“ムラ”の「血と掟の因縁」を再燃させた92歳老人は事件10日前にもトラブルを起こしていた「本当は跡継ぎになる予定だった」「本家や分家の話をしつこくして…」《青森5人死亡火災》
「もう風化しかけてますけど、そんなしがらみで悲しい事件が起きるのなら完全になくなってほしいですね。いい町だと思うので」青森県六戸町犬落瀬で8人家族の住宅が全焼し、5人の焼死体が見つかった事件は、近くに住む親戚のAさん(92)が放火に関与した疑いがあるとみて青森県警が調べている。被害にあった十文字家とAさんとの間の80年余に及ぶトラブルや、ムラ(集落)の掟が背景にあった可能性を♯1、♯2で詳報したが、それらが凶悪犯罪の理由として正当化される道理など微塵もない。このムラは、はたして今なお不条理な「掟」で縛られているのか。事件の余韻が残る現場周辺を歩いてみた。
口癖は「火つけるぞ」
現場はJ R八戸駅から国道45号を通って車で30分ほどの距離。国道の両側には田畑が広がり、その奥に人家の立ち並ぶ集落がある。平地で自然災害や積雪の少ない六戸町は県内では温暖で住みやすい地域として知られ、人口は約1万人。犬落瀬は町内人口の半分以上を占める大字で、五人役など42の小字で構成されている。
地域の人たちの言う「ムラ」とはこの小字がいくつか集まった単位のことを指す。代々農業が受け継がれた地で水田のほか、近年、力を入れているのが、生産日本一ともいわれる大玉にんにくだ。

Aさんの自宅付近(撮影/集英社オンライン)
現場と同じ集落に住む40代の女性は、冒頭の言葉に続いてこう述べた。
「私は他所から嫁いできたんですけど、みなさん優しくしてくれるし、風習とか掟みたいなのを最近、言われたことはありません。近所にも他所から嫁いできた方がいらっしゃいますが、その方もそういう話はご存じなかったので、掟と言ってもかなり昔にあったもので、今では風化しかけてるものだと思います。昔からお住まいのお年寄りたちは気にしてたのかもしれないですけど、それを自分たちに押し付けたり、直接言われたことは一度もありません」

火災にあった十文字家(撮影/集英社オンライン)
60代の飲食店店主の男性もこう語る。
「この辺りには掟や風習とかがあったみたいだけど、それを経験したのは、今80代くらいの世代じゃないかな。俺が結婚する時にはそんな話は全然聞かなかったよ。六戸町自体かなり小さい町だから、Aさんが厄介じいさんだったのは町中で有名だったけどね。怒りっぽくて、何かといろんな人とすぐ揉めて『火つけるぞ』が口癖だったけど、まさか本当に火をつけるとはね。
この辺は家も少ないから、町の選挙があると候補者が各家に挨拶をして回るんだけど、厄介に巻き込まれるのが嫌で、候補者連中もAさんの家には誰も訪問しなかったらしいよ」
ムラの血が入ったから、Aさんはもう必要なかった
現場近くに住む82歳の男性はこう証言する。
「Aさんが昔から十文字家と揉めてたのは本当なんだけど、その理由ってのが十文字の後継の問題なんだわ。十文字家が許しを得てこのムラに分家を作った頃は掟とかがちゃんとあったから、ムラの人と一緒にならなきゃダメだってことだった。だからAさんの母親がAさんと妹の和子さんを連れて後妻として嫁いだんだけど、本妻との息子もいたわけ。それがBさんっていう、後の和子さんの旦那さん。
実は、Aさんはムラの血を引く息子として、十文字家の後継になる予定だったんだよ。それが和子さんとBさんが結婚することになった。和子さんにはムラの血が入っているから、Aさんはもう必要ないってことで家を出る羽目になったんだ。相当揉めたみたいだし、Aさんは根には持ってただろうね。でも、そうしたムラの人同士の結婚話も、俺が大人になった頃にはもう聞かなくなった気がするな。その頃には外から来た人もいたからね」
ムラでは風化しかけていた「血」や「掟」のしがらみは、幼少期から複雑すぎる事情に翻弄され続けたAさんの胸の中では、年を追うごとにマグマのように煮えたぎっていったのかもしれない。
近くに住む70代の男性は、こう心情を慮った。
「Aさんは十文字家と距離があったけど、和子さんとは仲が良かったんだよ、実の兄妹だからね。和子さんも独り身のAさんを心配してか、よくAさんの家まで行ってお話してたからね。それが10年くらい前に和子さんが足を悪くしてからはあまり家から出られなくなったから、Aさんが十文字家に行くようになった。でもAさんは酒癖は悪いし、本家や分家の話をしつこくしたり、土地を巡って揉めてたりしてたから、そのうち和子さんに会いに行っても『来るな!』と門前払いをされるようになり、その度に言い合いをしてたんだよ」

次女の抄知さん(フェイスブックより)
男性は続けた。
「今回の火事が起きる1週間前くらいに、Aさんが自宅の裏庭でゴミを燃やしてたら火の粉が飛んだらしくて、すぐ横にある十文字さんの畑のビニールハウスに穴が空いたんだよ。それで十文字家の人たちと激しく揉めていた。色々溜まってたものが爆発しちゃったんだろうな。Aさんが若い頃は掟が厳しくて、母親と妹が嫁いでるのに、十文字家の女性はムラの外から婿を貰っていて掟に背いてることも気に入らなかったんだと思う。家柄とかの話で衝突することもあったらしいからね。
でも実際、そんな古い話を気にしてるのは80代とか90代の年寄りだけで、今では外からムラにきて住んでる人は結構いるし、その年寄りたちも直接言ってきたりしないよ。祟りだの、掟を破っただのと言われてたのも、ムラの人が半分冗談で言ってた印象だね。まあAさんはその掟で母親と妹を取られてるし、古い人だからかなり気にしてたかもしれないけど…」

十文字さん一家のビニールハウス(撮影/集英社オンライン)
子どもに声をかけたら通報されて警察沙汰になった
Aさんの胸中のマグマは、何年も前から噴火寸前だった。近くに住む51歳の男性はしみじみとこう語った。
「5〜6年前かな、Aさんがその辺を歩いてた子どもと話したくて声をかけたんだけど、人相も悪いし口調も荒いから怖がられて、学校に通報されて警察沙汰になったんです。そのときに俺が助け舟を出そうと警察に出向いたら、Aさんは俺が警察に通報したと勘違いして『お前が警察に言ったんだろ!殺すぞ!家燃やすぞ!』ってキレちゃって。もう年取って頭おかしくなったんだなと思って、それ以来あまり関わらなくなりました。
それにAさんは跡取りもいない年金暮らしだから、お金にも困ってたみたいで『にんにくを栽培するから畑を貸してくれ、協力してくれ』ってムラの人に言って回ってたんですよ。でもそれを言い出したのが80代になってからですよ。にんにく栽培なんてお金もかかるし良い物を作るのは難しいから、下手したら大赤字なわけです。それをもういつ死んでもおかしくない歳の人に任せられるわけないじゃないですか。そういういざこざもあってみんなから避けられていましたね」

献花台にはたくさんの花が供えられていた(撮影/集英社オンライン)
19日に現場を訪れて献花した青森県警本部長は、こうコメントを残して去った。
「真相解明に向け全力を尽くします」
※「集英社オンライン」では、今回の事件について取材をしており、情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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