「大分県教育委員会において適切な確認をしていなかったということは遺憾であり、指導を行った。教育職員等による児童生徒への性暴力等から子どもを守り抜くために、しっかりと取り組みたい」
永岡桂子文科相は3月24日の会見で、女子中学生の体を触ったとして有罪判決を受け、執行猶予中の男性が、大分県の小学校で非常勤講師として勤務していた事案に触れ、再発防止を誓った。こうした子どもへの「わいせつ歴」がある人物を再び教育現場に戻さないよう、文科省は対策を強化している。
その柱の一つが、4月から運用を始めるデータベースだ。ここには、子どもへのわいせつ行為で教員免許を失効した元教員の氏名や失効理由などが、過去40年分にわたって登録される。
文科省が、データベースの運用に先立ち、3月に各都道府県教委などに通知した文書では、教育委員会や私立学校が常勤・非常勤に関わらず教員を採用する際には、このデータベースで氏名を検索することを義務づけた。
教員免許を失効した元教員が意図的に改名し、検索に引っかからないようにするケースも想定されることから、現在の氏名だけでなく、大学の卒業証書の氏名でも検索するよう求める徹底ぶりだ。
「データベースに載っていると判明した人物を教育委員会が採用することは、まずないでしょう。データベースに載った人物の再任用は、かなりの確率で防ぐことができます」(文科省官僚)
〈わいせつ教員の再任用を防げ!〉4月から全国でデータベース活用へ。それでも学童保育の職員や部活動指導員の採用では「まだまだ抜け道だらけ」の声も
子どもにわいせつ行為をして教員免許を失効した元教員が再び学校現場に復帰することがないよう、文部科学省は4月から、こうした元教員の情報を一元化したデータベースを全国で活用する。これにより、わいせつ行為で教員免許を失効した元教員が免許を再取得し、別の県の学校現場に復帰して再犯を起こす…といったケースを防げることになるが、文科省官僚からは「まだまだ抜け道だらけだ」との溜息も漏れている。
「昔の氏名でも検索を」データベースの厳格運用で、再任用防止

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後を絶たなかった「再任用後の再犯」

文部科学省
子どもに対する性暴力は再犯率が高い。法務省の2015年版犯罪白書によると、調査対象となった性犯罪の再犯者9人のうち8人の再犯が小児わいせつ型に該当したという。
これまで教育委員会は、採用の際に、過去の処分歴を自己申告させるなどして、子どもへのわいせつ行為で処分を受けた教員を再び採用しないようにしてきたが、処分歴や逮捕歴のある元教員が改名したり、処分歴を隠して別の県での採用試験を受けたりして、再び学校現場に戻り、子どもにわいせつ行為をする事例もあった。
「たとえば、2017年に女児へのわいせつ容疑で逮捕された、愛知県内の小学校の臨時講師は、埼玉県の小学校で教員として働いていた2013年にも、児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪で罰金の略式命令を受けていました。この男は懲戒処分も受けていましたが、のちに改名し、処分歴も隠したため、愛知県で再就職できたのです。学校現場での教員のわいせつ行為は、被害者である子どもの個人情報保護のために、報道発表されないこともあります。そのため、情報の把握がしづらいのです」(全国紙記者)
こうした事案を防ぐため、文科省はデータベースの実効性を高めるのに必死だ。わいせつ行為をした教員が依願退職を申し出た場合も、データベースに載らなくなる依願退職は認めずに、厳正な処分をするよう、教育委員会に求めている。
ただ、どれだけ文科省がデータベースを緻密に整備しても、子どもへのわいせつ歴がある人物が子どもと関わる仕事に就く「抜け道」はいまだ残っているのが実情だ。
子どもに関わる仕事は、教員だけとは限らない。学校の敷地内に入る立場だけでも、学童保育の放課後児童支援員、部活動指導員などがいる。
だが、市町村や学童クラブを運営している団体が学童保育の放課後児童支援員を、教育委員会が部活動指導員をそれぞれ採用する際には、データベースは検索できない。今回整備されたデータベースは、あくまで教員採用時のチェックを目的とし、閲覧が限定されているからだ。
個人情報の厳格な管理は重要である一方、教育関係者は「学童保育の放課後支援員のような、教員以外の人物が学校で子どもにわいせつ行為をする事案は後を絶たず、再犯の例もあります。対策は喫緊の課題です」と危機感を募らせる。
実際に、読売新聞によると、2020年11月に千葉県の学童保育で、小学生男児のズボンに手を入れ、陰部を触ったなどとして、翌年に千葉地裁で懲役2年、保護観察付き執行猶予5年の判決を受けた男は、岡山県内の学童保育に勤めていた2020年3月にも同様の事件を起こしていたという。
「日本版DBS」導入検討も、なお残る課題

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こうした、教員以外の人物によって繰り返される被害も防ぐため、4月に発足するこども家庭庁は「日本版DBS」の仕組みを検討する。DBSとは、イギリスで導入されている、性犯罪歴がないことを証明する書類を提出しなければ、子どもと関わる仕事に就くことはできない「ディスクロージャー・アンド・バーリング・サービス(Disclosure and Barring Service)」という仕組みの略だ。
日本版DBSをめぐっては、個人情報保護との兼ね合いなども課題にあがっており、施行は早くて再来年度とみられる。文科省官僚は「日本版DBSが導入されれば、過去に子どもへの性犯罪をした人物が再び子どもに関わる仕事に就くことは、大きく制限されます」と、導入に期待を込める。
ただ、「わいせつ事案では、子どもが『先生から受けた被害を訴えると、高校受験に響くかもしれない』『被害を受けたと周囲に知られるのが嫌だ』と泣き寝入りしてしまうケースもあり、すべての性犯罪者がデータベースに載るわけではありません」と、その限界についても語る。
また、過去に問題行動を起こしていなくても、子どもに対する欲望を心に秘めているような人物の採用も、日本版DBSだけでは防げない。
「教育委員会や民間企業が採用の際に『あなたは子どもに対する性癖を持っていませんか』なんて聞いたとしても、『持っています』と答える人はいないでしょう。教育現場では、わいせつ事案を防ぐための研修や、先生と子どもを2人きりにしない注意も必要になってきます。まだまだ抜け道、課題だらけなのが実情です」(前出の文科省官僚)
これ以上、被害者となる子どもを生まないために、二重三重の取り組みが求められる。
※「集英社オンライン」では、学童保育や学校で起きたトラブル・事件について取材をしており、情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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