歌舞伎町・深夜のストリートピアノに密着! 日芸ピアノ科を首席で卒業してピアニストを目指すキャバ嬢。「今はキャバクラで働いてるけどいつかは…」
新宿・歌舞伎町の一角に、深夜でも演奏可能な”ストリートピアノ”がある。前編では、そこを訪れた”トー横キッズ”らにスポットを当てたが、後編では大人たちの姿をお届けしたい。
日芸ピアノ科首席卒業のキャバ嬢の姿も
東急歌舞伎町タワーがオープンした4月14日の夜。2組のトー横キッズらがそれぞれの思いを抱え、歌舞伎町のチェックメイトビルにあるストリートピアノを弾きにくる様子を前編で紹介した。

区役所通りにあるチェックメイトビル
この日、深夜1時を回るころには、チェックメイトビルの前はアフターに出かけると思われるホストやキャバ嬢の姿が増えてきた。盛り上がる繁華街。そのなかで1人の女性がピアノ椅子に座る。黒を基調とした服に身を包んだスタイルのいい綺麗な女性が演奏するのは『ノクターン第2番』と『ノクターン第20番』。どちらもショパンの代表曲だ。

キャバクラで働きながらプロのピアニストを目指す玖蘭泉希さん
「勤務先のボーイに『せっかくピアノ得意なんだから行ってみたら?』と勧められて、それから毎日仕事終わりに弾きにくるようになりました」
歌舞伎町のキャバクラで働く玖蘭泉希さん(源氏名・25才)はそう恥ずかしげに語るが、”キャバ嬢×ピアニスト”の二刀流で活動する彼女の経歴は並ではない。
「5才からピアノを始めて、高校生までは県のコンクールで1位を獲り続けていました。その後も日芸(日本大学芸術学部)のピアノ科を首席で卒業したんですけど、クラシックって大学院を出て、海外留学を経験したのち、30才あたりでようやく土俵に立てる世界。
でも、私はそのままピアノを続けられるほど環境に恵まれてたわけじゃないんで。それで副業としてキャバクラの世界に飛び込んだんですけど、やっぱり夜職って大変ですね。池袋のお店ではナンバーワンになれましたけど、1年前に歌舞伎町に来てからは、全然売上が伸びなくて……。『どうすればリピートしてくれるお客さんが増えるんだろう?』と悩む日々が続きました」

玖蘭泉希さん(本人Instagramより)
そんな彼女を救ったのが、このストリートピアノだった。
「プロのピアニストを目指すことで両親と喧嘩したこともあったし、親の援助がない環境で、他のコとの実力差を感じてピアノから離れようと思ったこともありました。でも、この場所に出会ってからは、『ピアノとキャバクラ、両方あってこその私なんだ!』と前向きになれました。
今はキャバクラの売上を伸ばしたい思いが強いですが、将来的にはピアノだけで食べていきたい。音楽家を目指すには時間もお金もかかるけど、私みたいに恵まれた環境じゃなくても、頑張れば道は開けることを証明したいですね」
「ピアノの音色は心が洗われる」
夜もすっかりふけた午前2時すぎ。今度は3人組の若い男性グループがやってきた。そのうちのスーツ姿の男性が、酔っているのかフラフラとピアノ椅子へ。弾いたのはベートーヴェンの『悲愴』だ。
「会社の先輩が僕のピアノを聞きたいってうるさくて、飲み会帰りにしかたなく来たんです。『悲愴』もこの人(先輩)のリクエストですね(笑)」

IT企業で働く坂井さん(仮名)
酔っているのか照れているのか、頬を赤らめて話す坂井さん(仮名・24才)は、都内のIT企業に勤めるサラリーマン。幼稚園の年少からカワイ音楽教室に通い、年に一度開かれる「カワイ音楽コンクール」のピアノ部門でも、毎年入賞するほどの実力だったという。
「でも、中学でバスケ部に入ってからは、『ピアノってダサくね?』とバカにする自分もいて。反抗期も重なったせいで、週に1度のピアノ教室に通うのも億劫になって、中学卒業と同時にやめてしまいました。
そこからピアノとは無縁の生活を送っていたんですけど、大学受験の勉強の合間に気がついたらYouTubeでショパンの『ノクターン2番』や、盲目のピアニスト、辻井伸行さんが演奏する『英雄ポロネーズ』を見てたりして。今、思い返せば『僕ってやっぱりピアノが大好きだったんだな』と」
当時を懐かしむ坂井さんにピアノの魅力について尋ねてみると、笑顔でこう語った。
「ピアノの音色って“不純物”が一切入っていないので、聞いていて心が洗われるんですよ。もちろんJ-POPやロックも大好きなんですけど、やっぱりクラシックには敵わない。今日は会社の人たちと一緒なので、リクエストされた曲しか弾いてませんけど、今度ひとりで来たときは、思いっきり自分の好きな曲を弾いてみたいですね(笑)」

深夜、ここから奏でられるピアノの音色が、歌舞伎町の人々のすさんだ心を少しでも洗い流してくれることを願う。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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