少ないから、運営者は、支援員みんなが年収100万で済むように調整しています。そのために支援員の人数が必要になる。これでは若い支援員が定着しません。
現状は日替わりで支援員がコロコロかわる“ブラック学童”で、児童が支援員の名前を覚えることもなかなか難しい。こうしたことが大きな事故につながらないか心配です」
突然娘が「学童が嫌だから学校にも行かない」と言い出した
これまで学童保育は多くの地域で、あったとしても「原則として1つの小学校に1つ」が通例だった。Aさんが勤めるような学童保育や、環境が劣悪な学童保育であろうと、共働きの親は学童保育に頼るしかないのが現状だ。
北関東で3人の子どもを持つBさん(40代)に話を聞いた。Bさんは長女と次女が学童に通い、下の子は保育園に通っている。
「娘が通っていた学童は150人近くの児童が在籍する“すし詰め状態”の学童でした。おもちゃや本を持って行くと『私物が混ざると管理できない』と言われ、何をやるにも『禁止』とばかり言われていました。学童内でやれることといったら折り紙くらいで、それもまるで配給みたいに配られた枚数しか使えない。

すし詰め状態の学童保育
学年も違う子どもたちが一つの部屋に集められていますが、子どもの中にはやけに衝動的な子もいて、むかってくるような子もいます。でも子どもの数が多すぎて職員は手がまわらない。人数が多いせいか、いつも『みんなで遊ぶ』『みんなで黙っておやつを食べる』みたいな集団主義みたいなやり方なので、マイペースなうちの子は行きたがらなくなってしまいました」
Bさんの長女が通っていた学童保育では、子どもの受け渡しをする際、常に園の入口前に保護者の列ができていたという。当時はコロナ対策で親であっても施設内に入ることが許されなかったからだ。これでは支援員も受け渡しの対応に追われっぱなしで、保護者とまともに会話すらできないだろう。

塞ぎこむ子どもも少なくない(写真はイメージ)
「一時が万事そんな状況ですから、突然娘が『学童が嫌だから学校にも行かない」と言いだしたんです。『学童を辞めさせる=私も仕事ができない』ことになってしまうので、正直困りました。娘に頭を下げて『お母さんは仕事だから、あなたも頑張って学童に行こう』とお願いしたんですが、娘は泣いてしまいました」(Bさん)
新しい学童は「地獄から天国に来たみたい」
偶然にもBさんが住む地域では下の子たちが通う保育園の社福法人が新たな試みとして学童保育の運営をはじめていた。Bさんは藁をも掴む気持ちで、今年4月、長女を転園させたという。
「娘が言うには、『地獄から天国に来たみたい』な違いだと。前の学童の支援員はプールの監視員みたいだったのですが、今の学童では、支援員と子どもたちが一緒にゲームをして遊んでいます。学童が家庭と一緒に子育てをしている感じがあります。

(写真はイメージ)
児童の数は20人、できてまだ日が浅いこともあって、学童が保護者と相談しながらルールを作っているので、意見をよく聞いてくれます。学校から少し距離がありますが、支援員さんがしっかりコミュニケーションをとってくれている。LINEグループで学童とのやりとりをしているんですが、活動の写真を送ってくれたり、『いま、外遊びをしています』とか、情報共有をたくさんしてくれるので、一日、何をやったのかがよくわかります。子どもはもちろん親としても今の方が安心できます。
保育園は入園前に見学ができ、園それぞれに個性があることに気づきましたが、学童の違いは入るまで保護者には見えにくい。もっと情報と選択肢があるべきだと思います」(Bさん)
Bさんは偶然、新しい学童の存在を知り、壁を乗り越えることができた。
だが、それでも学童は保育園に比べ選択肢が少なく、その格差は保護者には見えにくい状態である。
政府肝煎りの「こども家庭庁」は、4月1日から本格的に始動した。今後予算案が作成され、これまで叫ばれてきた保育園の待遇の改善が期待されている。
だが、放課後児童クラブ、学童保育の現状ははたして改善されるのだろうか。引き続き注視していきたい。
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取材・文/ 大川えみる
集英社オンライン編集部ニュース班