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クロちゃんちの10日目のお風呂より危険…? レジオネラ属菌検出の「大丸別荘」の何が問題だったのか。専門家が指摘する、温泉施設がプールより病原菌が増えやすいワケとは?
二日市温泉「大丸別荘」が浴槽の湯の張り替えを年に2回しか行っておらず、基準値の最大3700倍ものレジオネラ属菌が検出されていたことが判明した。この騒動を受けてあらためてクローズアップされた温泉施設の危険性。レジオネラ属菌の特性や毒性、塩素消毒や湯の交換といったケアがなぜ重要なのか。専門家に聞いた。
濾過循環装置がある温泉施設のほうが塩素注入が必要
話題のレジオネラ属菌。この危険性はいったいどこにあるのか。特定非営利活動法人「入浴施設衛生管理推進協議会」(浴衛協、本部・東京都渋谷区)の中島有二会長がレジオネラ属菌の特性や毒性、塩素消毒の必要性について解説する。

騒動を起こした大丸別荘の大浴場
――取材で「大丸別荘」の山田真社長は「塩素を注入しなかったのは塩素の匂いが自分の体質に合わず嫌いだった」と話していました。温泉施設において塩素はなぜ必要なのでしょうか。
「条例上の目的としては消毒です。病原菌を殺して感染症を防ぐ目的があり、水道水にも塩素が使われて消毒されています。お風呂では、人の体に付いている大腸菌などの雑菌が浴槽で増殖すると水が濁ってきます。塩素にはこの濁りを清浄化する効果があります。
大腸菌や一般雑菌というのは常在菌のように、初めからヒトの体にあるものなので、それほど問題になる菌ではありませんが、中には病原菌やウイルス系の菌が付いた状態で浴槽に持ち込んでしまう方もいます。
水に溶け込んだ菌が生きていると他の人に感染してしまうので、お湯に浸かった瞬間にその菌が死ぬほどの塩素濃度にする必要があるのです。お風呂を殺菌液の状態にしておけばお風呂での感染はなくなるというわけです」
――条例にある週1回以上お湯を取り替えないといけない理由はなぜですか。
「大前提として、週1回以上お湯を取り替えないといけない温泉というのは、濾過循環装置を取り付けている施設です。濾過循環装置というのは浴槽と濾過器を配管で結んで、濾過した綺麗な水を浴槽に戻すという装置です。

大丸別荘の濾過循環装置
これを通すと濁りは取り除かれるので、見かけ上お湯は綺麗になります。濾過循環装置がなければ濁り続けて不衛生なのが見てわかるので、毎日お湯を張り替えましょうとなります。循環濾過装置がついていれば、週1回程度の交換で見た目上は維持できるものの、菌の増殖自体は防げないので、先ほど説明したように塩素の注入が必要になります」
学校のプールのほうが温泉施設より衛生的
――塩素の代わりになるようなものは家庭用にもありますか。
「代わりは難しいですが、塩素の錠剤が100円ショップやホームセンターで20錠100円程度の安価で売られています。これを浴槽に落とせば十分消毒されますし、入浴後の洗濯などに利用するのも効果的だと思います。
温泉などに使われる塩素は業務用の液体です。温泉だと水質によっては塩素が効きにくいこともあるんです。お風呂のお湯に水道水を使っている街中の銭湯は塩素が完全に効いているのでレジオネラ菌の心配はありません。
温泉は国の基準で塩素濃度が0.4ppmを保っていればいいことになっていますが、温泉によっては塩素の殺菌力を弱めてしまう泉質もあります。大丸別荘の温泉も視察しましたが、pH値(ペーハー値、水素イオン濃度指数のこと。pH7が中性とされ、数字が大きいほどアルカリ性が強くなる)が8.7。ちょっと塩素が効きにくいので、水道水を基準としたら5倍から10倍の塩素を加えればよかったと思います」
――学校施設などのスイミングプールにも塩素を大量に入れて消毒していると思いますが、温泉施設との違いはありますか
「プールは実は汚染率がとても低いので、年に1回くらいしか水を入れ替えてないんです。水を抜くのはメンテナンスの時ぐらいで、衛生上頻繁に交換する必要がない。お風呂だと温かいお湯の中で体を擦ったりして皮脂も溶け出してきますが、プールの場合は容積が大きいし、泳ぐだけだからお風呂の比じゃないぐらい汚れが少ない。大きな濾過器もついているので見かけも綺麗ですし、塩素を入れれば問題ないわけです」

プールは意外にも衛生的に保たれている(※画像はイメージです)
――温泉やプールで懸念される小便やよだれ、皮脂などに塩素は効果があるんでしょうか。
「汗や脂、尿成分には塩素を消す効果がありますが、逆に言えば塩素を入れることによりそれらを相殺していることになります。プールの場合は尿などがそもそも懸念点なので、pHを一定に保ったり、脂分を除去するために水質管理のプロが常駐しています。
逆に温泉には水質管理のプロはいないので、その代わりに消毒とお湯の取り替えは徹底しましょうと決まっているわけです。そうすれば感染症の予防はできますから。
20年ぐらい前からレジオネラ菌というのが問題に浮上してきたんですけど、それ以前は菌を殺すために塩素を入れて、見かけの汚れだけを管理するだけで済んでいました」
レジオネラ属菌が温泉施設で増える理由は?
――レジオネラ属菌とはどのような菌なのでしょうか。
「レジオネラ属菌は塩素だけでは対策が難しい細菌で、お湯の入れ替えと洗浄が必要なんです。大腸菌はお湯で増えますけど、レジオネラ菌はお湯の中で増えるのではなく、微生物が作り出すヌルヌルのバイオフィルム(日本語で生物膜)という膜の中で増殖するんです。
微生物もお湯に浮かんでいるよりどこかにくっついていた方がラクなので、浴槽の内側などにくっついて膜を作っていく。レジオネラ菌は大体そのバイオフィルムの中に住んでいます。
バイオフィルムの中には微生物でも有名なアメーバも住んでいて、レジオネラ菌はアメーバに捕食されて体内で増殖し、そのためパンパンに膨らんだアメーバが打ち水などの衝撃で割れて一気にレジオネラ菌が外に放出されるんです。
レジオネラ菌は割れたアメーバの外膜をまとっているから殺菌剤の影響も受けないので、そこらじゅうに舞ってエアロゾルとなって感染するわけです。
1匹のレジオネラ菌がアメーバの中で約1000匹に増えると言われています。肺の中にはマクロファージというアメーバのように微生物を食べて殺す細胞があるのですけど、レジオネラ菌はマクロファージにも勝ってしまう。バイオフィルムで起きていた事象が肺の中で起こるわけですね。
そうなると血液にレジオネラ菌がまわって高熱が出たり、脳までいくと意識が朦朧としてきたり、そもそもマクロファージが弱まると肺の機能が落ちるので他の細菌にもやられて肺胞が崩れて壊死の可能性もあり、そうなると呼吸困難や脳への障害の危険もあります。

記者会見を開いた「大丸別荘」の山田真社長
レジオネラ菌が増えやすい環境というのが37℃から40℃ですから、ちょうどお風呂の温度で、そこに寄生先のアメーバもいるし条件が整ってるんです。
大丸別荘の件では、問題はお湯の取り替えだけでなく、お湯を抜いて浴槽を徹底的に洗浄することが重要だったわけです。今回のレジオネラ菌が基準値の3700倍というのは、100ccの中にレジオネラ菌が37000匹いるという計算になるので、かなり汚染されていますし、感染の可能性も高い数値です」
大丸別荘の風呂湯はクロちゃん宅の風呂湯より危険だった?
――安田大サーカスのクロちゃんはお風呂のお湯を10日以上入れ替えないと告白して話題となりました。家庭の浴槽で10日に1回しかお湯を替えない場合の危険性や汚さはどうでしょうか。
「塩素の効いた水道水で沸かしているでしょうし、今の浴槽はツルツルしていてバイオフィルムも出来にくいのでレジオネラ菌の心配はありません。もちろん濾過されていないと見た目は濁るでしょうけど。しかし、追い焚き機能があるものは配管の中に雑菌が溜まってしまいます。配管なんて普段清掃しませんから、菌がかなり繁殖していると思われます」
ちゃぷちゃぷガーガー pic.twitter.com/Nu8FbRfkBy
— 安田大サーカス クロちゃん (@kurochan96wawa) January 22, 2023
クロちゃんが投稿した入浴画像。お湯は明らかに濁っているが、入浴剤によるものではないという(Twitterより)
――10日に1回しか替えないお風呂と大丸別荘のお風呂はどちらの方が汚いですか。
「体から出た脂や垢での汚れと微生物によってできる汚れは種類が違うので、一概に比較するのは難しいですね。見た目の綺麗さで言えば濾過されていた大丸別荘かもしれないですけど、確実にぬめりはあったでしょう。逆に家のお風呂だと目に見えて濁りますが、レジオネラ菌はそこには基本いないので、どちらが危険かといえば大丸別荘のお風呂になります。

「大丸別荘」の外観。クロちゃんの入っている10日目のお湯より危険だった可能性も…
温泉は地中にある時は無酸素なので菌はありませんけど、タンクに吸い上げられる時に菌が入り込むので完全に綺麗とはいえないんです。それと一般の浴槽だと大腸菌などの微生物が増殖しても危険はなく、微生物も1日で飽和状態になってその後9日間は増えません。一般的な家庭の浴槽はツルツルしているからですね。
反対に温泉施設の岩風呂やザラザラしたタイルの表面はバイオフィルムができやすいので、菌の温床になりやすいといえます」
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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