タバコへの風当たりが強まっている昨今、「喫煙OK」に関する取材にNGを出す店は少なくない。
そんななか話をしてくれたのが、東京・五反田の老舗「カフェ ビアンコ」店主の平山あきひさん。1988年の創業当初から現在まで全席喫煙可。タバコへのこだわりがあるのだろうか。

「吸えるんですか?」タバコOKの喫茶店に毎日問い合わせ、一服がてら1日に複数回来店も…店主たちに聞く“全席喫煙可”を続ける理由【改正健康増進法から3年】
飲食店など屋内での原則禁煙を義務化した改正健康増進法が2020年4月に施行されてから3年を迎える。愛煙家の“憩いの場”であった喫茶店やカフェでも多くの店舗が全席禁煙、あるいは分煙を選んだ。しかし、こうした時代の流れのなか、「全席喫煙OK」を続ける店もある。“吸える店”の考えはいかに?
喫茶店は「これまで通り、いつも通り」が大事

「カフェ ビアンコ」の平山あきひさん
「この店を始めたのは私の母親なんです。3年ほど前に天寿を全うしましたが、かなりのヘビースモーカーでした。でも、店を受け継いだ私も他のスタッフもタバコを吸わないんですよ。
個人的に喫煙にこだわったというわけではありません。それより、お客さんにはこれまで通り、いつも通りくつろいでほしい、という気持ちが強かった。喫茶店って、変わらないのが大切だと思うんです。
禁煙の法律が施行されることになった段階で、複雑な法律を理解するため、仕入れ先のコーヒー店の方や同業の喫茶店経営者らに話を聞いて、喫煙の許可を得た次第です」(平山さん)
店では、自家製の辛口カレーライスや鶏のから揚げといったランチメニューも先代と同じレシピで変わらない味を提供し続けている。喫煙についても同じくこれまで通り、というわけだ。

「吸えますか?」毎日3件の問い合わせ
喫煙できる店が減少した今、「タバコ吸えます」といった目立つ張り紙をしている飲食店も見かける。
そのほうが商売繁盛しそうだが、「ビアンコ」では入口の小さな掲示にとどめ、喫煙可を前面に打ち出しているわけではない。
「変わらない店であり続けたいという思いで喫煙の許可を取ったので、あえてそれをうたってはいなんです。
ここ数年の変化といえば、『タバコは吸えるんですか?』『紙タバコもOK?』と電話がかかってくること。毎日3件くらいは問い合わせがあります」

いまや都会では希少な喫煙スペース。一服がてら一日に数回、店を訪れる常連客もいるという。食事メニューの評判もあってランチタイムには満席になることも。
喫煙OKは店の回転率に影響出そうだが。
「創業時から食事処ではなく、くつろげる喫茶店としてやってきたので、ランチタイムでも時間制限などは設けていないんです。
待っているお客さんに『いつ席が空くかわからないんです』とスタッフが伝えるようにしていて。
すると、『一服できたから行くよ』とお客さんが席を譲ってくれたり、同じ会社の人を見かけたら誘い合って相席にしてくれたり、常連さんに助けていただきながらやってます」
そう話す平山さんが淹れてくれたコーヒーには一口チョコレートが添えられていた。このチョコのサービスもずっと変わらないのだとか。


非喫煙者も惹きつける喫茶文化
上野駅から歩いて3分。「喫茶 古城」の看板を目印にビルの階段を下っていくと、そこは別世界。特注のシャンデリアにステンドグラス、テーブルや椅子は中世ヨーロッパを思わせる。
「創業者が舶来品に強い憧れを抱いていたんですよ」と説明するのは店主の松井祥訓さん。
「昔の話ですが、この界隈は長屋も多く、みんな狭い部屋で暮らしていたから、ここを応接間代わりに使ってもらって、コーヒーとともにタバコを楽しんでゆっくりしてもらいたい。そんな先代から継いだ喫茶文化を大切にしながら店を続けています」
全席喫煙の店内は、そこかしこから煙が立ちのぼっているかと思えば、意外とそうでもない。
「喫煙者はお客さんの6割くらいなんです。法律施行の前後でもその割合はそんなに変わらない。
タバコの煙がどうしてもダメだって入口で引き返されるのはほとんどが高齢の方ですね。若い人はあらかじめネットで情報を仕入れてくるのか、文句を言われたことはないです」
改正健康増進法施行のタイミングで、分煙化も検討はしたのだという。
「考えたんですが、長年大切にしてきたインテリアが調和して喫茶空間が成り立っているので。
どこかを壊したり、新たにテイストの異なる合板や喫煙ルームをつくったならば、ヨーロッパ調の雰囲気が崩れてしまう。
導線の問題も大きいです。喫煙ルームを設置したら、配膳のために動き回るスタッフに加え、タバコを吸うために店内を移動するお客さんもいて、落ち着いてコーヒーを飲む場所でなくなってしまいます」
完全禁煙に振り切る道もあったのではないだろうか。
「全席禁煙にしてしまうと喫煙者は来られなくなってしまうでしょう。でも、従来通り全席喫煙なら、タバコを吸わなくても気にしない人ならくつろげる。
法律施行後、ほどなくしてコロナ禍になったから、全席喫煙の継続でお客さんの数にどれくらい影響しているのかはわかりませんが、今年に入ってから来客数は増えています。
コーヒー、ミルクセーキ、メロンソーダなどを飲みながら、店内の写真を撮ったり、おしゃべりしたり。タバコを吸う人も吸わない人も喫茶文化を楽しんでいただいているのかなと思います」
望まない受動喫煙は減らされるべきだが、タバコが喫茶文化の一部であることもまた確かなようだ。
取材・文/小林 悟
撮影/岡庭璃子
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